世界遺産「姫路城」で有名な兵庫県姫路市のあちこちで今、“読めない標識”が続出していて、市民やドライバーから困惑の声が聞かれます。一体どういうことなのか…。問題が起きた背景とは?
何と書いてあるかわからない!全文字がはがれた標識も
兵庫県姫路市。その真っ白な城壁から「白鷺城」の名で知られる世界遺産の姫路城などを目当てに、国の内外から多くの観光客が訪れています。約52万人が暮らし、交通量も多い姫路市で、近年問題になっていることがあります。取材班が市内を車で走ってみると…
(記者リポート)「文字が取れていて読みにくいですね。その先もはがれています。“何山3丁目”かわからないですね」
交差点の名称を示す「交差点名標識」を見ると、土山3丁目という交差点は「山」と「3」と「目」以外の文字がはがれてしまっています。その手前には「城西変電所前」という標識がありますが、こちらも文字が劣化して一部しか残っていません。姫路市内の県道などで、こうした“読みづらくなっている標識”が多いというのです。
取材班が姫路市内を回ってみると、あちらこちらに文字の読めない交差点名標識がありました。はがれた文字が風に吹かれて今にも落ちてきそうな標識も。まさに「風前のともし火」状態です。
さらに、もともとは「付城東」という地名が記されていたはずの標識は、「東」という文字の一部だけが残っていて、矢印のような形になっています。
そして、極めつきはJR姫路駅の隣にある英賀保駅近くの交差点。もともとは「英賀清水」と表記されていましたが、すべての文字が完全にはがれてしまって、白鷺城もびっくりの真っ白な状態です。
タクシードライバーも“不便さ”訴え
こうした現状について、市民に聞いてみると…
「文字がはげて読めないですね」
「この標識を目印にしている人が来て『あ、ここやった』と急に右に曲がったり(するかもしれない)。事故につながる可能性はゼロではない」
地元の小学生も…
「いつも帰ってくるときに『何この字?』って」
「無意味」
姫路市内を走り回るタクシードライバーは、その不便さを日々実感すると口にします。
(タクシードライバー)「ここの標識も全部見えないですね。今、お客さんも自分のスマホでナビを見せて『西延末の信号を東に行ってくれ』とか(言う)。そういうときに探して走ることはあります」
取材班は、真っ白な標識があったJR英賀保駅周辺にある18の交差点を見て回りました。すると、計71枚の交差点名標識のうち約40%にあたる29枚で文字が劣化していました。
標識の文字部分の寿命は「十数年」
なぜ、こんなことになってしまったのでしょう?
取材班がやってきたのは、大阪市平野区にある標識などを専門につくる工場。この工場では、兵庫県や大阪府などの標識を受注しています。
(光和産業 天野達也さん)「(Q手作業でやっている?)手作業。一枚一枚全部違う種類のものをつくりますので」
標識は文字をかたどったプラスチック製のシートを1枚1枚手作業ではりつけたあと、はがれないように熱を加え密着させてつくられます。工場の担当者によりますと、文字シートは十数年で寿命を迎えるといいます。
(光和産業 天野達也さん)「長年外部にさらされるので、昼間は特に紫外線、海の近くであれば潮風。道路ですから当然、排気ガスとかいろんなものがあるので、それらが要因となって徐々に劣化していく」
「2006年の国体」きっかけに新設した標識が今…
では、今、姫路市でこれほど多くの標識が劣化しているのはなぜなのか。姫路市内の標識の設置にかかわり、設置技術の研究などを行う団体は、背景を次のように説明します。
(兵庫県道路標識表示業協会 角田敏実さん)「国体に向けて兵庫県にいろんな人が来るので、交差点名を明示しようというので一斉に整備した。それがはがれてきています」
2006年に兵庫県全域で開催された「のじぎく兵庫国体」。この年、夏の甲子園で熱戦を繰り広げた早稲田実業高校の斎藤佑樹投手と駒大苫小牧高校の田中将大投手が登板するなどし、ファンが駆け付け、盛り上がりを見せました。
この大会の前年、多くの人が訪れることを見込んだ兵庫県は、交差点名標識を一斉に新設しました。それらが今になって同時に寿命を迎えているというのです。
(兵庫県道路標識表示業協会 角田敏実さん)「姫路の場合は人口が多い。人口が多いところは住宅が多かったり道路が多かったり、交差点も多いと思うので、そういうこともあってはがれている場所(標識)が多いのかなと」
県によりますと、市内には約1500枚の標識があります。国体に合わせて整備されたのは約850枚で、メンテナンスをされていない標識があるのです。
「劣化した標識を一気に更新するのは難しい」
読みにくくなった標識は、なぜそのままにされているのか。姫路市の県道や国道を管理する県の土木事務所に聞きました。
(兵庫県姫路土木事務所・道路第2課 隅豊課長)「交差点名標識1枚あたり、材料費と工費をあわせて二十数万円。交差点に4枚あれば100万円近い予算がかかりますので、劣化した標識を一気に全て更新するのはなかなか難しい状況です」
地元住民以外の多くの人が通る観光地などを優先し、劣化が目立ち始めた約4年前から年間100枚ほどを付け替えているといいます。ただ、予算には限りがあります。
(兵庫県姫路土木事務所・道路第2課 隅豊課長)「交差点名の表示は大事なので引き続き予算を確保して更新に努めたいと思っております」
兵庫県警は、現在までに交差点名標識の文字の劣化による事故は把握していないといいます。しかし、ドライバーや歩行者の道しるべとなる標識。適切な整備が急がれます。