MBS(毎日放送)

すっちー

3月1日に迎える吉本新喜劇65周年記念日を前に、すっちー座長にお話を伺いました。すっちーさんは2007年10月、新喜劇に入団。2014年に座長に就任し、現4座長のなかで最長となります。座長歴10年を迎えるすっちーさんがいま新喜劇に思うこととは?

―3月に吉本新喜劇が65周年を迎えますが、現在の心境を教えて下さい。

僕が新喜劇に入らせていただいた次の年が50周年やったかな。すごいなって思っていたんですけど、そこから、もうそれだけ月日が流れたんやな。65周年かぁ。50周年、55周年と5年ずつやってるじゃないですか。60周年ワールドツアーとかも回ったりして、早いなあというのが一番の印象かな。60周年は座長になってからのツアーやったので、すごい印象に残ってます。

―現4座長の中では最長ですね、座長を引っ張っていくという心持ちですか?

引っ張っていくというか、「自分がしっかりしとかんとな」っていうか、「すちがこんなんやったし、これでええか」と思われたら嫌なので。だからどんどん新しいことをしていくのが基準というか、これぐらい当たり前ですよという風に攻めておかんと。みんなやっているとは思うんですけどね、一応頑張っています。

―すっちーさんが座長になられて10年ですね。

座長は10何年とかやっていた人もいっぱいいるので、まだまだ勉強中というか、未だに「こうやっておくべきやったな」とか、「次やる時はもっとこうしよう」とか思うし、色んなパターンのお話をやりたいので「次やるときはもっとこうしよう」とか考えますね。 新喜劇って「マンネリ」とか、「分かっていても笑える」とかすごく言っていただけるんですけど、そこの部分に甘えちゃうとダメなんだろうなって。やっぱり「どうなるんだろう?」「今回はどんな展開なんやろう?」という、安心プラスの“ドキドキ”や“ハラハラ”も無いと駄目なので、その辺のバランスとして、定番のギャグ&定番のノリも必要ですけど、お話は一回一回新しいものにしたい。どうしても似たようなものとか、前にやった設定とちょっと被るとかは出てくるんですけど、それでも「なるべく初めて見るものをやりたい」というのはあるので、ほんまずっと打ち合わせをしているなという感じです。いや、ほんまに座長になってずっと打合せやってるわ!(笑)

―そんなに打合せが多いんですか?

落ち着く時がないというか。9月10月ぐらいになってくると年末のことを考えるし、年末はちょっとバタバタするじゃないですか。年末やっと落ち着いたかなと思った頃に、今回の新喜劇(65周年記念公演)の話がきたので、「あぁ」みたいな。何となく自分で予定を立てて、いろいろ組み立てるんですけど、そこにバンっと突然入ってくるので、予定をまた繰り上げてとか、今も「やっぱり4月をどうしよう」とかっていう感じになっているので、ずっと考えているな。漫才師の時より考えてますね。

―座長ならではの大変さでしょうか…アキさん、吉田裕さんが座長に就任された会見時に、すっちーさんが「ようこそ地獄の1丁目へ」と声をかけられていたのが印象的でした。

いや、ほんまそうですね。大変ですよって。サボれないです。まずお話作る打ち合わせをサボっちゃうと、ほんまに舞台の時にしっぺ返しがくるというか。座員の皆さんをスベらせる訳にいかんし、僕がおもろなかったじゃなくて、「今日の新喜劇がおもろなかったね」ってなるんで。「新喜劇おもろない」ってなったら、もうそれは65年の歴史に泥を塗ることなので、そこは頑張らんと。だからといって同じことばかりやっていてもあかんし、攻めながら守りながら。いわゆる世間から求められているもの、そして新喜劇のイメージは人それぞれあると思うんですけど「その平均がどんなものか?」などを考えつつ、ちょっとベタなのをしようかなと思ったりもします。だから、ずっと考えてる、しんどいなっていう(笑)。 たまに吉田(裕)とロケとかで一緒になる時には、「どう?」って進行状況を聞くんですよ。「いま、何月分に取り掛かってます」とか、結構早めにやっているので、「ああ、ええことやな」と思って。彼も「大変です」とは言っているので、まぁそこは頑張ってもらわないとね。座長さんたち、皆さん頑張ってると思います。

