京都アニメーション放火殺人事件の裁判。第2回目の6日は、検察側の「証拠調べ」から始まった。青葉被告は5日の初公判と同じ服装、車いすで法廷に現れた。そして事件当時、青葉被告が確保された直後の、警察官との緊迫したやり取りが録音された音声記録で公開された。
【公開された警察官と青葉被告とのやり取り】
警察官:「おい、名前を言え」
青葉被告:「青葉!」
警察官:下の名前は?
青葉被告:「真司や!」
警察官:「なんでやった!?言わなあかん!頑張れ!言え!」
青葉被告:「パクられた!」
警察官:「何を!」
青葉被告:「小説!」
警察官:「全く関係ないところやらんやろ?」
青葉被告:「お前ら知ってるだろ!」
警察官:「頑張って言え!言う責任がある!」
青葉被告:「お前らがパクりまくったからだろ!小説!」
警察官:「何人もケガしている!言わなあかん!」
青葉被告:「全部知ってるだろ!(涙声)全部知ってるだろ!(涙声)」
警察官:「ガソリンどれぐらい撒いた!頑張って言え!」
法廷内のモニターには、このやり取りが白い字幕で映し出され、青葉被告は食い入るように見つめていた。
母親「他人のせいにする性格も元夫譲り」
その後、青葉被告の家族、母親や兄などの供述調書を、検察官が読み上げた。
(母親の供述調書より)
「真司は小さい頃は可愛いらしい、元気で活発な子だった。友達も作ることもできていた。家事を手伝って、得意げに自慢してくれることもあった」
「夫(被告の父親)と離婚した際、親権は夫に渡り、3人の子どもとは10年以上会うことはなかった」
兄「冬にベランダ立たされ、水かけられた」カラオケでは「アニソン」
こうして母親の元を離れてからの生活は、青葉被告の兄の供述調書で明かされた。
(兄の供述調書より)
「真司が小学3年生の頃に両親が離婚し、私を含めた子ども3人は父に引き取られた。その頃から父のしつけが厳しくなり、冬に私と真司がベランダに立たされ、水をかけられたこともあった。ただ、私と真司の体が大きくなると、虐待のようなことはなくなった」
「真司は埼玉県立高校の定時制課程に入学し、日中は県庁で文書整理の仕事をしていた。定時制高校の授業は休まなかった。真司が体調不良の時に『バイクで送ってくれ』と言ってきたのでバイクに乗せて行ったほどだった」
「カラオケに一緒に行くと、真司は女性のキャラクターや女性の声優が関連するアニメソングを歌っていた」
「性格は父親そっくり」青葉被告は頭を小刻みに揺らす
厳しかったという父親は、1999年に死亡。その後、青葉被告は2007年に別の事件で有罪判決を受け、再び母親と暮らすことになった。
(母親の供述調書より)
「執行猶予が付いたので、真司は、私と、私の再婚相手が住む家で暮らすようになった。ある日、再婚相手と真司が口論となり、再婚相手が『お前に夢はないのか!』と問うと、真司は『罪を犯した身だから夢なんて持っていない!』などと大声でまくし立てた。その後、真司は部屋に引きこもるようになった」
「ある工場での勤務も、数か月で辞めたが、真司が言った理由は『周りの作業員の作業スピードが遅くて嫌になったから』だった。他の人のせいにする性格も元夫譲りだと思った」
母親の供述調書の中で、「真司の性格は元夫にそっくりだ」とする部分が何度か読み上げられると、法廷で青葉被告はその度に、頭を小刻みに揺らすような動きが見られた。
好きだったのは『CHAGEandASKA』の曲 母親に小説の話も
次に、妹の供述調書が読み上げられた。青葉被告の人となりや、好きなものなどについての話しがあった。
(妹の供述調書より)
「真司は『CHAGEandASKA』や『LUNASEA』などを好んで聞いていた。音楽や音にこだわりがあり、『BOSE』というブランドのスピーカーを購入し、家のどこに置いたら一番音がよく響くかということを考えていた。『本物のスピーカーはいい音がする』などと言っていた」
「好きな食べ物は、ラーメン、焼きそば、カレーライス。安売りしているものをたくさん食べるのが好きで、例えば、マクドナルドのハンバーガーを10個買ってきて食べていることもあった」
一方、青葉被告が過去に起こした窃盗事件の裁判での様子や、京アニ事件の動機のひとつともされている「小説」に関するエピソードも明かされた。
「法廷で、真司が『なにをやってもうまくいかない、俺の人生なんてこんなもんだ』と嘆くと、裁判官から『家族がいるんだからちゃんとやり直しなさい』と言われていた。執行猶予付きの判決が出て釈放された日、身元引受人となって離婚した母から『これまで何をしていたの?』と尋ねられると、真司は『小説を書いている』と答えていた。すると母から有名な小説家の小説を勧められたが、『小説は誰かのものを読んで書くものじゃない。自分で書くものだ』と怒った様子で言っていた」
刑務所のアンケートに「1年後に作家デビュー、10年後は大御所」
一方の弁護側は、青葉被告がコンビニ強盗の事件で刑務所に収容されてから、京都アニメーションで事件を起こすまでの約7年間の精神状態を中心に説明した。
2013年7月以降の刑務所での記録によると、青葉被告は幻聴・幻覚・不眠などによるイライラに悩まされ、自殺のリスクが高い「要注意者」に指定。部屋で不審な動きをして職員に注意された際は強く反発するなど、10回以上も懲罰を受けたうえ、2015年10月には「統合失調症」と診断されたという。
刑務所の中で京アニ作品を鑑賞し、2016年1月に出所する際のアンケートには、「1年後に作家デビュー、5年後に家を買う、10年後は大御所」と書き、自身の夢を抱いていたことが明かされた。
出所後の夢描く青葉被告の部屋に破壊プレステと切り刻まれた革ジャン
出所後、青葉被告を担当した訪問看護の記録などによると、青葉被告は、主に不眠の影響で精神状態が常に不安定だったとし、2018年5月には、自宅アパートを訪れたスタッフに包丁を振りかざし、「付きまとうのをやめないなら殺すぞ」などと脅すこともあったという。室内には、破壊されたパソコン2台とプレイステーションが散乱していたほか、切り刻まれた革ジャンパーや布団が散らばっていたという。
しかしその後、2019年3月に突然連絡が取れなくなり、事件に近づく約3か月間、面会できなかったという。担当していた訪問看護師は、青葉被告が薬を服用できていないことから、対人トラブルが起きないか懸念していたことも説明された。