「琵琶湖の宝石」とも呼ばれる琵琶湖固有種・ビワマス。味が良いと評判で、釣りが大人気となっている一方で、個人で獲る人の割合が増えて、漁獲量が減ってしまっているということです。滋賀県は今年、個人の釣るプレジャーボート使用者の数を約半分に制限しましたが、漁師の不安は消えていません。

「食べる」も「釣る」も大人気 “琵琶湖の宝石”

 滋賀県の琵琶湖。県の6分の1を占める広大な湖には固有種の魚も多く、地域住民の食文化を生み出してきました。なかでも絶大な人気を誇るのが「琵琶湖の宝石」とも呼ばれるビワマスです。

 サケ科に属する琵琶湖の固有種で、取材した地元の飲食店ではビワマス目的でやってくる観光客が9割を占めるといいます。

 (滋賀県内から)「おいしいです。サーモンと違って上質な脂がとてもおいしくて、これ食べたらもうサーモン食べられないくらい」
 (愛知県から)「(Qお子さんの好き嫌いは?)すごくあります、逆にすごく食べてるからおいしいんだと思います」

 ビワマスが注目を集めたのは、2013年。県が人気アンケートを基に「琵琶湖八珍」として特徴的な魚8種をブランド化し、知名度がぐんとあがったといいます。
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 ビワマスを育む琵琶湖では釣りを楽しむ人たちも増えています。業者が複数の一般客を乗せてビワマス釣りをする遊漁船。船長もその人気ぶりに驚きを隠せません。

 (遊漁船の船長)「年々人気になっている。めっちゃ人気ですよ、超人気!ビワマスは一番人気あるんちゃいます?」

 ビワマスの漁期は12月から翌年9月までの10か月間、問い合わせも殺到していて、今シーズンは予約が埋まっているといいます。ビワマスを守るため、遊漁船はブーム前から40隻に限られ、乗せるさおの本数や持ち帰る数を制限し、釣りを楽しんでいます。

漁師は“ビワマスブーム”に困惑

 一方、漁師は戸惑いを隠せません。琵琶湖での漁で生計を立てている谷口靖さんです。

 (琵琶湖の漁師 谷口靖さん)「今年は少ないんですよ、めちゃくちゃ。釣り場に船が多く押し寄せてくると、釣りにくいんですよね。釣っていても後ろから入ってこられたりとか、前にガッと入ってこられたりとか、そういうのがよくあります」
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 ビワマス釣りが許可されているのは、▽漁師、▽業者が一般客を乗せる遊漁船、▽個人で船を所有しているプレジャーボートの使用者です。

 県はビワマスを保全するため年間漁獲量を53トンと定め、うち、漁師は63%、遊漁船業者は15%、プレジャーボート使用者は22%とそれぞれの漁獲割合の目安を算出しています。

 しかし、プレジャーボート使用者が急増したことで漁獲量は増加。2022年12月からのシーズンでは、プレジャーボートの割合は36.6%に上昇。一方、漁師は43%に減りました。
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 漁師の谷口さんは取材した日も場所探しに苦労していました。漁に出て3時間が経過したころ、ようやく最初の当たりが…。しかし30cm以下のためとることはできず、4時間漁に出て、釣れたのはたったの2匹でした。

 谷口さんは、そもそも琵琶湖で魚の餌となるプランクトンが減り、ビワマス自体が減っていると感じています。ただ、今のビワマスブームが漁獲量の減少に拍車をかけた、とも思っています。

 (琵琶湖の漁師 谷口靖さん)「きょうは渋かったですね、大変渋かったです。きょうみたいに少ない日はやっぱりありますね」

「プレジャーボート使用者」「漁師」それぞれの声

 こうした事態を受け、県は今年、ビワマス漁ができるプレジャーボートの承認人数を1900人から1083人に半減させました。

 6年前からプレジャーボートでビワマス釣りしているという大阪市の川畑清さん。今年、釣りに出られる権利は高い倍率での抽選となりましたが、理解はしていると言います。

 (プレジャーボート使用者 川畑清さん)「資源保護は大事なことで、僕らは遊びでやっているプレジャーボートの範囲内での釣りなので、そこは一番(対策として)考えてもらわないといけないと思う」

 一方、漁獲量が減った漁師の谷口さんは、県の対応は遅いと感じています。今後のビワマス漁が改善していくのか不安は消えません。

 (琵琶湖の漁師 谷口靖さん)「後手に回るというのと、実際に結果が出てこないと実情がわからないところがあると思うんですわ。ビワマスというのは琵琶湖の固有種でありますので、守りながらとっていかないといけないものだと思っています」

滋賀県「ビワマスはほかに比べてスピーディーに対応している」

 県は、漁師の声をどう感じているのか。担当者は、対応に問題はなかったと話します。

 (滋賀県水産課 礒田能年さん)「ビワマスはほかに比べると割とスピーディーに対応している部類には入るんですね。資源評価のスピード感と行政の施策のスピード感を組み合わせて、なるべく変化に対応していくのが大事かと思います」

 高まる人気と募る不安。漁師に笑顔が戻る日は訪れるのでしょうか。