―先日の新喜劇では須知井留シャタオのキャラを久しぶりに見た気がしました。

はい、めっちゃ久しぶりにやりました。やっぱり好きなんですよね! 須知井留シャタオをやっている時が一番好きですね。「楽しいな~」と思って。あと、僕は携帯のメモとかに何となく面白いなっていうのをめっちゃメモするんですよ。最近でいうと“金貸しのおっさん”というキャラを考えて、でも「これは新喜劇にはどうなんやろな?」と。いつも思うのは、「こんなんええかな」と思っても、新喜劇にうまいこと落とし込めないキャラは無理だと思うんですよね。 それが難しいところで、「コントでやったらオモロいからできるかな。でも新喜劇で表現するとなると、ちょっと無理あるか」とか、そのあたりは、“新喜劇”を基準に考えています。若い子たちにも言うんですけど、みんな『R-1グランプリ(KTV)』であったりとか、『キングオブコント(TBS)』出たりとか、それぞれ頑張っているじゃないですか。『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ(CX)』とか、何でもちょこちょこちょこっと出ていくんですけど、「『さあ、それを新喜劇で生かすとなった時にどうするねん?』というのはめっちゃ考えてな」とは言っているんですね。

―そんなやりとりがあるんですね?

例えば岡田直子ちゃんの「普段女子力のない子から不意に女が出る瞬間」のネタ、最初あのまま芝居でやっていましたけど、芝居としてはおかしいじゃないですか?それで、岡田と「あれ、あのままでは新喜劇しんどいよな」って喋ったことがあるんです。「新喜劇の中で入れるとしたらどうかな?俺も考えるけど、自分も考えなアカンで」と。 で、「いっぺんちょっとやらしてほしいのがある」って岡田に言って。新喜劇の中で、すごくぶっきらぼうな子(岡田)がバーッと来て、それで何かを持った時に「あん」て言う。「何今の?」っていうところから始まって。たまに女子力が出てまうみたいなのを何回もやる。「もうええわ」となった後に、次にマドンナの子に持たせたら「おーう!」みたいな急に“男”が出てしまうんですよ。それをやると、マドンナの子の方がめっちゃウケちゃうんですよ。岡田はフリになってしまうけど、「でもそういうことじゃない?」って。岡田より、ここでウケてお芝居としては成立なんですね。まぁ、“お芝居”まではいかへんか、“ひとくだり”かな。 新喜劇の45分の中でやるんやったらどうやろうな。オープニングのちょっとしたところやったら使えるやろうけど、話の全体では難しい、引っ張れないからちょっと変えよう。「あ、これ、何やったらお話1本の大きな(話の)筋として使えたりするんちゃう」とか、新喜劇にどう落とし込むかが大事かなと考えたりとか。やっぱり“新喜劇の頭”になってきましたね。

―さて、今回の記念公演はすっちーさんが台本を担当されます。24人の座員さんが出演すると発表されています。

そう、だからこれが大変で! まずキャストありきの台本を書くってめっちゃムズいんですよ。普段は「どんな話にしようかな?」「こんな流れやったらこの人かな?」「こういうお話になるとしたら、こういう人がいいよね」という流れ。例えば、マドンナが「すごい天真爛漫な朝ドラのヒロインみたいな役が良いね」となったらこの子。「親に結婚を反対されててちょっと影がある役が良いね」となったらこの子だね、こっちじゃないよねって進めていくんですけど。今回は、もう「これで」っていう食材が決まってて、「これで料理を作ってください」なのでちょっと大変でしたね。

―舞台の設定は? 例えば花月うどんとか。

そう、うどんにしました! 65年続く老舗のうどん屋っていうことにはしました。65周年ということはどこかで絡めたいなと思ったので、65年続くうどん屋さんが、さあ、今後どうしていくんだろうっていう話にしようかと。普段は1週間かけて火水木金で土曜日に収録。まぁまぁ猶予があるんですが、今回は1発やし(1日夜の公演)。一発ものなんで、次の日に放送じゃないですか。いやもうそこが怖くて。

―放送を楽しみにしておられる方も多いと思います。

新喜劇って毎日放送さんの土曜お昼の放送があることって、すごくもうありがたいというか。これがあるから「劇場に観に行こう」ってなってくれていると思うんで、だいぶ大きいと思うんですよね。
漫才師の方々がいっぱい出て人気者もいるしで、なんばグランド花月に行こうっていうのもあるし、プラス新喜劇を見に行こうという方もいらっしゃる。その方は何で新喜劇を見に行こうってなるかというと、その一つはやっぱり、放送されているからというのがあると思うんですよ。だから、そこにちゃんと『ええモノ』を持っていくというのはすごく大事なことだと思っています。

