MBS(毎日放送)

第45回 清水啓之

ギャグの方で攻めていきたいかな、と思います。

―NSC26期ですが、お笑いを目指されていたんですか?

もともとはですね、学校の先生になりたかったんです。子どもが好きだったんで保育園の先生に。「大学行きたいな」と思ってたんです。大学も決まってた時に、たまたま中学時代から仲が良かった同級生から電話がかかって来まして、「NSCに入学しようと思ってる」と聞いて、僕もちょっと行ってみたいなと思ったのがきっかけです。最初から行きたいなというのはなかったです。
(NSCへは友だちと一緒に?)
その人は25期生なんですよ。僕が願書書いて応募したら、願書受付が終わってて、1年浪人してるんです。その後、新聞配達しまして、NSCの学費貯めて。1年遅れて入学したんです。
(浪人してまでお笑いを選んだんですね)
僕、人を笑かすということはなかったんですが、いじられてみんなが笑ってくれるというのは、嬉しかったんです。そういうのが高校生生活でもあって。テレビでもお笑いは見ていたので興味はあったかも知れないですね。結局…(笑って)どう言うたらいいんですかね? 友だちがNSC行くって聞いた時に、「うわ! 行きたい」ってパーンと思ったんですよ。そないに大学行きたくなかったんでしょうね(笑)。

―NSCではどんな感じだったんですか?

僕ですか? 当時メッチャ人見知りやったんです。すごい人見知りで…。ほかの人が「僕を面白いと思ってくれてるのかな?」とか思い始めたら、学校が嫌になってきまして…。そっから、しゃべるのも「この会話もたぶんオモロないと思われてるん違うか?」と思い出したら、嫌やな、と思って。そのままちょっと(学校に)行けなくなりました。
(不登校ですか!?)
完全な登校拒否ですよ(笑)。まさかの。人間関係が上手くいかなかったといいますか。他の人とどういう風に接していいのかわからなくて。友だちもいなかったんで。

―どの辺りから不登校に?

ちょうど夏ぐらいです。みんな辞めて行く時期があるんですけど。なんか、もうこわくなってきました。その時に25期生にいた友だちが卒業するんですよ。そっからコンビ組もうと言われまして。学校行っている時はオーディションに出たらダメなんですけど、ちょうど行かなくなったんで、コンビを組んで、「5upよしもと」(当時「baseよしもと」)のオーディションを受けたりしてました。行かなくなった時から、その子と組んで漫才をやってたんです。
(NSCは中退ですか?)
そうです。がっつり中退ですね。コンビ名はアポロッキーという名前で、アポロとロッキーを足したみたいな。なんかボクシングの名前から、相方が決めたんです。そっから半年くらいやったんですけども、あんまり上手く行かなくなりまして。もともと26期生の子とコンビやったんを解散して、組んでたんですが、もともとの相方がまたお笑いやりたいというので、急遽、トリオでいいか、と。3人でトリコロールという名前で活動したんですが、まったく上手く行かなかったですね。
(なぜですか?)
芸人といっても収入がないじゃないですか。インディーズってお金かかるんですけど、相方の子が週に2日しかバイトしなかったんですよ。それも1日4時間くらいしかバイトしない。ほぼほぼお金持ってないんで、インディーズライブの時にも、お金がなくて、出れない。そういうことがあって、上手く行かなくて…。

―新喜劇に入られるきっかけは?

トリコロール解散しまして、自分自身でピン芸人やっていかなあかんようになったんですよ。ネタを考えてたのは前の相方やったんで、自分でやっていかなアカン、と。前の相方からもういっぺんやりなおせへんかって言われたんですけど、断わりました。ここで勝負かけなあかん、と。もともと神戸でしか活動してなかったので、舞台数が少なかったんですよ。舞台数増やそうと、大阪のインディーズライブの出れるとこに、片っ端から「出演させていただけないでしょうか」と電話して…。オーディション含めて10本~15本くらい電話しました。僕、変な経歴なんですけど、「ステージ21(21芸能学園)」という、新野新さんのやっている学校がありまして。半年間、月1回だけ週4回、発声練習とか漫才の講座とかあったんで、そこに1年間入学したんです。そこで上手いこといかんかったら辞めようと思って。1年経って気持ちが盛り上がってる時に、金の卵2個目のオーディションがあって、これ、頑張ろうか、と。そしたらたまたま受かりまして…。

