MBS(毎日放送)

第118回 入澤弘喜
(いりさわ・ひろき)

見た目が怖いんで、どこかで可愛げを出せたらなと思います。

―小さい頃からお笑いに興味がありましたか?

そうですね。小学校の卒業文集に「有名人になりたい」みたいなことを書いてました。高校の時に野球部で寮生活をしてて、歓迎会とか後輩が何かしないといけない時に、前に出て同級生とネタをやったり、ショートコントをやったりして、漠然とお笑い芸人になりたいな、みたいなことを思いましたね。芸人になるなら吉本に入りたいな、と。
(憧れの芸人さんは?)
NON STYLEさんですね。「エンタの神様」(日本テレビ)世代でして、当時ブームで。2008年にM-1優勝された時が、僕らの小学校、中学校ぐらい。ずっとテレビに出られてるのを見て、笑いが取れる人になりたいな、と。
(NSCに入られたのは?)
高校卒業の時にNSCに入りたいと言ったら、母親に反対されて、「定職を持たないと許さない」という感じで。で、2年間保育士の専門学校へ行きまして・・・。
(え!? 保育士?)
はい(笑)。保育士の資格を取ってから、21歳の時にNSC39期に入学して、NSCの卒業と同時に新喜劇に入らせていただいたという流れです。

―NSC時代はコンビを組まれてたんですか?

5回組んで5回解散しましたね。僕がけっこうネタを書く方だったんですけど、不評だったりで。NSCの中でランクがABCとあったんですが、常にCみたいな状態で。コンビを解散した後に組んでた子が次のコンビで、すぐにAクラスに入れたりして。入澤とコンビ組んで解散したら、Aクラスに上がれるみたいな雰囲気になってました。
(ある意味、アゲじゃないですか?)
あははは~そうですね。僕は沈んで行く一方で、向こうは上がって行くんですよね。NSCの時は、あんまり優秀でもなく、そんないいネタを書けるわけでもないような感じでした。
(新喜劇の方に転向されたのは?)
NSCにも漫才がしたいとか、コントがしたいと思って入ったわけじゃなく、人を笑かしたり、笑顔にするお笑いがしたい、と思って入ったんです。NSC卒業の時に、新喜劇の金の卵オーディションの話が流れて来て、その時、コンビを解散してピンだったので、ちょっとオーディションを受けてみようかなと受けてみた感じです。

―金の卵オーディションはいかがでした?

特技披露は1発ギャグみたいなのをやりました。今となれば、よくあんなことしたなという感じの。面白要素もなく、全く社員さんも笑ってなかったんで、「絶対落ちた」と思って帰ったんですけど、たまたま受かってて。
(お芝居の審査は?)
これまで劇団に所属したり、サークルに入ったことも全くない側にいたんですが、大阪生まれの大阪育ちなんで、新喜劇は小さい頃からずっと見てました。台本もらった時に、内容とか見たことあるし、馴染みもあったんで、まだやりやすかったのかなあ、と思います。
(受かった時はどうでした?)
まさか受かるとは思ってなくて・・・。同期に「受かったわ」って報告したら、僕を含めてNSCから4人受かったんですけど、ほかの3人はAクラスで、合格して当然のような子やったんで、「何で入澤が?」ってみんなに言われました。僕も「どうしても入りたい!」じゃなかったので、入らせていただくことになって、そこから頑張って行こうかな、という気持ちでした。

―新喜劇に入ってみていかがでしたか?

