13日の弁護側による3回目の被告人質問は、こんなやりとりから始まった。

弁護人「(過去に服役していた刑務所の中で)繰り返し出てきた言葉はありましたか?」
青葉被告「結婚という言葉です」
弁護人「どういうことですか?」
青葉被告「福山雅治さんや『けいおん!』の声優、芸人の『あばれる君』が結婚していて、自分にも結婚させようとしているのかなと」
弁護人「誰と誰を?」
青葉被告「自分と『女性監督』とを」

青葉被告はこれまで、京アニの女性監督に一方的に好意を寄せていたとし「ネット上の掲示板で実際にやりとりしていた」とも主張した。一方で同じ人物を、青葉被告が応募した小説の内容を「パクった相手」とも持論を展開している。その監督と「誰が結婚させようとしているのか?」と弁護人に尋ねられ、被告はこう述べた。

青葉被告「おそらく、ナンバーツーという方かと」

この日もまた青葉被告の発言に「(闇の人物)ナンバーツー」が現れた。青葉被告の主張によると、被告を監視するよう警察の公安部に指示を出しているとされ、ハリウッドやシリコンバレー、官僚にも人脈がある「闇の世界に生きるフィクサー」だというが…。弁護側は「青葉被告の人生をもてあそぶ『闇の人物』が、京アニと一体となって嫌がらせをし、その反撃として事件を起こした」と犯行動機につながる存在だと主張していて、青葉被告の発言に法廷内がグッと集中する。

小説落選で絶望感「裏切られたと思った」

青葉被告は「京アニ大賞」に小説2作品を送り、いずれも落選したときの心境を口にした。そして落選に「ナンバーツー」が関係していたと主張したのだった。

青葉被告「がっかりしたし、裏切られたと思った。受賞まではしなくても、編集者から目をつけられて、何かしら依頼があるとは思っていた」
弁護人「誰が小説を落選させたと?」
青葉被告「・・・(沈黙、首をかしげる)」
弁護人「言いにくいですか?」
青葉被告「・・・(しばらく沈黙して)先ほど述べた『ナンバーツー』という人物です」
弁護人「言いにくそうにしていたのはどうして?」
青葉被告「そこまで踏み込んで、明らかにしてもいいのかと」

これまでの被告人質問で、傍聴した記者らが驚くほど饒舌に語っていた青葉被告だったが、この日に限っては上記のやりとりのごとく歯切れが悪い場面が目立った。

”今回は特別な負け方だから、いいんだけど(掲示板への書き込み)”

続いて当時、青葉被告がインターネット掲示板に書き込んだ言葉の数々が読み上げられ、青葉被告が自ら説明した。

青葉被告「『ナカノトモミの事件簿』という短編推理小説を送ったのは9月で、『リアリスティックウエポン』という長編小説を送ったのは11月28日でした。その3ヶ月間で、重複箇所を全部修正して送りましたが、そのうえで落選したという負け方。”そういう負け方なので、いいんだけども”と」

青葉被告「おそらく『ナンバーツー』が、京アニに(お金を)落とすという条件で、自分の作品を落としたと。それだけアニメ業界やゲーム業界、テレビ業界などにツテや顔が利くのはおそらく彼しかいないので。それをやられたら誰も勝てない。『いくらなんでもそこまでするか?』と思っていました」

そして「ナンバーツー」に対する感情を、ネットに書き込み続けたという。
”「もう無茶苦茶。『相手』は諸葛孔明で余興程度らしい。ありえん。こっちは全力生き抜いているが、相手の人は」(掲示板への書き込み)”

弁護人「『相手』というのは?」
青葉被告「『ナンバーツー』です。自分が色々考えて作品を書き直したり、全力で作品を書かなきゃいけないのに、『相手』は電話1本で済む話。向こうの『相手』は余興、遊び程度で、こっちは全力という思いで書き込んだ」

小説への”強いこだわり”見せた青葉被告

青葉被告は京アニ大賞に、短編小説「ナカノトモミの事件簿」、長編小説「リアリスティックウエポン」を送っている。きょうの裁判では、初めて青葉被告が持っている「小説観」が明らかになった。

青葉被告によると、主人公を描く際は、ダメなところや短所を詰め込むことを意識するというのだ。「短所を描くことで『親しみやすさ』を持ってもらいやすくなる」と雄弁と話す姿に、小説家を志していたプライドのようなものが感じられた。それが反映された一節は、長編小説の中の、男子高校生が担任教師から「このままだと留年だぞ」と言われる場面だといい、この描写には「しょっぱなから、ダメ人間であることを表現したかった」という狙いがあるのだという。

ちなみにこの場面は、青葉被告が「京アニ作品『けいおん!』に盗用された」と主張している部分である。

続いて「盗作された」という一方的な思い込みから、小説のネタ帳を燃やすなど行動が過激になっていく過程が語られた。青葉被告が当時の心境を語る。

青葉被告「京アニとも関わりたくないと思った、と思う。10年間コツコツアイデアを書きためていたものなので。燃やすことで『もう関わらない』という意思表示になると思った記憶がある。燃やしたら灰になるのでリカバリーがきかないと思い、捨てるのではなく燃やした」

しかし、ネタ帳を燃やしたあとも、京アニと関わりを断つことはできなかったようだ。

”すげえ。ツルネまでパクってやがる。ここまでクズども、見たことねえ(掲示板への書き込み)”

これは、京アニ事件の発生約半年前の書き込みだ。同じ日に書き込みは続いていく。

”『京アニに裏切られた』なんていうのも、あの時もっと細かく気にして『これはなんかあるぞ』と予測しとけばわざわざ『爆発物もって京アニ突っ込む』とか『無差別テロ』とか『裏切られた』など感じる必要もないわけで」(掲示板への書き込み)”

この時期に、前述した「女性監督」が賞を受賞したニュースを見たといい、当時の心境についてこう話した。

青葉被告「モノを作ってちゃんとしようとする人間よりも、パクった人間が評価されるのがうんざりしていた。女性監督はどんどん上に行くけど、自分はどんどん下に下がっていく」

そして『大宮駅無差別殺人事件計画』

京アニ事件発生の約1か月前。青葉被告は埼玉・大宮駅前で「無差別殺人事件」を起こそうと計画した。この日初めて、その内容や動機が明らかにされた。

青葉被告「大きな事件を起こさないと、警察の公安部の監視や京アニが(自分の)作品をパクるのをやめないのではないかと思った」。

事件を起こして、「作品の盗用」が無差別殺人につながったと「京アニ」にわからせる狙いがあったというのだ。計画は2008年東京・秋葉原の無差別殺傷事件を参考に、刃物を6本購入して進められ、青葉被告は自転車で大宮駅に向かったという。しかし駅の西口は、想像していたよりも人が少なかったという。そこで埼玉での計画は断念、近くのホテルに1泊して、モーニングを食べて出たそうだ。

青葉被告「この程度の密集度では、刺したとしても、すぐに驚かれて逃げられると即座にわかった。なので、そんなに大きな事件にはならないのでは思ってやめた」

この約1か月後、青葉被告は京都へ向かうことになる。