中国産の「宇治抹茶」が出回っています。一体どういうことなのか…宇治抹茶の老舗企業は「ブランドの信用を損なう」と、危機感と怒りを抱いています。上海にある販売会社の主張とは?取材班が直撃しました。
中国産なのに”宇治抹茶”として販売 老舗企業が怒り「うちの銘柄そのまま…」
京都・宇治。名産の抹茶を求め多くの観光客が国の内外から足を運びます。
(京都市内から)「抹茶パフェを食べにきました。たぶん1年分ぐらい飲めると思うんですけど、とてもおいしいお茶なのでみんなにも配りたいなと思って買いました」
(ロンドンから) 「彼女は本当においしい抹茶ラテがとても好きです。彼女は自宅に茶わんと茶せんを持っています。抹茶、これはお茶。追加でこれも抹茶。下まで全部抹茶です」
海外でもブームとなっている抹茶。しかしその陰で、ある問題が起きているといいます。
(丸久小山園・小山元也社長)「長年積み重ねてきた宇治のお茶をたぶん表記だけで、混同するような形で販売されている」
こう訴えるのは、丸久小山園の社長・小山元也さんです。宇治抹茶とは、京都府など4府県でとれたお茶を京都の業者が宇治地域に由来する製法で加工し、臼で挽いて粉末にしたものを指します。香り高く、まろやかな味わいが特徴のブランドです。
丸久小山園は江戸時代創業の宇治抹茶の老舗で、なかでも「五十鈴」「若竹」「青嵐」といった商品は一時は販売制限をする必要があるほど海外でも人気となっています。小山さんはある中国のオンラインショップを見て怒りを覚えたといいます。
(小山元也社長)「うちの銘柄そのままですね。『五十鈴』『青嵐』『若竹』」
小山さんが全く知らないところで丸久小山園の商品と同じ名前で売られていたのです。
品質を比較してみると「だいぶ色合いが違う」
取材班は商品がどんなものなのかを調べるために入手しました。袋入りの商品のパッケージには大きく「宇治抹茶」と書かれています。缶に入った抹茶はデザインは異なるものの容器の形はよく似ています。
小山さんと一緒に商品を確認してみると…
(小山元也社長)「宇治抹茶っていうふうに表記されていますね。宇治抹茶が入ってるとしか見えない形で書かれていますね」
ところが、産地は見てみると上海と書かれています。つまり、中国産です。そして製造・販売元の名前がなんと「宇治抹茶」だったのです。
宇治抹茶は中国では商標登録されていないため、社名を「宇治抹茶」とすること自体は中国の法律上問題ありません。ただ、小山さんは消費者が丸久小山園の宇治抹茶と勘違いして購入してしまうのではないかと危機感を募らせています。
(小山元也社長)「その(中国産の抹茶の)品質が宇治抹茶だと思われてしまう可能性もありますし、もしかしたら『宇治抹茶が中国のものではないか』と思う人がこれからどんどん出てくるんじゃないかなと」
小山さんが中身を比べてみました。
(小山元也社長)「だいぶ色合いが違う」
たしかに丸久小山園の抹茶は緑が濃い一方、中国産の抹茶はやや黄色味を帯びているように見えます。お茶を立ててみると。
(小山元也社長)「抹茶独特の『覆い香』っていうのがうちのほうではグッとくるんですけども、(中国産の抹茶は)なかなか感じられない、同時に渋みが広がる。先人がずっと積み重ねてきた技術でもありますし、大事に育ててきたお茶そのもの。それが今やっと注目されてきたっていうこともあって、そこを侵されることは憤りというか、本当に悔しく思います」
上海にある会社を現地取材
中国の「宇治抹茶」社とは、どんな会社なのか。ホームページには「会長」とされる女性の写真とともにコメントが記されています。
(ホームページより)「抹茶の起源は中国にあります。『抹茶を故郷に返す』行動は京都宇治の茶人から支持と激励を受け、宇治抹茶(上海)有限会社は2006年から準備を開始し、宇治より設備・技術を導入しました」
また、会社が抹茶の文化を伝え、市民に体験してもらうような活動もしているとされています。
取材班は上海にある会社を現地取材しました。すると…
(記者リポート)「宇治抹茶のホームページに書かれていた建物に来たのですが、玄関には宇治じゃなくて『御治末茶』と書かれています」
「宇治抹茶」社であるはずの建物。入口の表記は、「御治末茶」となっていて、ホームページの映像にあった「宇治抹茶」から変わっていました。
しかし、周辺を歩いてみると…
(記者リポート)「段ボールに宇治抹茶と書かれていますね。おそらく中に商品が入っているものと思われます。はっきり宇治抹茶と書かれています」
電話取材に応じた「宇治抹茶」社の主張
「宇治抹茶」という社名で中国産の抹茶を販売する会社。取材班は、「宇治抹茶」社に電話でその認識を問いました。
―――「宇治抹茶」と「御治末茶」のどちらを主に使っている?
(販売会社のスタッフ)「以前は『宇治抹茶』を使っていましたが今は両方使っています」
―――なぜ社名を「御治末茶」にした?
(販売会社のスタッフ)「会社で決めました」
―――日本の商品と同じ名前の商品があるが模倣品ではない?
(販売会社のスタッフ)「いえ、『若竹』『青嵐』『五十鈴』は他の多くの企業も同じような商品を販売しています。模倣品だと言うなら、他の会社の商品も模倣品です」
―――消費者をだましているという認識は?
(販売会社のスタッフ)「ないです、ないです。私たちは全部の手続きをちゃんと完了しています。なぜ消費者をだますことになるのですか」
販売会社は「『五十鈴』などの名前は他の企業も使っている」としたうえで、「消費者をだましているつもりはない」と答えました。
専門家「中国の法律でも問題になる可能性はあるが…」
「宇治抹茶」という会社が販売する中国産の抹茶。日本の専門家は中国の法律でも問題になる可能性があると指摘します。
(立命館大学法学部・宮脇正晴教授)「品質誤認が生じたら社名であっても違法だという評価にはなると思います。商品とかサービスの出どころがそこだと思わせるような使い方をすると、法律に違反することにはなると思います」
訴えれば問題を追及できる可能性があるといいます。しかし、そう簡単な話ではありません。中国産にもかかわらず宇治抹茶と表記して抹茶を販売している会社は、この会社に限らず複数あるのです。現状では会社を1つ1つ訴える必要があり対応には限界があるといいます。
(宮脇正晴教授)「民事訴訟とかを起こさなきゃいけないとかだと、中国まで行って訴えなければいけないことになる。日本側のコストを被害企業だけに負担させないとか、そういう方向の何かを考えることもありうるかなと」
今日もどこかで購入されているかもしれない、宇治抹茶と書かれた抹茶。受け継がれてきた日本の伝統文化を守るためには早急な対策が求められます。