65年という歴史があるからこそ大事にせなあかんものがあって、急な方向転換をするわけにはいかないというのも吉本新喜劇だと思うんですよね。新喜劇のイメージって「ほんわかほんわか♪」で幕が開いて、皆さんのイメージって花月うどんやったりするやろうし、ベテランさんの往年のギャグもあるやろうし。いや、「もういつもと一緒やろ」と思っている人には何かパンと新たなエッセンスも効かせなあかんし、お話を通して何か最後にちょっとホロっと涙できるようなものも必要やったりするし、ハチャメチャなようでハチャメチャだけやったらあかんし、(話の)筋もいるし、って考えると、10年座長をやらせてもらって、色々携わってもう65周年という時に、「ああ、まだまだ色々やらなあかんことあんねんな」っていうか、奥深いなって。みんなから愛されているものを今背負う立場でやらせてもらうってことは、とても大変だなと再認識しています。

―すっちーさんの今年の新年の抱負は「広げる」でした。

やっぱりいろんな人に見てもらいたいな。テレビでぱっと見て、新喜劇おもろいなって思ってもらうことも大事だし、劇場に来て観る新喜劇も全然違うし。劇場にまだ来たことない人に劇場に来てもらいたい。広めたいっていうのがあるし、テレビで見た人がもういっぺん来週テレビで見てみようって思わさなあかんし。ほんまに広げていかないと。
あとは“新喜劇としてのお話をもっと広げる”という意味で、何か失敗したなというときに、いや失敗したけど、その方向は全くやらないじゃなくて、そういうシーンは必要やしどうやったら見せられるのかなとか。自分自身の幅も広げたいし、若手の今こんな感じのラインでいってる子を、「もしかしたらこっちも面白いんじゃない?」っていう、それぞれの座員の幅も広げたいし。ベテランさん、それはもう何十年やってはる人らのこういう感じっていうイメージがあるのを、別の若手とか別のノリと一緒にやることによって、そのベテランさんが違った意味で広がっていったりとか、何かいろいろ広げられたらなっていう理想があります。

―今回の記念公演にむけて視聴者の方にメッセージをお願いします。

65周年の始まりの日なので、「さあ65周年、どんなことをしていくのか」っていう、ほんまの予告編と思ってもらったらいいかなと思います。65周年の記念すべき年なので、今年どういう動きになるのか、いろいろ今後も発表があると思うので、「さあやりますよ!」という予告編と思って楽しんでください。

2024年2月15日談

▼以下は2014年6月10日に伺ったインタビューです。

第1回 すっちー

ある日、自分の中にある大阪のお笑いのDNAに気づいた。

―「座長になりたい!」と言い続けて6年8か月。ついに座長就任。

入った時から「座長になりたい、座長になるために入った」ってアホみたいに言うてましたね。今から考えたら、ようあんなん言うたな~と(笑)。僕はコンビの時から新喜劇っぽい仕事が多かった(「新喜劇フー!!」「新喜劇ボンバー!!」)ので、お芝居の中にも笑いの取り方があると思えました。コンビをやめた時、ピンの選択もありましたが、新喜劇という選択肢は僕の中ですごく大きかったんです。入る時には、新喜劇には染まらんとこう、新喜劇を変えたんねん!くらいに思っていました。いざ入ったら、カルチャーショックというか、知らないことばっかりで、奥深いなあと。

―新喜劇の奥深さとは?

新喜劇での笑いの取り方の難しさがわかったんですね。漫才の時にやっていたことが通用しないし、邪魔になる。もともと漫才から新喜劇に来た小籔さんから、なるほどな、と思えることを教えてもらいました。細かいボケを挟むのではなく、お芝居に乗っかって、緊張感持たせて一気にボケたほうが、お芝居としては笑いは取れる、と。漫才師は出てきて何もボケてないのが怖いから細かくボケたがるけど、それはせん方がええで。両方試してみたら?と。結果、台本どおりに戻して一番ウケたり。新喜劇の歴史の重みというか、だから面白いんや、と。攻めなあかんというのは、常に思っていますが、漫才を11年くらいやっていた時と、考え方が一変しました。

―実はもともとお笑い志望ではなかった?

お笑いの仕事をしようとか全然思ってなかったし、そんな目立ちたがりでもなかったんです。ただ、大阪に住んでいると、ずっと「新喜劇」をやってるし、「4時ですよーだ」も夕方にやっていたし。日常にお笑いがあふれてる。たぶんですけど、男の子が目指す職業の上位には、「お笑い」があったと思うんです。僕はバイクが好きだったので、専門学校を出た後、車関係の整備関係の仕事をしてたんですけど、「あれ?違うなあ…」と。で、「何がしたいんやろ」と真剣にちゃんと職業を考えた時に、そこに、お笑いがあった、ということですね。お笑いを始める時には、新喜劇は全く考えなかった。好きなことが出来へんやろと(笑)。どんな役になるかわからないし、言うことも限られる。お笑いで最初に門を叩くところやないな、と。若手にもそう思っている子が多い。そこは変えていかなあかんと思います。「新喜劇」はやってみたら意外にチャレンジできるし、発信も出来る。「歌ネタ」とか「ドリル」とかで東京に呼んでもらえたり、いろんな可能性がある。この先、若手が、最初から「新喜劇をやりたい」とお笑いの一発目に門を叩くところになればと思います。

