1958年の発売以降、長年人々から愛されるバイク『スーパーカブ』。カブシリーズの生産累計は1億台以上、世界160か国以上で販売されています。その中でも、ここ10年で人気なバイクが『クロスカブ』(2013年発売)というモデルで、その人気ゆえに大阪で盗難被害が急増しています。取材班は犯行の一部始終を捉えた独自映像を入手しました。

静岡で『カブ主』集まるイベント開催 参加者は愛車を披露

 世界を代表する3つのバイクメーカーの創業地・静岡県浜松市で、今年3月9日、“自慢のバイクを披露し合う”イベントが開かれました。参加するにはひとつ条件があります。それは、乗っているバイクがホンダの『カブシリーズ』であること。1958年の発売以降、1億台以上が生産され、ロングセラーの『スーパーカブ』など燃費が良く、クラッチ操作が必要ないことで人気です。

 (イベント主催者 八木健一さん)「カブに乗っている人たちのことを『カブ主』って言う。親睦を深めたり、カスタムを見たり、生存確認したりするイベントです」

 イベントには200台以上のカブが大集合。思い思いのカスタマイズを楽しんでいます。荷台に「樽」を積んだ人は…

 (参加者)「たまたま樽と出会っちゃったから、のせるしかないと思って。(中身は)ぶどうかなにかのジュースです。お酒ではないです。集まったカブ主の皆さんに乾杯!」

 また、ペットの“小屋”を荷台にのせた人もいました。
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 (参加者)「“ワンデム”で来ました。ワンちゃんを連れて。(Q一緒に連れているんですか?)近くを回るときはいつも」

スタイリッシュな車体で人気の『クロスカブ』

 そのカブの中でもこの10年ほどで注目されているのが、『クロスカブ』だといいます。

 (八木健一さん)「シティユースなおしゃれな感じのバイク。カスタムを幅広くできるので人気がありますね」

 定番のスーパーカブと比べて、クロスカブはポップなカラーリングや独立タイプの丸型ヘッドライトが特徴のスタイリッシュな車体です。

 (クロスカブのライダー)「一目惚れでかっこいいと思って。めっちゃ愛着がわいています」

 そんな人気バイクが今、狙われているのです。

「盗まれたときは怒り心頭。“自分の体の一部”みたいな存在」

 大阪府内に住むAさん(30代)はツーリングが趣味で、愛車のクロスカブにはマフラーの装飾にこだわるなど約60万円をかけていました。しかし、去年8月、自宅アパートのバイク置き場にとめていたクロスカブが盗まれました。その場所には、前輪にかけていたロックだけが残されていました。Aさんは後輪にもダイヤル式のロックをかけていましたが、切断された状態で離れた場所に捨てられていました。
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 (Aさん)「盗まれたときは怒り心頭というか…。岐阜に行ったり、北海道1周したりした“仲”なので、お金の問題じゃない。“相棒”というか、“自分の体の一部”みたいな存在だった」

 大阪府警によりますと、被害は府内全域に広がっていて、去年4月から11月にかけ、126台のクロスカブが盗まれたということです。捜査幹部は「特定の車種が短期間でこれだけ盗まれるのは珍しい」としていて、警察は組織的な犯行もあるとみて捜査しています。

1年間で2台の盗難被害 昼夜問わず行われた犯行

 豊中市に住むBさん(63)も被害者のひとりです。

 (Bさん)「去年4月に1台目が盗難にあい、去年11月に2台目が盗難にあいました」

 Bさんは去年4月、本体価格とカスタマイズ費用あわせて約50万円のクロスカブが盗まれました。自宅前にとめていたクロスカブはバイクカバーがはずされ、ロックが壊されていました。盗難保険に入っていたため、新たなクロスカブを手にしましたが、7か月後、またも盗まれたといいます。

 (Bさん)「お昼すぎに買い物から帰ってきて、そのときはすぐ買い物に行く予定もあったのでハンドルロックだけをした。クロスカブのリアボックスには紛失防止タグを仕込んでいて、その通知が携帯に来まして、窓から見て確認したところクロスカブがなくなっていました」
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 後ろの荷物入れには位置情報を知らせる忘れ物防止タグを入れていましたが、犯人がタグの存在に気が付いたのか、荷物入れごと取り外され、バイク置き場から100mほど離れた側溝に捨てられていました。

 (Bさん)「1台目が盗まれたのが夜だったので…。(2台目が盗まれた)昼は人通りがあるじゃないですか。こんな人通りが多い時間帯に盗難にあうんだと」

工具でロックを切断…犯行の一部始終が防犯カメラに

 大阪で相次ぐクロスカブの盗難被害。取材班は犯行の一部始終を捉えた防犯カメラの映像を入手しました。

 【防犯カメラの映像の内容】
 去年4月、大阪府守口市のマンションのバイク置き場にやってきた、フルフェイスのヘルメットをかぶった人物。ほかのバイクには目もくれず、クロスカブの横にしゃがみ込み、ロックがかけられた前輪付近をさわっています。

 偽造した鍵を使ってエンジンをかけたのか、そのままバイクに乗って盗み去ろうとしますが…後輪にもロックがかけられていて、停止。するとバッグから工具を取り出し、ロックを切断。再びまたがり、走り去っていきました。

 その間、3分24秒。いまだ犯人は捕まっていません。

取り付けたバイクと携帯電話から“警報音” 対策グッズも進化を続ける

 盗難事件が相次ぐなか、対策グッズも進化を続けています。3月22日に開催された関西最大級のバイクイベント「大阪モーターサイクルショー」では、国内外のメーカーの最新車種が展示されるなか、盗難対策グッズも紹介されていました。

 『AlterLock Gen3』という装置は、動きを検知すると警報音が鳴るとともに、GPSが搭載されていてバイクの位置情報を知ることができます。

 (ネクストスケープ 徳田篤紀さん)「バイクが動かされると本体の音が鳴りますし、携帯電話も通知と音が鳴ります。なるべく外からわかりにくいところやアクセスしにくいところに、穴が開いてるので付属のセキュリティーボルトを使って取り付けていただくのがいいと思います」

 愛車はおろか犯人が見つかっていない現状では怒りの矛先さえも失われたままです。

 盗まれたバイクについて、自動車評論家の国沢光宏さんは「東南アジアを中心に人気が高く、海外で売買されている可能性が高い」と指摘。「車体を半分に切断して輸送し、現地で溶接して転売されている可能性もある」という見方を示しています。こうした転売方法やルートから、組織的な犯行の可能性が高いということです。