野球部以上に先輩・後輩の関係を感じましたね。師匠と呼ばれる方々がすぐ隣にいらっしゃるし。テレビで見ていた新喜劇の世界がそのままあるのかなと思ってたら、やっぱりタテ社会やな、と。最初は、自分がやりたいと思ったことをやらせてもらえないと思ってたんですが、案外やらせていただけるというか。漫才だと自分たちでやって失敗したら、また自分たちで改善する感じですけど、新喜劇はすぐ近くに何年も経験してる先輩がいて、やろうとしたことを、「こういう風にしたら?」ってアドバイスしてくれて、よりいい形で初披露できるのがいいなと感じました。自分でネタ書いてる時は、何がいいのか悪いのかわからない状態だったのが、「こういうことがわかってなかったんや、ネタはこうした方がより良くなったんや」というのがすごくあって、塾でマンツーマンで勉強を教えてもらえるみたいな感じでした。

―初舞台は覚えてますか?

金の卵9個目は16人いて、15人の座員が入った年の8月~10月にかけてほぼ全員が初舞台踏んだんですよ。僕だけずっと出られなくて、いざ出れるとなったのが、4月で・・・。
(え!? 1年経ってますよね?)
そう、そうです(笑)、僕だけ丸々1年出られへんままで。初舞台が奈良健康ランドで、吉田ヒロさんとか高橋靖子さんと一緒に出た時に、ヒロさんにメチャクチャに振り回されながら、必死に食らいついていったのが思い出ですね。やっと1年経って舞台に出られるという喜びと、吉田ヒロさんという超有名人、小さい頃からテレビで見てた方と一緒の舞台に立ってというので、うわ~ってなってました。舞台上で稽古したのと違う内容を振られて、靖子さんにメチャクチャ暴言吐く流れになって、顔ビンタされて。「うわっ、ビンタされた!」とか言いながら・・・。
(劇場での初舞台は?)
次の週に西梅田劇場で清水けんじさんの舞台に出させてもらって、その次の週が祇園花月で。ダダダッと舞台が続きました。今まで舞台がないままに過ごしてたのに、急にある状態になったので、毎週ついていくのに必死で、毎日緊張しっぱなし。「明日、大丈夫かな」と不安で、寝つけないまま、次の日起きて。楽屋のことも不慣れながらいろいろしないといけないし。落ち着きがない状態でした。

―印象に残っている舞台は?

NGKの初舞台の時、清水けんじさんがリーダーで、清水さんのおしみばあさんが元教師で、廃校になる中学校に15年ぶりに生徒が集まって、出来なかった卒業式をやろうとする内容で(「おしみ先生、15年目の卒業式」)。池乃めだか師匠と初めてご一緒させていただいたんです。僕は借金の取り立て人で、親分がめだか師匠。鮫島幸恵さんに取り立てに現れて、「幸恵、いつまで待たせるんじゃ!」と言うところを、「早苗!」と名前を言い間違えてしまって。直後に親分のめだか師匠を呼び込んだ時、まだ客席がざわついてて、めだか師匠が「何かあったんか?」と言われて、「すみません。名前を間違えました」って、失敗を笑いに変えていただいたんですね。その後、めだか師匠が僕に、小声で「まだ早い」と言われたんです。
(まだ早い!?)
そういう風に遊びだすのは「まだお前には早い」というか、ちゃんとお芝居に戻すために言われたというか。初舞台にしてアドリブやってるんやないと、めだか師匠から教えていただいたな気がして感動したというか。間違えていいところじゃなかったなと、思いました。

―ヤクザ役は多いんですか?

そうですね、ヤクザ役とかチンピラとか多いですね。ほんまに怖いが勝ってしまうような風貌をしてるので(笑)。そこに、「ちょっと可愛げがあったらまだいいよね」と言われてます。いろんな方に「裕さんみたいにやれ」って言われたりするんですけど、吉田裕さんが「お前、コラァ!」って言うのと、僕が言うのとでは全然違う。そもそも見た目が違うし。目つきが悪かったりとか、僕は身長が177cmあって、パッと見だけでもちょっと怖い感じなんで。見た目で変えられないなら、醸し出す雰囲気を日頃から変えて、可愛げのある奴にならないといけないのかな、と。
(どんな風に?)
定期的に笑顔を見せる、ってことくらいですかね~(笑)。ヤクザ役は、話が違う方向に展開するキーポイントの役やないかなと思ってます。プラスα、自分のやりたいボケやお笑いやったりが出来る、いいとこまみれやな、と。やりたいことやるだけやって、逃げるように去って行って。スタートがヤクザ役の方も多いので、まずヤクザ役から実力をつけて行きたいです。ヤクザ役をきっちりとやり切るというのが今の目標ですね。

―先輩からのアドバイスで印象に残っていることは?

