Vol.48「最高」をイメージするか、「最悪」を想定するか ~プロ野球日本シリーズ~

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2020/12/01 10:51

 コロナ禍の影響で、異例のシーズンとなった今年のプロ野球。最後の日本シリーズは、セントラルリーグを独走で制した読売ジャイアンツと、終盤、抜群の勝負強さを見せて、リーグ、クライマックスシリーズを勝ち抜いたソフトバンクホークス。2年連続の同じ顔合わせとなった。しかし、フタを開ければ、今年もホークスの勢いの前に、ジャイアンツはなすすべもなく4連敗。ポイントとなったのは、短期決戦の怖さと両チームのエースが激突した第一戦。巨人の大黒柱の菅野智之投手の攻略だった。短期決戦を勝ち切る、ホークスの恐ろしいほどの強さの秘密と一球の怖さを思い知らされた特別な年の日本シリーズをMBS宮前解説委員が読み解く。

 コロナ禍の影響で、異例のシーズンとなった今年のプロ野球。最後の日本シリーズは、セントラルリーグを独走で制した読売ジャイアンツと、終盤、抜群の勝負強さを見せて、リーグ、クライマックスシリーズを勝ち抜いたソフトバンクホークス。2年連続の同じ顔合わせとなった。
 
 昨年は、ソフトバンクが一気の4連勝。屈辱の結果にリベンジを期したジャイアンツだったが、ふたを開けてみれば、今年もホークスの勢いの前に、なすすべもなく4連敗。日本シリーズ12連勝と驚異の記録を打ち立てたソフトバンクの強さを証明する形となった。

 勿論、フィジカルも含めた両チームの力の差もある。だが、プロの世界、そこまで一方的な展開になるほどの大きな違いはない。ポイントとなったのは、短期決戦の怖さと両チームのエースが激突した第一戦、大阪で開かれた巨人のホームゲームでの戦いぶりだった。この試合、巨人は、大黒柱の菅野智之投手が先発。シーズン開幕から13連勝したエースをたてて負けるわけにいかない。実際、菅野投手も、立ち上がりから力強い投球でホークス打線を抑え込む。

 ところが、2回、ノーアウト1塁で、日本シリーズ初スタメンの栗原陵矢選手を迎えた場面。ここでの投球が、両チームの勢いを決定づける。この場面、キャッチャーの大城卓三選手は、ダブルプレーを狙って決め球のインコースへのスライダーのサインを続けて送る。ロッテとのクライマックスシリーズでノーヒットに終わっていた打者を相手に、「最高」の結果をイメージしたうえで、ウイニングショットを要求し続けたのだ。初球は、高めに抜けてボール。続く2球目も抑えが効かずボール。ストライクゾーンへの意識が高くなり甘く入った3球目。同じ軌道の投球を見続けた栗原選手は、最後の1球をフルスイング。シリーズの勢いを決定づける先制ホームランを叩き込んだ。「この一打で、緊張がとけて集中して打ちにいけるようになった。」栗原選手は、6回の第3打席では、徹底して外角を攻めてきた投球を読み切って、貴重な2点タイムリー。ジャイアンツの精神的支柱である菅野投手を降板に追い込んだ。

 一方のホークスは、シーズンで防御率、最多勝、最多奪三振の3冠に輝いた千賀滉大投手が先発。球威は十分も、序盤は制球が定まらずランナーを出す苦しい展開。それでも甲斐拓也捕手は、細心の注意を払いリードを続けた。常に「最悪」を想定しながら、ピンチを最小限に食い止め7回を無失点、勝利を呼び込んだ。

 初戦の快勝で勢いづいたホークスは、続く第2戦、打線が爆発して大勝。第3戦も、勝利への執念をみせた戦いぶりでものにする。この試合では、7回までノーヒットピッチングを続けていた先発のムーア投手を、あっさり交代。8回モイネロ投手、9回守護神の森唯斗投手とつないでリードを守り切った。そして第4戦、柳田悠岐選手の豪快な一発で逆転すると、まさに一撃必殺。7人の投手をつなぐ盤石のリレーで一度もジャイアンツに主導権を握らせず、日本一の栄冠にたどり着いた。

 両チームの勢いを決定づけた栗原選手への1球。一度傾いた流れを絶対に渡さない、ソフトバンクの徹底した戦いぶり。短期決戦を勝ち切る、ホークスの恐ろしいほどの強さの秘密と一球の怖さを思い知らされた特別な年の日本シリーズだった。

MBSスポーツ局解説委員 宮前徳弘

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