MBS(毎日放送)

第68回 前田まみ

せっかくの姉妹なんで、一緒に何か出来たらと思います。

―もともとこの世界を目指されたきっかけは?

中学生くらいの時に女優さんになりたくて。その頃、すごく好きだったテレビドラマが市原悦子さんの「家政婦は見た!」(EX)とか、浜木綿子さんの「監察医・室生亜季子」(NTV)とか、2時間サスペンスが好きでした。あと「おんなは度胸」(NHK)の藤山直美さん。その3人の女優さんがすごく好きで、憧れていて、女優さんになりたいなと。藤山さんは舞台も観に行ったりしてました。
(その3人なら、間違いなく演技派だと思うんですけど…)
そうなんです! 個性派といいますか、その人にしかできない役というか。
女優に興味はあったんですけど、なかなか自分で踏み込めず、スタート出来ずにいました。18歳くらいの時には東京に住んでいて、今より痩せていたので、原宿とかで「グラビアやりませんか?」というスカウトを結構されたんです。でも、グラビアで水着になるのはちょっと違うな…と思って、自分でオーディション雑誌を買って、何個か受けたんですけど、面接とかで落ちました。それで短大に入ったんですけど、ず~っとモヤモヤしたまま学校生活を送っていて、卒業した時に、就職は考えられなかったんです。もう1回夢を追いかけたいなと思って。その時にNSCの女性タレントコースが出来ると知りまして、応募したんです。(※女性タレントコースは現在はありません)
(女性タレントコースは大阪校だけですよね?)
そうなんです。家族ごと引っ越したんです。
(え? 家族ごと?)
私がNSCに入った時に、姉が新喜劇のオーディションを受けたんです。そのタイミングで大阪へ引っ越したんです。やっぱり家族の理解がないとやっていけない世界だな、と。それは今も感じてます。普通だったら、20代半ばくらいで結婚、と言われると思うんですが、それでも「頑張れ」って言ってくれて、今舞台に立ててるのは、やっぱり家族あってやなと思います。

―女性タレントコースではどんなことを?

女性タレントコースは一期生だったので、それこそ、いろんな夢を持った女の子たちが集まってました。グラビアやりたいとか、バラエティータレント、女優、モデル…いろんな夢を持った子がジャンルを問わず集まった感じでした。後で聞くと、女性タレントコースが出来たばっかりだったので、方向性がはっきりしてなかったみたいです。でも、演技の授業、ダンスの授業、あと日本舞踊の先生が来られて所作を教えていただいたり。リポートの授業で食リポとかもしました。プロのカメラマンの方に来ていただいて、写真を撮ってもらって、ポージングの練習とかもありましたし、週2日でしたが、1年間、いろんなジャンルのことを学ばせていただきました。金原早苗ちゃんも同期でした。

―ご自身ではどの方向に行こうと?

やっぱりお芝居がしたいなと思ったんですけど、通っている間に、姉が新喜劇の金の卵オーディションに受かりまして。金の卵ライブを見に行ったりしてたんですが、NGKの初舞台も客席から見てたんです。初舞台で姉が、ペンションのお客さんとしてオープニングから出て来て、島木師匠と絡むシーンがあったんです。「熊や! 死んだふりせえ!」っていう。私も小さい頃から「あ~熊や!」と思いながら見ていたので、実際の舞台で、姉が熊で死んだふりをしているのを見た時に、鳥肌が立って。「わ~すごい! 私も死んだふりしたい!」と思ったんです。ほんとに。これはネタとかなんでもなくて、「わ~すごい」って。最後までお芝居見て「すてきやな~」と思って。ちょうど、この先どうしようかな、と思っていた時だったので、NSC卒業した次の年に新喜劇のオーディションがあると聞いて、受けよう!と決めました。笑いもあって、最後ホロっと泣かせたり、他の劇団にはないところだと思いました。

―オーディションの特技披露では何を?

私は昔から演歌が好きで、上手ってほめられることが多かったんで、演歌を歌いました。
(何を歌われたんですか?)
天童よしみさんの「珍島物語」を歌いまして。後で聞いたら、そのオーディションの様子を仁鶴師匠が見られていて、「上手やったよ」とほめてくださって。覚えててくださったんです。
(皆さん、お笑い系のことをやっても全然ウケない、と…)
そうです。実は演歌のほかに、今もお世話になってる坂田利夫師匠の「よいとせ~の、こらせ」という走り方を「高速! 坂田利夫」と言って、すごいスピードで下手から上手へぶわ~っと走ったんですけど。しん!となって、(審査員の方に)鼻で笑われて…(笑)。「はい、けっこうです」って。
(やっぱり皆さん、辛い思いをされてるんですね…)

―合格した時はどんな気持ちでした?

