MBS(毎日放送)

第111回 いがわゆり蚊

どう考えても美人やと思うんで、マドンナ出来ると思ってるんです。

―小さい頃からお笑いは好きでしたか?

大阪の出身なので、基本お笑いに接しながら生きて来たんですけど、特に誰かのファンとか、「芸人になるぞ!」っていうのはなかったんです。 短大を卒業する時、あまり就活をしてなくて、「どうしようかな~」という時に、たまたま金の卵になる前の新喜劇のオーディションがありまして。 軽い気持ちで受けたら、最終まで残ったのに最終で落ちたんです。 「落ちた~」と思って。 で、もう1回ちゃんとやってみようと、1年くらいフリーターとしてお金を貯めて、NSC27期として入ったんです。
(もし受かっていたら、同期は?)
もう、誰もいらっしゃらないんですけど。 今、新喜劇の台本を書いてる宮崎高章さんとかが、受かった時で、その人たちの初舞台は「baseよしもと」に観に行きました。 落ちたことによって、逆に火がついた、みたいな。

―NSCはどうでしたか?

普通に授業を受けていたというか、ネタを作って、ネタ見せして、講師の方から「こうした方がいい、ああした方がいい」と言われるのを1年間繰り返すだけで。 NSCって、高校卒業してすぐに入って来る子が多くて、18歳くらいの子が多いんです。 私は歳が3つほど上で、キャピキャピ具合が違ってて、ひとり、お姉さんみたいな感じで。 誰とも組まずに、1人で淡々とネタをやって、ず~っとピンでしたね。
(いがわゆり蚊の芸名はNSC時代から?)
初めてのネタ見せの授業で、他のみんなが意気揚々と芸名やコンビ名をホワイトボードに書いてた時、「芸名、考えてない。どうしよう?」と、本名の井川由梨香から、いがわゆりか、ゆり香? ゆり蚊…とインスピレーションで閃いたのが「いがわゆり蚊」だったんです。 後で、蚊は人様の血を吸い生命力を高める生き物で、他人様の何かを吸い取ってでも邁進して行きたいという私の姿勢とピッタリで、周りの方々からも雰囲気に合ってると言われることも多くて。 新喜劇に入団の際、変えた方がいいのではという声もありましたが、変えることなく、そのままでやってきました。

―卒業後10年ピンで活動されてました。

NSC卒業ぐらい時に、今の金の卵1個目のオーディションが始まって、受けようか迷ったんです。 その時の吉本の関係者の方とかに、「金の卵はこれからもあるから、もうちょっとピン芸人として実力とかつけてから、またタイミングが合えば受けてもいいんじゃない?」と言われて。 ピンでやったら、そんな大きい結果とかは出てないですけど、お仕事もそれなりにあったんで。 金の卵1個目のオーディションを横目で見ながら、「この人たちが受かったんや~」と思いつつ、2個目、3個目と、ず~っと横目で見ながら…。
(10年間、ず~っと横目で…)
そうですね、横目でにらみを効かせながら、ず~っと見てました。 その間に、新喜劇に入りたいのを忘れるくらい、ピンのお仕事を一生懸命、それはそれで真剣にしてました。 でも、このまま、ずっとこんな感じなんかなあ、こんな感じやったら、辞めてしまった方がいいかな、というのはあったんです。 その前に、初心に戻って新喜劇をしようと思って。 ネタや漫才をしてた、いわゆる色もんの人が新喜劇に行くと、軽い気持ちとか見られがち、言われがちなんですけど、ホント、私は10年くらい思ってて、誰よりも新喜劇に入りたかったんです、とPRしてました。 あははは~(笑)。
(じゃあ、絶対受かる、と?)
「私が落ちたら他に誰が受かるの?」くらいに思ってました。 けっこう頑張って来て、芸歴もあるし、年齢も30越えてましたし。 フレッシュな何色にも染まってない、天使みたいな人が欲しいんだったら、私は落ちるかもしれない、でも、即戦力とか、お笑いのこと、吉本のことを考えるとか、いろんな幅広い意味で、私を取らなかったら、誰を取るのかしらと…。 なので、受かった時は、「ありがとうございます~」っていう感じでした。

―初舞台は覚えてますか?

川畑さんの週で、看護師さんの役だったんですけど、白い衣装でパンツがスケスケで、「ぎゃあっ!!」ってなったのを覚えてます。
(え~っ!?)
新喜劇は衣裳も用意してくださるので、何回も出られてる方は、看護師の衣裳の時は見えないようなベージュの下着を着けたりとか、みんなそれぞれ、衣装に下着を合わせて着られるんですが、私は慣れてなかったんで、知らなくて。 普通に赤い花柄かなんかのパンツを気にせずはいてて、普通に透けてて、「こりゃアカン!」みたいな。 慌ててベージュ色で線が出ないパンツを買いに行くという。 パンツスケスケ事件でした(笑)。
(衝撃のデビューでしたね。お芝居はいかがでした?)
意外と、新喜劇のお芝居が出来なくて、難しいな、というのがありました。 ピン芸人の時は、私が考えて、私が演じて、ウケてもスベっても全部、私の責任で。 思うがままにやってて、どうにかなってきたんですけど。 違う方が考えた台本と、今までやって来られた方の決まった流れとかがあって、こんなに出来ないんだと思いましたね。
(そうなんですね)
声の出し方とかも、「あ~おうどん、美味しかった!」っていうのを、大きな声で普通に言う、というのが難しくて。 叫べば大きな声が出るけど、それは違うじゃないですか。 「声が小さい」と言われて、「ええ~っ!?」ってなって。 普通に見てたら出来そうな事が意外と出来ない、という壁にぶつかりました。 しゃべる間とかも、「ピン芸の間で、芝居の間になってない」とか。

―先輩からの印象に残るアドバイスは?

「あははは~」って笑うお芝居があったんですけど、「笑い方が嘘っぽい」って言われて。 本当に楽しくて笑っているように見えない、嘘みたいに見えるって、須知さんから。 自分で直してるつもりですし、どんだけ普通に笑ってるようにしても、「ウソ笑いにしか見えない」と言われた時とかは、やればやるほどわからなくなって来て。 お芝居ブラックホールに引きずり込まれたまま、右も左も何もわからなくなる。 不思議ですよね。 これが正解って合う時もあるんですけど、合わないまま、「これで合ってるのかな? まだ違うな」と思いながら1週間終わるってことも多々あります。
(正解がないんですね)
私が出来てる、これでいいやと思ってても、周りの人はそれでいいと思ってなかったり、逆に自分が「出来てないな~」と思ってても、「その感じでいいやん」と言われたり。 舞台はみんなで作るものなので、なんか答え合わせが難しい。 感覚でしかないので。 ピンの時とかは、お客さん投票とかでネタの順位が出たりとか、笑いがあって、ここは受けるんや、これでいこうとか、自分だけで出来たし、YES・NOが返って来たけど、新喜劇はそこがメッチャ難しいな、と。 お芝居ブラックホールでもがいております。

―印象に残っている舞台は?

営業で行く地方公演で、ずっと昔から演じられている人情もののお芝居があるんです。 そのお芝居の中で、セリフがめちゃくちゃ長くて、笑いとかもない、泣きながら1人だけで喋る役をやらせてもらう機会がありまして。 他の方は何回かされてるので、稽古もなしで、当日の舞台で合わせるだけやったんですよ。 私だけ、そのお芝居が初めてで、セリフを覚えるのに必死で、動きとかもあるし。
(どんな役ですか?)
子どもを捨ててしまう若い女性のお姉さん役で。 その子どもを育てて行こうとしてくれた人のところに、子どもを迎えに行って、引き取りたいと言うんです。 貧しくて、子どもを育てられないと思ったことを後悔していて、姉が1人で「どうかその子を返してやってください」と訴えるんです。
(すごくシリアスなお芝居ですね)
もの凄い長ゼリフで、泣きながら「ちょっと聞いてください」みたいな。 意外とラッキーと思ったのは、泣きながら言うので、噛んだり詰まったりしても、しゃくり上げたら、お芝居やと思われるな、って。
(ははははは~)
ふふふふふ。 ここ最近ですごいそれが自分の中で衝撃的でしたし、頑張ったというか。 感情を乗せる役の時は、詰まっても噛んでも意外とごまかせるっていうのが、わかりました。

―お世話になった先輩とかは?

けっこう浅く、広くというタイプなので、どなたかにすごいお世話になったというのは…。 皆さん、気にはかけてくださったり、言ってくださったりはしますし。
(しっかりしてるから、放っておいて大丈夫、と思われてるのでは?)
全然、しっかりしてないですけどね、ほんとに。 でも、気を吐いて舞台とかお笑いとかお仕事だけをビーッて必死にやってた時期は30代前半くらいで終わって、今はもう、仕事は楽しくというか。 折角、楽しいことをする職場にいるので。 楽しいオーラでハッピーに。 人として悪いことせずに、性格良く、生きていきたいなと思います。
(うん、うん)
「私が、私が」みたいな、「絶対、一番オモロイねん!」みたいな、「周り全員敵!」みたいな、ナイフみたいな時期もあったんですけど。
(あ~そうなんですね)
そうなんですよ~(笑)。ほんとに。 同期とか、先輩や後輩の結果にメッチャ嫉妬して、一喜一憂したりとか。 お笑いのことばかり、ずっと考えてるので、アルバイトもままならなくなって、借金とかしたり。 人生がお笑いだけになって、白目になって、性格悪くなって。 メチャクチャ頑張ってたと思うんですけど。 新喜劇に入って、そういう時期もあったんです。 新喜劇って、出番も決まっているので、全部の舞台観て、「く~っ」とかなってる時期もあったんですけど。 心に良くない、こ~んな白目して…「く~っ」ってなって、出番があったらあったで、「出番や~」ってなって、上手くいかなくて、また「く~っ」ってなる…。
(あはははは~)
そういうのじゃなくて、人としてちゃんと自分を整えてからの新喜劇だな、という風に変わりました。
(そんな風に思われたのは、いつ頃からですか)
そうですね。 新型コロナが関係あるのかないのか、ここ2、3年ぐらいですかね。 諦めではないんですけど、この現状でそのまま高めていけばいいと思うようになりまして。 ちゃんとした精神の状態で、出番があった時に、いい状態の自分で臨めればと思います。

―これからやりたい役とかは?

ここは文字にして欲しいんですが、どう考えても美人やと思うんで(笑)、マドンナ出来ると思ってるんですよ、私。 ほんと真剣に。
(おお~っ)
全然ボケなく、普通に。 それを100回くらい社員さんに言ってるけど、まださせてもらえないです。
(あはははは~ふふふふ)
あはははは(笑)。そういうのをチャンスがあったらしてみたいし。 あとは、楽しいババアみたいな。 新喜劇の中でおじいさん役、おばあさん役はとっても愛されキャラだと思います。 何をしても許される感じで。 もう少し歳を取って、道歩いてたら、「あ、いがわのババアやんけ!」と言われるようなババア役をやりたいですね(笑)。
(いじわるばあさん、みたいな?)
いじわるばあさんって、ホントに可愛げがある。 それは私の持ってるもんの出し方やとおもうんですけど。 いじわるだけだったら、その役でずっと出るのは難しいと思うんですけど、メチャクチャいじわるやけど、憎めないとか、面白いとか。
(女性で、そのポジション、いないかもしれませんね)
狙って行きます、ババアで(笑)。 桑原師匠の和子ばあちゃんみたいな感じが、女性で出来たらほんとに素敵やなって思います。 お芝居の中で出てくるおばあちゃん役で周囲をかき回す、みたいな。
(その前にマドンナ役をやってくださいね)
マドンナもやります! 結婚反対されて、駆け落ちとかして…。
(宮崎さんに台本書いてもらって…)
宮崎さんには個人的にずっと言ってるんですけど、「う~ん」って。 うはははは~(大笑い)。 ま、成り立たないんでしょうね。 お芝居力があったらって、ことですよね。 遠目で見たら、全然行けると思うんです。 出て来た時から、「この子は美人なんや」「きれいね」と、周りが徹したら、お客さんもそう見てくれるじゃないですか。 1回やってみないとわからない。 やらないで後悔するより、やってみて後悔する方がいいと思うんです。 宮崎さんも1回、私をマドンナに台本を書いてみてから後悔した方がいい。
(あははは~マドンナ役見てみたいので、ぜひ、頑張ってください!)

―ハマっていることや趣味とかは?

鳥が好きで。インコを飼ってます。 見るのも食べるのも好きで。鶏肉もとても好きで。 あと、お料理がすごく好きで、私のお料理宗教みたいなものなんですけど、つまらないものを食べている人はつまらないと思うんですね。
(ほ~)
愛情とか、一緒にお食事をとる相手とか、その場の面白さとか、何でもいいんですけど、楽しいほっこりご飯を食べてたら、いい人になるし。 つまらないご飯を食べてたら、それがいくら高級なお寿司とかでも、つまらない人になる。 人は食べ物で出来ていってると思うので。 自分の食事も、ちょっと1個500円くらいのトマトをたまに買ってみたりとか。 贅沢出来る範囲で楽しめる贅沢をご飯でしたりとか。 お腹空いたから適当に何でもいいのではなく。 カップラーメンでも、美味しそうなのを見かけたから買って、わくわくっていう気持ちで食べたい。 ご飯に対しては、楽しい気持ちで食べたり作ったりしたいな、というのがあります。 インスタグラムに作って載せたりとかします。
(ご飯にこだわるきっかけが?)
飲食店でアルバイトしてることが多いので、皆さん、真剣にご飯を作って、メニューを考えてたりして。 すごい素敵な料理人の方と接する機会もあったので、その影響もあるのかもしれない。 お食事の大切さとか、ご飯が楽しいとか。 もし、新喜劇とかお笑いしてなかったら、飲食店で働いたり、自分でそういったご飯屋さんをしたいなという思いは今でもあります。
(ちなみに、インコには名前が?)
最近来た子が、ペットショップで売れ残ってた子で。 ペットショップの方って、基本、売れちゃうからペットの名前付けないんですけど、いっぱい種類がいるから、呼び寄せないといけない。 その子の色がシナモン色だったので、「シナちゃん」と呼ばれてまして、信濃岳夫さんのあだ名と同じで。
(はい、はい、ふふふふ(笑)。)
信濃さんには、「この度家族が増えまして、シナちゃんという信濃さんと同じ名前の鳥を買うことになりまして、インスタグラムで「シナちゃん」「シナちゃん」って言ってますけど、すみません」と、ご報告だけ。 シナちゃんはとてもいい子なんです。 他に、もみじ「もみちゃん」と、「しばふちゃん」という子と…。
(しばふ? ひょっとしてその子は緑ですね)
はい、緑なんですよ。 めちゃくちゃ凶暴で、噛みつきまくって、血が出ます。 もみじは赤じゃなくて黄色なんですよ。 優しい子なんですけど、数年以上いてて、おばあちゃんなんですよ。
(いつも鳥と一緒になごんでいらっしゃる?)
朝と夜は鳥タイムで、まったり過ごしております。 鳥を肩に乗せると、表情が和らぐんです。
(雰囲気、ちょっと綾瀬はるかに似てますね?)
おっしゃる通り、ほとんど綾瀬はるかなんですよ。 ふふふふ。

2022年1月23日談

プロフィール

1982年9月5日大阪府豊中市出身。
2004年NSC大阪校27期生。
2014年金の卵7個目。

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