小西武蔵さんから言われたことで、「お芝居は聞くもんや」と。小西さんも先輩から聞いたのかもしれないですけど、どんなお芝居をしようとか、いろいろ考えるより、芝居中に相手の言うセリフをしっかり聞いて、自分の返答を考えてセリフにする、みたいな。「相手のセリフや言葉をしっかり聞くことを意識してやってみたらどうや?」と。そう思ったら、新喜劇って急にアドリブを言われることもあるので、小西さんからその言葉を聞いて、実践してみた時に、台本にないことを言われてもパッと返せたり出来るなと思いました。
(流れの中で返せると、面白いですね)
「じゃまするで~」「じゃまするんやったら帰って」「はいよ~」という定番のくだりも、そのまんまやったからといって面白味はないけど、その場で初めてやったようにやるから面白味が出るんかなと。
(「聞く」お芝居だとその時の間が大事ですね)
聞いた上でのセリフになるので、お客さんの感じ方と同じタイミングになると思うんです。なおかつ、レジェンドの方たちは、0・5秒、0・3秒早くに、パッと言えるから、お客さんが笑えるというか。聞きすぎてもダメなんだなと。僕は今、お客さんよりちょっと遅いタイミングだったり、声の大きさや張り方がオーバー過ぎたりして、「外してるな~」と。内場さんたちとか凄すぎるんですよ。同じ舞台に出させてもらって、「あ、やっぱり違うな」と思います。もちろん才能もあるでしょうけど、いろんな方を見てると、「いまだに努力されてるな」と思うんです。レジェンドクラスの方々や清水さんとかも。それに比べると自分はただただ努力してないだけやなって。だから、もっと頑張らなアカンと思います。
(いろいろ考えてますね)
僕ちょっと些細なこと考えすぎだったりするんです。細かいとこ考え過ぎて無駄なところまで考えたり。「要領が悪い」って周りからよく言われるんで、ダメなところでもあるんですが。

―何かご自身の定番ネタを考えたりされてます?

ヤクザ役の時はオールバックにしてたりするんですが、普通の髪形の時に、藍さんから「縄文人や!」ってツッコんでもらって。「昔、教科書に載ってましたよね?」「誰が縄文人やねん!」みたいなネタにしてもらったことがありますね。あと、この前、新喜劇のネタバトルがあったんですけど、ヤクザの扮装でお客さんに向かって、「借りたもん返さんかい! 返されへんのやったら、怖い思いしてもらおか~」で、背広の内ポケットからレッサーパンダの手人形を出して、それが自分のアニキっていうネタをしたんですけど、メチャクチャすべりまして・・・。
(すべった!?)
はい。腹話術みたいな感じでアニキと会話したんですが、それを見てくださった社員さんから「手人形のレッサーパンダが小さすぎて、何やってるかわかれへん」って。
(あ~舞台だから・・・)
「しんど~」ってなって、今、どうしようかな、と。見ため的な可愛らしさもありかなと思って、レッサーパンダの手人形出してみて、それこそ新喜劇の中でも出来へんかなと自分の中では甘い希望を持ってたんですが。メチャクチャすべったんで、ちょっと考え直さなあかんなって思ってます。今は自分でやりたいことをいろいろ試させてもらっているというか。考えたことをそのまま舞台で出来たり、寛平さんのおかげで、自由にさせていただいて、勉強させてもらってますね。

―これから先の野望というか夢とかは?

