第76回 玉置洋行

先のこと考えてないから、この世界に入ってこれたんかなあ、と。


―金の卵8個目ですが、お笑いを目指されたきっかけは?

お笑いを目指そうという気はなかった、ですね。お笑いは好きで、もちろんよしもと新喜劇は小さい頃から見てましたし。お笑い番組は見てました。
(学校のクラスの中でひょうきん者とか…)
普通の学生でしたね。騒ぐわけではなく、暗かったわけでもなく。
(そんな玉置さんが、またなぜ、新喜劇に?)
僕、前職が中央市場で魚売ってまして…。
(あ、魚?)
大阪の中央卸売市場で魚の即売やってまして。大学卒業してから7年半ですかね、勤めさせていただいて。ちょうど30歳になる年に、この先あんまり人生設計もなく、このままずっと魚売っていくのも…と思った時に、新喜劇のオーディションをネットで見たんです。たまたま誰かと飲みに行く時に、漫画喫茶で時間つぶしてて、新喜劇のHP見たら金の卵オーディションの告知をやってて。僕、大学の時に落語研究会入ってて、同期が金の卵何個目かを受けたことあるんですよ。「あ、これ(同期が)受けてるやつやな」と。で、〆切見たら次の日やったんです。どうしよう、受けるくらいなら「会社に言わんでもいいか~」と思って、応募して、オーディション受けさせていただいたら、何か受かっていくもんで、気づいたら受かってた、と(笑)
(ふふふふ)
なんか物事が上手いこと行く時って、こんなにトントントントン進むもんかな、というのは初めてで。今までそんなことなかったですから。

―結婚して落ち着こうとかは?

その時に付き合っていた人もいなかったですし、僕もそんなに人生設計立てずに、ぐうたらに生きてたので。せっかく受からせてもらったし、入ってやってみようかな、と。
(かなりの人数が受けてるなかで、特技披露は?)
僕、市場でセリの売り子の方をやってたんです。皆さんが値段を出していく中で、一番高値の人を当てて行くという。そのセリをやります、と言って。その当時、仕事終わりにオーディションに行っていたので、ほんまに魚屋の作業着で。
(あははは~リアルですね)
「やりま~す」って、やったら思いのほか、審査員の方にちょっと喜んでもらえて(笑)
(ウケた、と)
ウケたかどうかはわからないんですけど、「そういうのもあるんですね」みたいな感じでした。
(お芝居のオーディションもありますよね、演技経験は?)
いえ、全然。大学の時に落研で落語をしてたくらいで。僕、落語もそんなにやりたくてやってるわけではなかったんで…。
(何で落研入ったんですか?)
僕、もともと…あの、落語の字って、ご存知でしょうか?
(勘亭流みたいな?)
あれが好きやったもんで。
(あ、そっちですか?(笑))
落語研究会やから、舞台もあるから落語もせなあかん、と。でも基本的に4年間、ほとんど字しか書いてないです。ほぼほぼ字書きながら、落語も一応は。
(字を書く方に弟子入りとかは?)
それは考えなかったですね。僕も詳しくその世界は知らないんですけど、橘流という書き文字があって、東京が主流ですから。僕はつてもなにもわかりませんし、趣味程度で書く分にはいいかな、と。職業としてやるのは難しいと思って。
(また何で寄席文字なんですか?)
子どもの頃から落語とか見る機会があって、ああいう字を書きたいという思いはあったんです。たまたま関西大学入って、落語研究会があって。「字も書けますよ」と聞いた時に、もしかしたら、書きたい字が書けるかもしれない、と思って。字だけは4年間飽きることなく書いてました。
(注:「寄席文字」は江戸時代に盛んに使用された図案文字の1種。代表的なものに歌舞伎の「芝居文字」(勘亭流)、「相撲字」(根岸流)などがある)

―お芝居のオーディションはいかがでした?