―思い切った転身ですね。

オーディションで苦労したというか。特技を見せなあかんのですけど、ないじゃないですか。どうしようかな~と考えた時に、何でかわからないんですけど、土下座をしたんですよ。
(はははは~)
「特技は土下座です」とか言うて、審査員の前で土下座して。「社長、すみませんでした!」と訳のわからん謎のコメント叫んで…全員笑ってなかったんですよ。自分でも「何してんねんやろ? 確実に落ちたわ」と思って。最後に「いい残したことはあるか?」と聞かれたんで、それまで「全力で突っ込むことが出来ます」と言って「筆~!!」とか叫んでたので、最後に手を挙げて「普通のツッコミも出来ます」と、「筆やん!」と言ったら、審査員の方から「一緒やないか!」とツッコまれて、ドーン! と受けたんですよ。ラッキーパンチなんですよ。それで「次呼んでくれはんのかな?」と思ってたら、芝居審査に呼ばれて、あ、良かったなと。そっからありがたいことにうまいこと行きまして…。

―初舞台は覚えていらっしゃいますか?

覚えてます。小籔さんの週で、吉田裕さんと一緒に引っ越し業者の役でした。舞台出て、見事に何にも覚えてないですねえ。あはははは。緊張し過ぎて。何にも覚えてないです。全部、おんぶにだっこで。ちょうど川畑さんも一緒だったんですが、川畑さんが全部、吉田さんと一緒に仕切ってもらって、やっていく、みたいな感じで。何にも覚えてないです。緊張しいなんで。今でもそうですけど。そっから、半年くらい出番空いたんですけど。
(入ってからどのくらいで?)
一番遅かったんですけど。4か月後か3か月くらいですかね。1回出て順繰りに廻ってくるのかと思ったら、そうじゃなかったですね。

―先輩に助けられたりとかは?

川畑さんによく教えていただいたんですよ。オープニングとか、お芝居のこととか。所作的なことは川畑さんに教えてもらったと思いますね。昔、川畑さんに似てるって言われたことがあるんですよ。ちょうど最初の舞台で、川畑さんが教えてくださったんですけど、「昔の俺によう似てるな」って。それでちょっと、親近感あったんでしょうね。よく川畑さんにアドバイスいただいたりしてました。烏川さんにも「そんなに緊張せずにリラックスして行ったほうがいいん違うか」と言われました。周りはTVで見てる人ばっかじゃないですか。最初、お客さん相手というより、先輩方で緊張しまして…。まず先輩らとしゃべらなあかんな、というのが、ありましたね。NSCから続いてるんですけど、人見知りは人見知りなんですよ。それで(NSCで)1回失敗してるじゃないですか。実は金の卵2個目に入った時も、失敗してるんです。暗かったんで、自分を変えてみようと、明るくやってみたんですけど、それはそれでちょっと違うな、と。「どないしたらいいんや、俺は?」と悩んでました。基本、たぶん、マイナス思考なんですよ。

―緊張のあまり失敗したことは?

1回辻本さんの芝居で、身寄りのないお爺さんという設定なんですけど、僕が最後に出てきて「おじいちゃん、ご飯やで」「身内おるやないか!」で終わる芝居をやった時に、辻本さんと初舞台で、めちゃめちゃ緊張して、どうしよう? と。スタンバイしてた時に、家にいるような感じで構えてたんですが、舞台に出るときに、忍者みたいな歩き方で出てしまったんです。辻本さんも「え?」ってなったんですけど、僕も「忍者みたいや」とわかってるんですけど、止まれないわけですよ。セリフ言わなあかんと思って、「おじいちゃんご飯ですよ」というのを、「辻本さん、ご飯ですよ」と言ってしまったんです。舞台上でも「忍者と暮らしてるのかあいつ」みたいな雰囲気になって、幕が下りたんです。辻本さん見たら、“なまはげ”みたいな顔して怒ってて…。「すみません、兄さん」って言うたら、「全然ええよ」と言うてくれはったんですけど…。緊張のあまり、“なまはげ”みたいに見えましたね。「気にすんな」と言うてくれはって、そっからだいぶ楽になりましたね。

―印象に残っているお芝居ありますか?