嬉しかったのと、姉が1年先輩で入っているので、姉に迷惑をかけないようにしようというのがありました。生まれてから、小・中・高とずっと同じ学校で一緒だったんで、姉は嫌だったんじゃないかな~と思っていたんです。ケンカもしましたけど、姉がいないところで先輩とご飯行った時に、「真希ちゃんから、妹が入ってくるので、よろしくお願いしますと言われたよ」と聞いて、裏でそんなことを言ってくれてたんだと、ジーンとしました。仲はいいんです。小学校2、3年生の時から、ラジオごっこをやってたんですよ。カセットテープに姉が、「こんにちは~前田真希で~す。今日のゲストは、まみさんで~す」って、録音したテープが残ってるんです。今思えば、そういう世界が好きだったのかな~と。

―初舞台は覚えてますか?

内場座長週で、オープニングのお客さんだったんですけど。階段上がるところで、靴が脱げてしまいまして…。すごく覚えてます。靴を手に持ってハケました。
(オープニングのお芝居も工夫されたと思いますが)
台本に書いてあるハケネタも変えていいからと言われたりしましたが、まだ入りたてだったので、一緒だった吉田裕兄さんが引っ張ってくださって。姉の真希と裕兄さんが同期入団なので、1個目さんの舞台もよく見に行っていて、面識はあったので、安心感がありました。

―ちなみに島木師匠の熊でコケることは出来たんですか?

そうなんです!念願の。入ってからだいぶかかったんですけど。5年くらいかな。初めて、熊で死ねました。倒れてる間、ずっとうれしくてドキドキして。倒れてる島木師匠の腰のあたりを踏んでいくってシーンもあったんですけど、もう、恐れ多くて…。スピードハットのゴムが切れた時に、出番が終わってから、「師匠、帽子のゴム、つけましょうか?」って言ったら、「ええねん、これな、コツいるねん。自分でやらな、伸びのコツがあるねん、ありがとう、ありがとう」って優しく断られて。何回も切れるんで、そのたびにソーイングセットでチクチク縫われてる姿がすごいかわいかったです。

―印象に残っている役や舞台はありますか?

役柄では、私、身長も小さいので、子どもの役とか学生の役とかもよくさせていただいたんですけど。内場兄さんの子どもの役が自分では楽しかったです。小学校4年くらいで(笑) ランドセル背負って、はしゃいでる子どもの役が。
(舞台では?)
失敗でいうと、地方に行った時に、子どもを泣く泣く手放したホステスの役をやった時があったんです。あとから赤ちゃんを拾って育ててくれた夫婦のところに、お母さん役の由美姉さんと一緒に「子どもを返してください」って言いに行くんです。そこで、由美姉さんの長ゼリフがあって、「娘は仕方なく捨ててしまったんです。見てください! このやつれ果てた姿を!」って言ったら、私が全然やつれ果ててなくて、お客さんがドカン!と笑うっていう失敗がありました。見るからに健康的な、肉付きのいい体型で、しかもホステスのスーツがピチピチなんです。「いや、太ってるやん!」みたいな感じになって。由美姉さんが泣きながら芝居してらしたのに、ドカン!ってすごい笑いが起こったので、舞台上の人もみんな笑ってしまって。子どもを拾って育ててくれたお母さん役がぢゃいこ姉さんだったので、由美姉さんがとっさに、(ぢゃいこを指して)「昔はあれくらい、太ってたの!これでも痩せたんですっ!」ってアドリブでセリフを足してくださって。幕が下りてから台本を書いた先生に「お前、あれボケで書いてへんぞ」と怒られて、「すみません」て謝りつつ、心の中で「でも、私にこの役来たけどなあ」と思いながら。10年くらい経ってるんですけど、いまだに言われ続けてます。それ以降、「やつれ果てた」役は1回もしてないです。
(そんなに太ってます?)
太ってます。下半身が。内場兄さんに「マトリョ―シカ体型」って言われてます。

―先輩から言われて印象に残っていることは?

入って間もない頃、辻本兄さんの週に姉妹で良く出させていただいてたんですが、「もう、全然姉と違うんです。遺伝子のいたずらですね」って言った時に、辻本兄さんが「逆に似てたらアカンやん」って言ってくださって。「新喜劇で似たようなの2人もいらんで。姉妹で全然違うから俺はいいと思う。真希とか意識して、こうなろうと思わんでいいんと違う?」って言ってくださって。
(ほかに先輩から言われて印象に残っていることは?)
ごく最近なんですけど、桑原師匠に。すごく、落ち込んでいる訳ではなかったんですけど、ふっと横に来られて、「なあ、なんでも一生懸命が一番やで」って。桑原師匠って結構、ぼそっと名言を言われることがあって。そこから「恋愛でも一緒やで」って恋の話になって、「恋愛でも振られても、うまくいかんでも、その時は一生懸命好きやったんやから、それは人生にとって、宝物になる。その時の一生懸命な気持ちが大事なんや」と言われて。すごく残ってます。
(突然?)
そうなんですよ~。入りたての頃は大師匠なので、話しかけられなかったんですけど、最近、師匠から若手に話しかけてくださったり、ご飯に連れて行ってくださったりします。

