2019年7月に「京都アニメーション」で起きた放火殺人事件。この火事では社員36人が死亡し、32人が重軽傷を負った。殺人などの罪で起訴された青葉真司被告は、大やけどの治療や2度の精神鑑定を経て、9月5日に初公判を迎える。発生当時の消防記録から見えてきた現場の生々しい状況。そして今回、取材班は青葉被告が過去に起こした別の事件の捜査資料を独自入手した。その中には放火殺人事件につながるような記述が見つかった。

死亡36人・重軽傷32人の京都アニメーション放火殺人事件

 2019年7月18日、日本が誇るアニメクリエイターらの人生を、激しい炎が理不尽に奪い去った。京都アニメーションの社員36人が死亡し、32人が重軽傷を負った。
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 (記者リポート 2020年5月)「青葉容疑者がいま、取り調べのために伏見警察署内に入ります」

 殺人などの罪で起訴された青葉真司被告(45)。逮捕された当初、容疑を認めたうえで、こう供述した。

 (青葉真司被告)「京都アニメーションに小説を盗まれた。だから火をつけた」
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 過去に例を見ない建物火災。発生から約1週間後、消火にあたった京都市消防局の隊員はこのように語っている。

 (指揮をとった隊員)「あれだけの建物が燃えているという状況は経験したことがないです」
 (指揮をとった隊員)「火災と救助と並行して多数の負傷者の方の搬送というのも、これまで経験のない活動でしたので、極めて困難な活動だった」

出火後60秒で300℃まで達するガス充満…消防記録から見えた生々しい状況

 現場は当時どのような状況だったのか。消防の活動記録などから改めて振り返る。消防が初めて第一スタジオでの火事を把握した際の通報記録。

  (消防)「消防です。火事ですか?救急ですか?」
 (通報者)「多分どっちもやと思うんですけど。桃山町因幡なんですけど、爆発音があって煙が出ています」
  (消防)「爆発ですか?」
 (通報者)「はい。なんか悲鳴が聞こえてて。アニメなんちゃら…。服が全部焦げている人がいます。ちょっと、どうしたらいいですか?全身やけどの人とかいます」
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 最初の通報から7分後の午前10時40分に部隊が現場に到着。その3分後に放水が始まった。この時、スタジオの周りには負傷した社員35人が路上などに避難していて、隊員らにこう話したという。

 (負傷した社員)「出火したとき会社には70人はいた」
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 スタジオ内に隊員らが入れたのは放水開始から12分後のこと。しかし、すでに状況は想像を絶するものとなっていた。

 まず1階で2人、そして2階では11人が遺体で発見。さらに…。

 (消防記録より)「3階に熱気が充満しており2階からの進入が困難」
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 出火して60秒後には300℃までに達するガスが充満したという。屋上と3階とをつなぐ階段の周辺には、折り重なるような形で20人が亡くなっていた。
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 一方、全身の9割以上にやけどを負った青葉被告。事件から1か月後に入院先の病院で撮影された動画では、顔全体に包帯が巻かれて表情を伺うことはできないが、医師からの問いかけにはしっかりと応じる姿が確認できる。

 (医師)「あと少なくとも4回は手術をします。わかった?がんばれる?」

関係者ら取材で追う青葉被告の人物像 幼少期・社会人時代

 36人の命を奪いながら自らは生きながらえた青葉真司被告。一体どんな人物なのか。私たちは今回、改めて関係者らを取材してその人物像を追った。

 埼玉県さいたま市、青葉被告は45年前にこの町で生まれた。両親・兄・妹の5人家族だったが、青葉被告が9歳のころに両親が離婚。子どもたち3人はタクシー運転手の父親に引き取られてアパートで暮らしていた。
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 穏やかな表情でほほ笑むのは小学6年生のころの青葉被告である。体格がよい活発な子どもだったという。