入澤の野望ですか? う~ん・・・何でしょうね? 吉本の社員さんと仲良くお酒を飲み交わす、というのが野望ですかね。
(え~!? そっちですか?)
いや、ただただ単純に楽しくお酒を飲みたいっていうだけなんですけど。今の自分に「座長になりたい」とかいうものは見えないというか。僕は頭が悪くて、スポーツバカなんで、ほんまに目の前のことだけを一生懸命頑張るということしか出来ないというか。野望っていう意味すら僕の中でわかってないところもアホですね。あっはははは~(笑)。自分が成し遂げたい、目指すところが野望なんでしょうけど。もし、10年先の自分がどうなりたいかって聞かれたら、今、左利きの練習してて、左手で文字書いたりとか、左手でなんかものをやるっていうことをしてるんですけど、両手利きになりたいなということしか考えられないんです。
(あはははは~)
アホでしょ(笑)。
(いや~思いもよらぬ答えだったので・・・)
右利きの人って左脳を使ってるっていうじゃないですか。だから、僕、右脳を使えてないんじゃないかなと思って。左脳ばっかりで、脳みそ全体使えてないな~だからアホなんちゃうかな、と。だから右脳を使えるように左利きの練習しようって。
(ふふふふふ)
アホでしょ~。どうしようもないアホですよ。わかってるんですよ。よく「的外れなことしてる」って言われますし。「左利きの練習して両方使えるようになりたい」って言ったら、引かれたり、怒られたりするんですよ。「何を言ってるんですか?」「マジ怖い」とか。同期の大塚澪にも、「入澤君はそういうバカなんよ。頑張れば?」って言われて。
(ははははは~)
入澤の野望は、「左利きの練習して、10年後に両利きになりたいです」ってどうでもいい話ですけど。
(なにか舞台で使えるかも!?)
そんな訳ないでしょ。何がどうつながるんですか?(笑)。テキトーに言うてますやん。
(いや~面白いお話でした)

―今、ハマっていることや趣味は?

タップダンスをやってます。あとは腹話術ですかね。何か一芸があった方がいいというのがあって、何をしたいかなと思ったら、映画の「浅草キッド」見て、タップダンス出来るようになりたいな、というのと、昔からあんまり口を動かさずに喋るというのが癖だったんで、もしかしたら腹話術出来るんちゃうかな、と思って、この2芸を身につけれるように。
(タップダンスはいつ頃から?)
去年の7月くらいからです。タップダンスをしながら、何かネタにつながれへんかな~と考えたりして。ヤクザが取り立てで絵画を差し押さえて、その絵の裏が板になってるから、床に置いてその上でタップダンスして、「お前、何してんねん!」っていうボケだったりとか。やってて楽しいですね。
(新喜劇はやっていて楽しいですか?)
最近は楽しいより、難しいなあ、と。座長さんも、今3人いらっしゃるじゃないですか。3つの脳があって3つの意見がある中で、ひとつの答えを出さなきゃいけなかったりするじゃないですか。レジェンドの方もいっぱいいらっしゃって、あの人はこう言ってるけど、別の人は別の意見だったりとか。その板挟みになりながらも、自分の答えを出そうとしていると、最近たまに、自分を見失ってしまうような感覚になりますね。「どうしたらええんやろ? 俺、何がしたかったんやろ?」ってなった時に、自分に一番合っている答えを選ぶのが難しい。全部が正解なわけですから、自分の答えを出すまでの難しさみたいな。あとは、自分の考えたネタが上手くいかないのが続く時、「何とかしたいな、どうやったらいいんやろう?」って作り続ける難しさもあります。考えすぎ、悩み過ぎって言われるんで。
(悩みながら、ご自身の笑いを作り出してくださいね)

2022年10月30日談

プロフィール

1995年4月26日大阪市出身。
NSC39期。2017年金の卵9個目。

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