台本が1週間くらい前に郵送されてきて、1組7人くらいでやるんですが、どの役に当たるかわからないので、全部覚えないといけない。とりあえず、覚えるしかない。学生時代の落語も覚えるのがものすごく遅くて。1週間以上かかってやっとでした。一生懸命覚えて、とりあえず頭の中に入れて。落研の時の同期にもちょっと手伝ってもらったりしてて、挑んだんですけど。上手いこと出来たかどうかは全然わからないです。ははははは(笑)
(勤めていた会社には?)
1次試験を受ける前に、課長だけに話したら「おもしろそうやん」と。課長も最初、受かるとは思ってないですから。「受かった」「受かった」「受かった」「最終審査、受かりました。課長、会社辞めるわ」「そうか~じゃあ、部長に言おうか」って。
(はははは)
課長には感謝してます。オーディションから会社を辞めるまでの半年間、ものすごい物事が人生の中で一番スムーズに行ったんと違いますか。何か不思議な感じでしたね。

―定職から新喜劇に入られて、不安はありました?

ずっと中央市場やったんで、朝が早かったんですね。朝の3時出社で、昼過ぎの2時~3時くらいまで働いて。睡眠時間が7年半、たぶん普通の人に比べたら少なかったと思うんです。1日4~5時間だったと思うんです。ま、飲みに行ったりして自分で睡眠時間減らしてたのもありますけど。僕らは特に鮮魚部という生の魚を扱ってたんで。だから辞めた時は、「あ、久しぶりにたくさん寝れた!」と思いました。辞めた不安より、夜暗くなって寝て、朝起きて、日の当たっている間に活動するってこういう感覚やったんやなと。不安が出て来たのはもう少し先で。最初1か月くらいは「ゆっくり寝れる! うれしい!」でした。

―全く違う世界で戸惑われたことは?

5月に入団して、金の卵ライブが10月14日にありまして、新喜劇の本公演に出せてもらったのが、12月。祇園花月の辻本さんの週でした。戸惑いといえば、戸惑いの連続なんですけど、中央市場ってあんまり、敬語とかいうのが強くないというか。もちろん、先輩は立てますけど。あいさつは、上下関係なく、「おっす!」。課長にも敬語やけどタメ口みたいな。「課長、これどないしたらええんかな?」とか「~すんの?」とか。新喜劇は完全な厳しい上下関係ですから。だから最初の戸惑いは敬語ですよね。今でも僕たまに先輩に呼ばれて、「ん?」とか言ってますけど。あはははは。あとは遅刻しないとか。市場の時は、朝の仕事やったんで、けっこう遅刻も多かったんです…(笑) けっこうぐうたらな奴やったんで。どこの世界でも社会人ですから、職業は違えども変わりませんね。もっと変わった世界かなと思ったら、そんなに大きなギャップを感じることはなかったです。

―初舞台は覚えてますか?

はい、覚えてます。借金をして逃げるんですけど、お金をかき集めて来て、最後に先輩に謝りに来るという。ちょっとしたセリフもありました。上手くいったかどうかもわからず、何が何だかわからんうちに終わった感じですね。1週間があっという間に終わりました。
(印象に残っている舞台は?)
その次に辻本さんの週でNGKに入った時、バレエダンサーの役で。数秒間だけ、「梅干しキャッチ」の時に出るだけなんですが、印象的というか。舞台上で、自分の身体の一部を露わにしないといけない、という経験が今までなかったものですから。抵抗はありました。出る前は緊張しましたけど。ま、踊るだけなんで。ちょっと照れましたけど、1回出たら、その後は何の抵抗もなかったです。

―「やらかしちゃった!」ことは?

それはもう、たくさんあります。セリフ覚えも悪いですし、よく噛みますしね。よく滑舌悪いって怒られます。失敗だらけなんで…。
(教えてくれる先輩とかは?)
皆さん、よく教えてくださいますけど、辻本さんの週によく出させてもらっているので、座長をはじめ、アキさん、森田展義さん、一緒に出てる先輩には教えてもらってますね。一番よく言われるのは、「噛むな!」ですけど…(笑)

―あの「クリリン」はいきなり生まれたんですか?

あれは、そうですね、いきなりですね。僕も言われたら、「誰がクリリンやねん!」って言うしかないですよね。
(あはははは)
あれもNGKでヤクザ役の時ですか、辻本さんが急に「なんやクリリン!」って言って来られて…。
(ドキドキですよね~)
今でもドキドキしてます。
(ヤクザの「合わせて○千万!」のオチを振られることも…)
いろんな方々のお膳立てがあって、あそこがウケるようになってますから、なるべくウケるようにしようとしてます。でも、もう万策尽きてます。

―新喜劇と言えば、お芝居とギャグですが、ご自身は?

もちろん、ギャグも何か出来たらという気持ちはあるんですが、まずはきっちりお芝居から。僕自身がいろんなギャグ作って、ギャグマシーンのように出来るかというと出来ないと思いますし。やっぱりお芝居から演技の勉強して。お笑いの劇なんで、間とか、声のトーンとか、いろいろ勉強することがあると思うんです。ありがたいことに、舞台に立たせてもらっているので、そういうのをちゃんとやって行った方がいいかな、と思うんです。演技も上手くなりたいんですけど、ただその前にまず滑舌が上手くなりたい…(笑)
(はははは)
演技の前の基礎が出来てないというのは一番ダメなもんで…。でも、お芝居が出来る役者さんには、なって行きたいなと思っております。
(やってみたい役柄とかは?)
いろんな役をしたいです。やったことのない役もしたいですし、警官の役とかもそうですけど、決まっている役、基本的な役をひととおり全部やってみて、何が来ても全部出来るように。たまに今回みたいなストーカーの役みたいな変わったものとかもやって。まずはいろんな役にチャレンジといいますか、やってみたいですね。
(3年目ですから、まだこれからですね)
性格的に向いてないのか、人生で先のこと考えたこと1回もないんですよ。
(あんまり考えないタイプ?)
先のことは考えないですね。でも考えてないからこそ、この世界に入ってこれたんかなあ、と思います。たぶん、先々のこと考えてたら、30歳になる時に、もっと貯金ありましたもん。退職金は10年以上働かないと高くならないんで、聞いた時、ガッカリするほどで。だからこそ、オーディション受けて、会社を簡単に辞めてしまうっていうことを選べたかもしれないですね。

―プライベートでの趣味とかは?

僕、趣味っていうものがないんですよ。友達や、1人でもご飯食べに行ったり飲みに行ったりするのは好きなんですが。あとは、寄席文字ぐらいですかね。
(いまだに書かれる?)
ごくたまに書くことあります。大学時代の人から頼まれたら書きますし。
(なんか活かせそうな気が…)
いえいえ。松浦景子みたいにバレエ踊れるのならともかく。書くだけで、プロでもないし、下手の横好きみたいなことでやってるんで。
(ほかには何か?)
今、レンタカー屋でバイトしてるんですけど、車は好きですね。車種はどうでもよくて、ドライブですね。今はもう遠出はしないですけど。辞めた時に時間が有り余っていたので、軽自動車で東京まで下道で行きました。1回しか休憩せずに、和歌山から東京まで11時間半かかりましたね。夜中の2時半くらいに着いて、築地の駐車場で…。
(あははは。築地。そこに行ってしまうんですね~(笑))
やっぱりね、東京行ったら、必ず築地行くんですよ。築地行って魚見て、築地の駐車場で3時間くらい寝て、そのまま何もせずに、また和歌山へ帰って行くっていう。滞在時間3時間。寝るだけに行ったみたいな(笑)
(築地では何も食べなかったんですか?)
寿司食べましたよ。築地の中のおいしいお寿司屋さんでちょっとだけ食べて…。
(築地にわざわざ寿司食べに行くって粋じゃないですか~)
帰りは下道がさすがにしんどくなって、途中で高速使いました。
(ご出身の和歌山にもいい魚がありそうな…)
でも僕、魚に携わるのは市場からなんです。それまでは魚とか知らなかったんで。和歌山でも岩出っていう紀の川沿いなんです。海沿いじゃないんですね。
(それなのに中央市場に就職?)
実は、大学の時も就活したくなかったんですよ。嫌やな、めんどくさいな、って。夏に旅行が待ってたんで、早いこと終わらさなあかん。だから僕、受けたの8社くらいなんです。市場やったら、食いっぱぐれることない、食材あるからと思って。それに普通やったら小難しいこと聞いてくるじゃないですか。「弊社を志望した理由はなんですか?」とか。それで答えられなくて落ちて来て。市場は「君は体力に自信あるかな?」「はい」「朝早いけど大丈夫?」「起きれます」で合格。だから、僕、人生であんまり頑張ったな、ということがないんですね。のらりくらりと生きて来たんで。
(これから頑張ってください、新喜劇で!)

2018年2月19日談