僕が見た中でもいいですか? 昔、(井上)安世ちゃんがむちゃくちゃいい役もらった芝居があって。川畑さんの芝居なんですけど。両親に捨てられて施設にいた女の子を川畑さんが引き取って、16~7年育てるんですが、ある時、手放した両親が迎えに来るんですよ。川畑さんは渡したくないけど、自分は屋台のラーメン屋でお金がない。実の親は金持ちで、川畑さんは娘のためを思って、わざと冷たく当たって、娘を両親に返してあげるという芝居で。その時は感動して、NGKの客席でほんまに涙流して見てました。新喜劇入って、ほんまに良かったなと思ったシーンというか。新喜劇のいいところ、前半、メッチャ笑うんですけど、後半泣ける。ほんまに笑って泣けるお芝居がすごいなと。それが一番印象に残ってます。僕は出てなかったですけど。

―ギャグとお芝居と、どちらの方向に?

僕はギャグの方ですかね。そっちの方で攻めて行きたいかな、と思いますね。お芝居も頑張っていかなあかんと思いますけど、上手な人は上手じゃないですか。めだか師匠みたいにお芝居もしながらギャグも出来るというスタイルもやりたかったんですけど、いかんせん、周りの人間から「そんなん向いてない。絶対無理や」と(笑)。理想をいいますと、島木師匠みたいな形。破壊力あるようなギャグの方が近道になるとおっしゃってくださって。
(周りとは誰から?)
けっこう言われましたよ~。すっちーさん、川畑さん…座長から言われましたね。それこそ全座長じゃないですかね。「方向性が間違ってる! お前は」って。そもそも川畑さんに「誰みたいになりたいねん?」と言われた時に、「小籔座長を目指してます」と言うてたんですけど、「なれるわけがない! 小籔とはタイプが違う」と。「他に誰や?」「内場さん」って言うたら、「わかってへん、お前」って。「お前は島木師匠みたいなんがええんちゃうか」と。今はそう思いますけど、昔は全然見えてなかったんで。ははは。
(ちなみに持ちギャグは?)
今ですね、「いた~い」と「はあ~」という2本しかないんですけど。まず、舞台なり、テレビなりでギャグを思い切りやって覚えてもらわないと。
(この先目指すところは?)
やっぱり、面白いと思われる人になりたいと思うんですけど。あまり芝居も出来へんな、ボケもそんなでもないけど、でもなんか面白いな、というのが究極ですかね。まあ、どういうたらいいんですかね。爆発力があるような演者になりたいですね。あとは人に好かれてナンボですから。周りに好かれるような人間にはなりたいですね。

―やめようかなと思われたことはないですか?

僕、ほんとに周りの人間に恵まれていると思うんです。烏川さん、清水けんじさんとか、川畑さん、石田靖さんとか、テンダラーの浜本さん、そういう人らに助けられてるんで。内場さんが座長の時はご飯連れて行ってもらって、アドバイスもらったりとか。よう、誘っていただけるんですよ。その人らにはいつか恩返ししたいなっていうのは頭にありますね。
(何か魅力、あるんでしょうね)
そうなんですかねえ。自分でも言うてるんですけど、「兄さん、僕、裏切りませんから」って(笑)、とりあえず、「僕、裏切らないんでお願いしますわ」とか言ってます。それしかないんですわ。面白いことも言わないし、気の利いたことも出来ないし。そこだけです、って。その言葉を信じてくれているのかどうかわかりませんが。

―趣味とかハマっていることとかありますか?

おもしろない人間なんですけど、全くないですね~。何やろなあ…。
(素顔の部分を少しお聞かせ願えれば、と)
あ~なるほど。……スポーツ観戦とかですかね。ホンマにないんですよ。職場と家も近いですしね。自転車で10分くらいなんです。朝とか弱くて、よく寝坊するタイプなんで、近いとこに住んどこう、と。スイッチの切り替えがあまりないといいますか。
(趣味はない、ってことですね)
う~ん、言われたらそうですかね。そういえば、みんな帰った後に楽屋に1人残って、ずっと音楽聞いてるんですよ。ははははは(笑)。不気味ですけどね。完全に。
(趣味は)それかも知れませんね。みんな帰った後に、ソファー座りながらで1人で2時間くらいいますね。ご飯誘ってもらった時も、自転車置いてるから取りに帰ってきて、楽屋入って音楽聞いて時間つぶしますね。YouTube見たりとか。一番ハマってます。
(どんな音楽を?)
ファンキーモンキーベイビーズとかずっと聞いてますね。勇気づけられるというか。楽しい曲が多いです。たぶん、僕がひとりで聞いてるのを誰も知らないんじゃないですか。

―ご自身のイベントとかは?

昔あったんですけどね。究極言いますと、イベントやります、って言って、オープニングしか出ないとか。僕が来ないとか。それマズイですかね? 考え方がおかしいというか、ブッ飛んでますよね。いい意味じゃなく、悪い意味で。
(ご自身で変わってると?)
メッチャ変わってると思います。僕、家でご飯食べないんですよ。
(えっ!? そうなんですか)
365日、外食なんです。虫が嫌いなんですよ。ムチャクチャ虫嫌いで。女の子みたいなんですけど。キッチンにコップない、お茶碗も何もない。ガスコンロないし、包丁も全部なくて。炊飯器もなにもないんですよ。お湯沸かすこともないです。ティファールもない。物を置いてたら気になるんですよ。部屋になにもないのがいいんですよ。
(はあ…)
ちょっとでも何かあったら、ゴキブリが来るじゃないですか。ゴキブリがもう絶対、嫌なんで。徹底してモノを置かない。家でご飯食べていたら、臭いが充満するじゃないですか。それが嫌なんです。もし食べる時は、窓も全開にして、臭いが家にこもらないようにするし、ポロポロこぼすのも嫌なんで、まず、ご飯家で食べないです。ほかの人と食べる時は、ご飯買って、近くの公園で食べて、家に帰るっていう…。冷蔵庫にはペットボトルくらいで食材一切ないです。
(へえ~)
ちょっと変わってますね。布団も引かないです。
(え? 布団を引かない?)
旅館とかで、帰り際にふとんをたたむじゃないですか。そのたたんだ布団に毛布をかけて、フローリングに寝てます。朝起きたら体痛いですけど。それを20歳くらいからやってます。もう12年間くらいです。当時、NSCの頃、布団で寝ると起きれないんですよね。体も汚いじゃないですか。そのまま布団で寝るのも嫌で、ずっとその生活です。
(結婚する意思は?)
結婚はしたいんですけど、僕、メッチャ大変やと思います。まず、家で料理できませんしね。荷物も何も置いてほしないし。引越しも布団と鏡しかなかったんで。刑務所みたいな生活ですね。
(何時間寝はるんですか?)
けっこう、寝ますよ。5~6時間は目が覚めないです。怖がりなんで、テレビ、部屋の電気、玄関の電気もつけて寝ないと、オバケ来ると思って…。
(えっ!?)
キッチンとか暗かったら、気になるんですよ。誰かがいた時に、わからないじゃないですか。誰かいた時にパパッと起きて対応できる状態でないと、落ち着かないんですよ。もともと小さい頃に寝てると、ミシミシとか音するじゃないですか? それが尾を引いてるんじゃないですかね。見ても誰もいない。それなら、あらかじめ電気ついてたほうがいいかなと。ビビリなんです。新喜劇の中でも僕が一番変わってるんじゃないですかね。

2016年3月7日談

プロフィール

1983年12月26日兵庫県神戸市出身。
2003年3月NSC大阪校26期生。
2006年金の卵2個目。

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