―女優を目指されていたので、お芝居志向かと思いますが。

入った時は20代前半だったので、学生とか若い役も出来たんです。今、ちょうど35歳なんです。お母さんにしたら若いし、娘役にしたらオバちゃんの歳なんですけど、新喜劇って何歳になっても役があると思ってるんです。もうちょっとしたら、お母さん役も出来るかなとか。いろんな役をやりたいというのは、あき恵姉さん、由美姉さん、やすえ姉さんら先輩方が、マドンナも出来るし、社長も出来るし、悪役も出来るし、いろんな役をされているので、そういう風になっていきたいと思ってます。
(ボケとかはどうですか?)
「ボケではないよね」って言われるんですが、「でも、マドンナでもないよね」って…。
(えーっ!?笑)
川畑兄さんには、マドンナ役の時に「今日、しゃーなしのマドンナやで、まみちゃん」って。どうしても姉みたいなマドンナが、髪長くて細くてきれいで。わかりやすいなあと思います。
(お姉さんには憧れがありますか?)
はい。「ライバル心とかないんですか?」ってよく言われるんですけど、まったくなくて。やっぱり姉がマドンナやってるとうれしいですし、自分にそんなにセリフがなくても、姉が舞台で輝いてたらうれしいなって思います。ひいき目じゃなくて、声の出し方とか、所作とかも、すごいなと思います。

―この先、姉妹でなにかされる予定とかは?

やりたいんですけど、たぶん、姉が嫌がるかな、と。せっかく姉妹やから漫才やったらええねんって言われたんですけど、どっちもツッコミが出来ない、どっちもボケやなって。
(誰から言われたんですか?)
オール巨人師匠に言われました。若井みどり姉さんも「兄弟とか親子とかはやっぱり息が違う」っておっしゃってて。「間がぴったり合うのは、血のつながりやねん、勿体ないよ~」って言ってくださったんですけど。
(劇中ならありえるかもしれませんね)
そうですね。妹役とかできたらいいなあと思いますね。「姉妹で一緒に出てください」というメッセージとかいただくんで、何か出来たらなあと。姉にも1回サラッと言ってみたんですけど、「ふう~ん」って。クールな感じでした(笑)

―劇場のアナウンスをされているんですね。

「まもなく開演します」や「ただいまより、吉本新喜劇が始まります」というのを、去年の2月から担当してます。話してる声と全然違うって言われます。もともと地方営業で、新喜劇の出演者の読み上げをしてる時に、すっちー座長が「上手やんか!」と言ってくださって。劇場では新喜劇の若手の女の子が読んでたんですが、「まみちゃんしたら?」と言っていただいて、させてもらってます。それがきっかけで声のお仕事楽しい!と思って。実はNSCに入る前に、派遣会社で百貨店に勤めていたことがあって、その時に「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございます」とか言ってたのが役立ったんだと思います。

―まみさんにとっての新喜劇とは?

新喜劇ってすごい、ひとつのファミリーやなって思うんです。4回公演だったら、朝から晩までずっと一緒。営業に行ったら、昨日も2時間半バス移動でバスの中でしゃべったり、パーキングエリアついたら、「なんか食べる人~」って座長がソフトクリーム買ってくれたり。家族やなあ。こういうの好き、好きって思って。いいところやな、いい劇団やなと思います。
(じゃあ、ずっと新喜劇に?)
いたいですね。仕事のある、なしがどうしても悩みになるんですけど。ない時はないんで。ありがたいことにある時はバーッとあるんです。その繰り返しの11年間やったんで。浮き沈みはあるんですけど、でも、やっぱり仕事がいただけた時に、次につながるように頑張ろうと思ってます。

―趣味とかハマっているものは?

演歌が好きで…1人でよくコンサート行ってます。前川清さんがすごく好きで。
(えっ!?)
あと石川さゆりさん、大月みやこさん、森進一さん、五木ひろしさんとか。
(めっちゃ正統派ですね)
歌舞伎も好きなんですよ。先代の中村勘三郎さんとか。
(渋いですよね、趣味が)
よく言われるんです。たぶん母の影響かと思います。姉も日本舞踊習っているので、見る機会が多くて。休みの日が決まったら、何か舞台ないかなって探して1人で見に行ったりします。歌舞伎も、お芝居も。
(お芝居はどんなものを?)
中川晃教さんのミュージカル「フランケンシュタイン」とか。あと大衆演劇とかも見ます。
(いろいろ勉強になりそうですね)

―大好きな演歌の魅力を教えてください。

「演歌は日本の心です」っていうフレーズがあるじゃないですか。歌詞が直球ですし、伝わりやすいというか、前川さんで言うと、男性なんですけど、女性言葉で「~なのよ」とか。女性目線というか、なんか説得力があるんですよね。五木ひろしさんの「九頭竜川」みたいに、実在の地名をモチーフにしてるところとか、演歌ならではでいいなと思います。J-POPでは表せないような…。
(落ち込んだときとか、演歌を歌ったり?)
はい。1人でカラオケに行って演歌を歌って。あと、演歌じゃないですけど、ちあきなおみさんも大好きで。寝る前に聞いてます。すごく落ち着くんです。ちあきなおみさんの声が夜にベスト、なんです。

2017年7月10日談

プロフィール

1982年2月4日大阪府大阪市出身。
2006年NSC大阪校女性タレントコース1期・金の卵2個目。

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook