京アニ裁判、14日も被告人質問が続く。青葉真司被告(45)の事件当日までの4日間が、本人の口から詳細に語られた。埼玉から京都への道中、新幹線の窓からぼんやり外を眺めて、小説が落選したことや、京アニの女性監督のことなどを考えていたという。

【入念な下見 たかぶる精神状態】

《7月15日 事件3日前》京都駅に到着。青葉被告が最初に考えたことは「(京アニの)第一スタジオに火をつけるための下見」だという。宇治市の木幡駅まで行ったものの、第一スタジオの場所を「実は知らなかった」と法廷で明かした。

弁護人「行く道を聞いた?誰かに」
青葉被告「道を聞くと証拠が残る。やることが良からぬことなので、人との接触は最小限に絞ろうと思った」
周辺を歩き回ったが第一スタジオにはたどり着かなかった。この夜、京都駅近くのホテルに宿泊。

《7月16日 事件2日前》京都駅前のインターネットカフェに入って、「第一スタジオの場所」を検索して把握した。六地蔵駅で電車を降り、堤防の高いところから第一スタジオを遠目に確認した。ホームセンターの場所を確認するも、ガソリン購入は見送る。ホテルで宿泊。

《7月17日 事件1日前》ホームセンターでガソリン携行缶、ライター、台車など一式を購入。所持金はかなり減り、「もうホテルには泊まれない。」さらに「危険物に類似した容器を持って電車に乗るのは危うい」と判断して、4時間歩いて移動。第一スタジオ近くの公園で野宿した。この3日間、青葉被告は眠れなかったと話し、「よからぬことをする前。熟睡できるほど神経は太くない」と、当時の精神状態について述べている。

《7月18日 事件当日 逡巡と決断》

事件当日の朝。コンビニで購入した牛丼とカップラーメンを食べ、ガソリンスタンドでガソリンを入手した。台車を押して、第一スタジオの前に着いた青葉被告は、いざ到着すると、こんな考え事をしたという。

青葉被告「やることが、あまり好ましくないのではないかと。秋葉原で殺傷事件を起こした加藤智大元死刑囚も、実行前に考えたということだったと思うが、自分もやはり、そういうことを本当に実行するかについて考えた」
弁護人「なにを考えた?」
青葉被告「遡ってこの10年間、郵便局で働いて辞めさせられ、刑務所に入れられて、小説を京アニに送ったら原稿を叩き落されて、パクリもあった。それらを振り返っていた」
弁護人「考えた結果、どうなった?」
青葉被告「どうしても許せなかったのが京都アニメーションだったということになります」

それから実行に移した。ガソリンをバケツに入れて、開いていたドアから侵入。入ると近くに作画をしていたような1人と、奥に女性が2人いるのが見えた、女性らは『何、何?』と言っていたという。青葉被告はガソリンを、右手で振り上げる感じで、一面に撒き、すぐに火をつけた。(※青葉被告の発言より)

弁護人「火をつけた前後で、見えたものや聞こえたものは?」
青葉被告「周りの人が『なんだ、なんだ』という動作をしていたと思うんですけど、建物に入って火をつけて出るまで30秒もかかっていない。周りも『何やってるのか』って感じだったと思いますし、自分も火をつけて即座に逃げた」
火は青葉被告にも燃え移った。地面に寝転がって火を消したところで、警察官に確保された。

弁護人「当時はどう思っていましたか」
青葉被告「「パクったり、をやめさせるには、スタジオ一帯を潰すくらいのことをしないとだめじゃないかという考えはありました」
弁護人「確認ですが、今回の事件はナンバーツーに対するメッセージということ?」
青葉被告「それもあります」
弁護人「ナンバーツーが京都アニメーションを通じて、青葉さんにしてきたことはなんですか?」
青葉被告「作品を落とすとか、パクってくるとか、そういうことになります」

【検察官「ナンバーツーは“パクったことに関わっていない”ですよね?」】

午後、検察側の被告人質問がはじまった。女性検察官がこう切り出す。
検察官「3日間あなたの話を聞いて、よくわからならかったことを最初にお尋ねします。」「(京アニに)腹が立っていたのはパクられたから?」
青葉被告「そうなります」
検察官「盗用されたことは、京アニや(青葉被告の言う)女性監督がしたことですよね?」
青葉被告「そうなります」
検察官「ナンバーツーって、“パクったことに関わっていない”ですよね?」
青葉被告「えー、もうすこし正確に言うと…(説明を続ける)…影響力はもたらしているので、おそらくパクったことに関わっていると考えます」
検察官「落選した後に、女性監督はどんどんのぼりつめて、あなたはどんどん下がる気持ちになったといいますね?」
青葉被告「そうなります」
検察官「それでうんざりしたということでしたね?」
青葉被告「そうなります」
検察官「うんざりしたことに、“ナンバーツーは関係していない”のではないですか?」
青葉被告「うーん(10秒くらい、首をかしげながら考える)」

検察官は、ナンバーツーと京アニを分離するような質問を重ねた。ここでいったん区切って、次のテーマに話を移す。

【計画性問う「ハンマー買ったのはなぜ?」「ジュースはなぜ?」】

検察官は、午前中に弁護人が聞いた【事件直前の4日間】を改めて質問する。しかしその聞き方は、「青葉被告の念入りな計画性」を浮かびあがらせようとするものであった。

検察官「第1スタジオ下見のあと、ホームセンターに行ったが、物品購入を翌日にしたのはなぜか?」
青葉被告「ガソリン携行缶となると危険物として警察に逮捕されるかもしれない。電車に乗る、ホテルに泊まるにあたり、やはり犯行当日に購入するのが良いと思った」
検察官「ホームセンターでハンマーを買ったのはなぜか?」
青葉被告「(第一スタジオの)入口が開いていなかったら入口を割るため」

さらに検察官は、青葉被告がコンビニ店員に「ホームセンターまでの道を聞いた」ことに触れ、その際なぜ、ジュースを購入したのかと尋ねる。
青葉被告「自分がコンビニ店員だったので分かるのですが、何かを買った拍子で聞くほうが自然かなと思った。道だけを尋ねると『客なのか?』と思われそうだった」「強く印象に残るのを避けたかった」

検察官「午前10時30分ごろに犯行した理由は?」
青葉被告「朝の出勤時間はみんな立ち上がっている、昼は食事で、午後3時はラジオ体操で立ち上っている。午前10時半ごろだと、みんな座って作業しているので、止めに入られることはないと思った」

【秋葉原事件への共感“犯罪の着想か”】

さらに検察官の質問で、青葉被告が過去の重大事件から着想を得ていた可能性も、初めて判明した。
検察官「どうしてガソリンを使った?」
青葉被告「消費者金融『武富士』でガソリンを撒いた殺人事件を知って」
検察官「なぜ包丁を(6本)持って行った?」
青葉被告「秋葉原の殺傷事件の思いがあった。刃物は1人、2人切りつけると切れなくなる。すると、ガソリンを撒いたあと、止めに入られるかもしれないので」
検察官「秋葉原の事件への思いとは?」
青葉被告「仕事をクビになる、転々としていたことなど(秋葉原殺傷事件の加藤智大元死刑囚に)共感というか、類似点があった。他人事とは思えなかった」

そして犯行直前の十数分、第一スタジオ付近の路地に青葉被告が座っていた、犯行前“最後の心理状態”に質問が及んだ。

検察官「犯行前、半生をどのように振り返った?」
青葉被告「(半生は)暗いと考えた。京アニメーションは『光の階段』、自分の半生は余りにも暗い。コンビニ時代にもがいたが実を結ぶことはなく、終わった。」
検察官「犯行へのためらいは?」
青葉被告「ためらうものです。自分みたいな悪党でも小さな良心があった。正しいのか良いことなのか。でも1999年からの20年間は「暗い」と考え、ここまできたら『やろう』と思った。」

重要な局面だからか・・、検察官はこのあと時間をおいて、犯行直前の心理状態について、改めて青葉被告に聞きなおした。

検察官「放火するか、迷っていたということ?」

検察官「路地に腰かけていた?」
青葉被告「こんな感じで考えていました(手を頭に添える)」
検察官「放火するか、迷っていたということ?」
青葉被告「そうなります」
検察官「十数分となると『どうしよう、よしやろう!』ということですか?」
青葉被告「大きなことをやろうとなると、そんな単純に『じゃあやろう』とはならなくなる、自分みたいな悪党でも良心がないわけではないというか、良心の呵責を抱えたままいくと、そういう部分はある」

検察官「やろうか、やめようか、というラリーを何回か繰り返したということ?」
青葉被告「そういう部分があります」
検察官「呵責ということは、やろうとしていることが悪いことだと分かっていたということ?」
青葉被告「そうなります」
検察官「当時そういう風に思っていた?」
青葉被告「そうなります」

それでも最終的に、青葉被告は火を放った。そして無関係の京アニ社員36人が犠牲となった。被告人質問は判決までに、あと7日続く。まもなく、遺族の代表が質問に立つ予定だ。