―「ドリル」が超子どもウケしてます。

子どもさんが、よう真似してるって聞きます。「ドリル」はわざわざ作ったネタではないんですよ。気ぃついたらあの形になって、気ぃついたら皆さんに面白いと言われてた。実際、自分らも楽しんでやってたので。どう作りましたか? ってよく聞かれるんですけど、「作った」感覚はないですね。最初は浮気相手と疑われる人物を、内場さんと僕でボコボコにするだけ。そのうち、エスカレートして服を脱がして、僕がマキザッパ(叩き棒)で乳首をぎゅっとやったら、「乳首ドリルすな!」それだけでふわっと終わってたのが、ドリルが回を追うごとにだんだん長くなって。異常に長いでしょ(笑)。フルでやったら3~4分。そんな長い尺のネタを自分のリーダー週にいろいろ試せたのが良かったですね。チャンスをもらえて試せた。その中で生まれたのが「ドリル」なんです。

―座長として。これからの新喜劇

伝統的なことは守っていかなあかんし、技とか技術は覚えないといけない。ただヘンにそこにこだわりすぎると、ブレーキになってしまって、新しいことは生まれないと思うんです。若手と新しいことしよう、とならない。定番だけやって、ある程度平均点を狙った芝居になってしまう。新喜劇は定番の笑いと言われながら、昔からちょっとずつ変わっていっていると思うんですよね。内場さん、辻本さん、石田靖さん、吉田ヒロさんの時代は、攻めていた。小籔さん、川畑さんの時代にもレイザーラモンがいた。いつもスパイスになる人がいる。守りながらも攻めなあかんなあ、と。だから、染まらんとこうという気持ちはたぶん今もあります。

―子どもも新喜劇が大好き

2007年、結婚して子どもが出来て、その2か月後に解散して新喜劇に入りました。娘が6歳、もうすぐ7歳ですが、新喜劇のことが好きですね。「お仕事、頑張って」じゃなくて、「いっぱいふざけておいでよ~」って言ってくれる。すごく応援してくれます。だから、一生懸命ふざけてやろうと思って舞台に上がってます。「お前んとこの親父、おもんないな~」と言われないように(笑)。「ドリル」も大好き。子どもの目って素直だと思うんです。だから子どもの感想は大事にしてます。ただ、奥さんは「ドリル」が嫌い…じゃなくて、大っ嫌いです(強調)。「あれ、何でするの?」と。ただただ不快のようです。子どもと一緒に舞台を見に来た時、喜んでいる子どもの横で、あまりに笑いがなくて。ずっとしかめっ面してました。プライベートでは厳しい。それだけ冷静に見てくれてます。実際、「ドリル」をやりながら客席を見ると、笑ってないお客さんもいるんですよ。

―若手&先輩 気になる新喜劇メンバー

若手は女の子に頑張って欲しいですね。新喜劇は若手の女の子が弾けるシーンが少ないので。もちろん、すごい先輩がいっぱいいらっしゃるんですが、男性は熾烈な争いを繰り広げている。女の子もアットホームな雰囲気も満足せずに、「次は私が頑張る」というギラギラしたものを持って欲しいですね。基本、競争社会ですから。 先輩方はすごいギャグを持っている人が多いので、あのギャグをマイナーチェンジして若手と組んで新しいものを引き出せないか、と思います。あと、個人では青野(敏行)さん、面白いです。新喜劇に必要な年齢層の方で、お芝居を締めてくれる人。男前で舞台栄えするんですが、アホなところもあるので、真逆の面を見たいな~と思います。

―ハマっているもの

トランペットをやりたいなあ、と思っています。以前、一瞬やりたいなと思って楽器の値段を見たら、こんな高いんか!と。それが最近、ネットで入門用が1万円であったんです。まだ手に入れてないですが。新喜劇の若手で作る「ほんわかパッパー隊」というのがあって、それを見てると楽しそうなので、やってみたいなと。あと、英語もやりたいですね。小籔さんと前から「英語で新喜劇やりたい」と言ってるんです。

2014年6月10日談

プロフィール

1972年1月26日大阪府摂津市出身。
2007年10月吉本新喜劇入団。

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