 (小学校時代の同級生)「内向的というより活発な子でしたね。当時は冗談も通じましたし」

 子どもが同級生だという女性は次のように話した。

 (同級生の母親)「いい子でした。いい子でしたよ。今の姿を見るとね、とてもお答えできません。いい子でしたから」

 複雑な家庭環境がそう思わせたのか、卒業アルバムには「夢は大金持ち」と書かれていた。
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 その後、地元の高校の定時制に通いながら埼玉県庁の非常勤職員として3年間働いた。庁内の郵便物を仕分けする文書課に所属していたという。

 取材を進めると、青葉被告の上司だった女性にたどり着くことができた。

 (青葉真司被告の元上司)「(同僚からは)青葉くんと呼ばれていて。細くてすごく美男子だったんですよ。真面目に仕事はしていましたよね。仕事は言われたことは全部ちゃんとやるし、(仕事ぶりは)普通よりもちょっと上という感じですかね」

「尊敬している」と話すこともあった父親の自殺

 しかし20代前半のときに大きな出来事が起きる。父親が自殺したのだ。父子家庭で育ち「父を尊敬している」と話すこともあった青葉被告。父の死がどれだけ影響したかはわからないが、その後の人生は凋落の一途を辿っていった。
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 (好田茂夫さん)「ホームレス状態になったので住居をあっせんしてほしいと」

 30代前半の青葉被告が住んでいた集合住宅で管理人をしていた好田茂夫さん。青葉被告は入居当時、派遣切りにあっていたという。すぐに家賃を滞納し、さらに…。

 (好田茂夫さん)「入居者の方から『異常な音やガラスが割れる音が聞こえます』と。『1回(部屋を)見てほしい』と言われて」
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 実際の部屋の写真が残されている。

 (好田茂夫さん)「布団の上にパソコンが置いてあって、その時に(画面が)割れていたのと、ハンマーでたたいたような穴があったりして画面がバリバリになっていましたね。冷蔵庫なんかは全部扉が開いていて(食べ物の)においがすごかったので、(台所に)いろんなもの食べ残しがいっぱい置いてあったということですね」

 しかしその後、青葉被告がこの部屋に戻ることはなかった。茨城県内でコンビニ強盗を起こして逮捕されたからだ。

コンビニ強盗の動機も「小説」か…独自入手した捜査資料

 取材班は今回、この強盗事件に関する捜査資料を独自に入手。青葉被告は当時、自身が抱く社会への不満をこう話していた。

 【青葉被告と捜査関係者とのやりとり】
 (青葉真司被告)「この世の中頑張っても仕方がない、仕事も続かない」「世間に疲れた、人間関係が面倒、自分の居場所は隔離された刑務所にある」
  (捜査関係者)「殺人は?」
 (青葉真司被告)「無差別殺人を考えたりするが、最後で歯止めがあり」
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 一方、動機についてはやはり京アニ事件と同じく『小説』がキーワードとなっていたこともわかった。

  (捜査関係者)「きっかけは?」
 (青葉真司被告)「母親があまりよい顔をしてない」
  (捜査関係者)「何について?」
 (青葉真司被告)「小説を書いていたけど、それを送らなかったこと」
  (捜査関係者)「どこに?」
 (青葉真司被告)「出版社に」
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 そして、こう語った。

 (青葉真司被告)「(仕事を)クビになったときは、母を、兄も含めて、ガソリン撒いて燃やしてやろうか、と」
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 青葉被告が恨みを募らせていた母親は今何を思うのか、尋ねた。

 (記者)「すみません。青葉被告の母親ですか?真司さんのことについて聞きたいんですけど」
 (青葉被告の母親)「取材はお断りしますので」

 未曽有の放火殺人事件から4年、ようやく始まる裁判で青葉被告は何を語るのか。初公判は9月5日に京都地裁で午前10時半から開かれる。

京アニ事件 今後の裁判について

▼9月5日:初公判 1回目の冒頭陳述(動機、経緯について)
▼10月:2回目の冒頭陳述(責任能力について)
▼11月上旬:中間論告・弁論
▼11月下旬:3回目の冒頭陳述(量刑について)
▼12月7日:最終論告・弁論 結審
▼来年1月25日:判決
※予備日を含めて32回 143日間の長期審理