ロシアによるウクライナ侵攻。日本がロシアに対して経済制裁を行う一方で、国内では木材や銀歯の原料などの価格が高騰するなどし、関西の企業にも少しずつ影響が出始めています。ロシアに翻弄される大阪の企業などを取材しました。
中古車部品の貿易会社…一番の懸念は「制裁でいつまで送金できるか」
ロシア語で電話をする、大阪市内で貿易会社「トライデント」を営む岩佐毅さん(79)。ロシア・ウラジオストクの中古車部品販売店の経営者と電話をしていました。
(電話で話す岩佐毅社長)
「こんにちわ、岩佐です。明日、彼と工場に行くんですね。じゃあ午後に行きましょうか」
岩佐さんは国内の自動車スクラップ工場からエンジンやバンパーなどの部品を調達し、ロシア企業へ輸出しています。
(貿易会社トライデント 岩佐毅社長)
「これが客とのやりとりなんです、メールね。ウラジオストクの銀行『プリモリエバンク』っていうんですけれども。送金をお願いする依頼書ですね。向こうが受け付けたらハンコを押してサインをしているわけです」
ウクライナ侵攻による制裁で、日本からロシアへ600万円を超える車の輸出は禁止されていますが、中古車部品の多くは制裁の対象ではありません。
(貿易会社トライデント 岩佐毅社長)
「外貨を凍結されているでしょ、経済制裁で。その影響が出てくるとロシアで外貨不足が起きてきますよね。そういう時に送金がスムーズに行えるかどうかわかりません」
岩佐さんが最も気にかけていたのが、「送金のやりとりがいつまでできるか」でした。
世界の主要な銀行同士が取り引きができる金融決済ネットワーク「SWIFT」。ロシアには約300の銀行がありますが、日本はロシアへの制裁として第2の大手銀行「VTB銀行」など、大手7行をSWIFTから除外しています。
岩佐さんの会社が取り引きしている銀行はまだ制裁の対象外で、なんとか取り引きは続けられていると言います。
(貿易会社トライデント 岩佐毅社長)
「これだけの戦争をするとは私は予想もしていなかったですね。ビジネスという前にそれが非常に憂鬱ですね。薄氷踏むような気持ちですよ、はっきり言って。いつどうなるか分からないというか」
ウクライナでの出来事に複雑な思いを抱えながら、ビジネスを続けざるを得ない現実もあるのです。
ロシア人バイヤー『とにかくことが収まるのを待つだけ』
4月3日、岩佐さんは京都府八幡市の自動車スクラップ工場を訪れました。同行していたのは、ウラジオストクで中古車部品販売店を経営しているロシア人のロマン・ドツェンコさん(44)です。この日は自動車部品の買い付けに来ていました。
(ロマン・ドツェンコさん)
「必要なエンジンはマークして、ばらしてロシアに送ります。ロシアではトヨタが多いです」
ロマンさんはロシアと日本を行き来していて、中古車部品のバイヤーも担っています。本国に送りたい部品を吟味するロマンさん。
この工場ではロシアの企業3社に対して、岩佐さんの会社などを通して1か月で60台ほどのエンジンを輸出しているといいます。
(自動車スクラップ工場の社長)
「ロシアも出ていますよ。うちは(ロシアに)3割ぐらい出ています。タイヤなんかでも半分くらい出る」
取材班がロマンさんにウクライナ侵攻のことを尋ねると、次のように話しました。
(ロマン・ドツェンコさん)
「とてもショックを受けました。でも、私たちは普通の一般市民ですから何もできません。とても大きな政治の情勢ですから。私たちに意見なんか聞く人は誰もいません。とにかく我々はことが収まるのを待つだけです」
“一部のロシア産木材の輸入禁止”がウッドショックに追い打ちをかける
ロシアへの制裁で私たちの生活に直接影響を及ぼす可能性も…。大阪市港区にある「大阪木材相互市場」では、アカマツなど取り扱う輸入木材のうち約2割をロシアに頼っています
。
(大阪木材相互市場 伊藤正雄社長)
「これがアカマツなんです、天井の下地材に使われる。これはロシア材」
仕入れに来た木材加工会社「津村材木店」の津村芳雄さん(48)は、木材の価格はあがり続けていると言います。
(津村材木店 津村芳雄社長)
「ウッドショックがあって、そこからじりじりと上がってきていて。ちょっと止まっていた感じもあるんですけど、先々がどうなるかは予測がつきません。『何してくれとんねん』って正直思いますね。とりあえず早くロシア撤退してくれれば」
1年ほど前からアメリカで木材の需要が増加したことなどで価格が高騰。「ウッドショック」と呼ばれていて、その上、ウクライナ侵攻が追い打ちをかけるかもしれないというのです。
(岸田文雄総理 4月8日)
「機械類・一部木材・ウォッカなどのロシアからの輸入について、来週これを禁止する措置を導入します」
4月8日、日本政府が一部のロシア産木材の輸入を禁止すると発表しました。ロシア産の木材は、流通などを管理する国際機関が武力紛争に関わる政権が取り引きする「紛争木材」にあたるとの声明を出しました。
(大阪木材相互市場 伊藤正雄社長)
「『紛争木材』になったということは、コンプライアンス違反をしたくないという大手のハウスメーカーやゼネコンは使えないかなと。たちまち家が建たないとか、そういうパニックにはならないと私は思います」
今後、住宅の建築コストが増えるかもしれないというリスク。
銀歯の原料「パラジウム」も高騰…5月からは患者負担額も増加へ
そんな中、すでに値上げが決まった身近なモノもあります。
歯の治療で使われる銀歯の原料となる「パラジウム」。輸入全体の約3割がロシアからで、供給不安で価格が高騰しているといいます。
(大森歯科メンテナンスクリニック 大森寛之院長)
「元の原料は金属の板。型を取ったものから模型を起こして、その人の歯の形にあった銀歯を作る」
(大森歯科メンテナンスクリニック 大森寛之院長)
「特に戦争が始まってからすぐに値上がりしてしまったので。診療報酬の改定もあるけれども仕入れ代が高いので経営をひっ迫する一因になっている」
この歯科医院では、銀歯1本作るのに必要な費用は約1万6000円。一方、診療報酬は1万5000円と赤字に…。こうした事態を受けて厚生労働省は4月13日、銀歯の診療報酬を臨時で引き上げることを決定。5月からは、患者負担は数百円程度増える見込みです。
『プーチンが主として維持される限り制裁は続けられる可能性がある』
ウクライナ侵攻の影響が忍び寄る中、こうした事態はいつまで続くのでしょうか。専門家は次のように話します。
(大和大学社会学部 佐々木正明教授)
「(侵攻が)終わったとしてもプーチンがクレムリンの主としてずっと維持される限り、制裁は続けられる可能性があります。これは年単位ではないかと。家計は苦しくなるといいますが、(侵攻を)許してもいいのかという。我々一人ひとりに問われている」