奈良県知事が表明したメガソーラー計画に、地元住民らが“容認できない”と憤っています。
ゴルフ場跡地がメガソーラー予定地に?街には「反対!」の看板
奈良県南西部に位置する五條市。自然あふれる穏やかな街では、今、至るところに“怒りの看板”が掲げられています。その理由は奈良県知事が打ち出したメガソーラー計画にあります。
(看板に書かれた内容)
『メガソーラー反対!!なめんなよ 地元住民怒ってる』
『メガソーラー断固反対!』
今年1月、地元住民らは県の担当者から突然、五條市内のゴルフ場跡地にメガソーラーを整備する計画を聞かされました。
(五條市自治連合会 丸山泰登美会長)「住民に事前説明とかいろんなものがあってしかりだと。それがないっちゅうことはわれわれ五條の人間をバカにしている」
(五條市阪合部地区の住民 石投浩三さん)「地下水路や土砂が崩れているところもあるし、その上に池もあるので、その周辺に建てられたらいろいろと問題が起きるのではないかと、わたしたちは反対しているんです」
なぜ急に、ゴルフ場跡地がメガソーラーの予定地となったのでしょうか?
前知事の「防災拠点整備計画」に“ストップ”をかけた現知事
2022年に策定された「奈良新『都』づくり戦略」。そこには、五條市のゴルフ場跡地に「大規模広域防災拠点」を整備すると書かれています。南海トラフ地震などが起きた際に輸送機を使って各地に支援に行けるよう、2000m級の滑走路や備蓄庫を建設。五條市を紀伊半島エリア一帯の防災の要にしようという構想でした。2022年10月には盛大な鍬入れ式が行われるなど、荒井正吾前知事の肝入り政策でした。
しかし去年、事態は一変します。大規模広域防災拠点計画の再検討を公約に掲げた山下真知事が就任したのです。
(奈良県 山下真知事 今年1月)「この五條の拠点を大規模広域防災拠点に位置づけるつもりはございません」
今年1月、山下知事はこれまでの計画を転換すると発表。五條市ではなく県の中心に位置する橿原市に防災の中核拠点をおき、五條には大型滑走路ではなく小規模なヘリポートのみをつくると宣言。そして、空いたスペースは災害時の非常用電源などに活用できるとして、25ヘクタールもの巨大なメガソーラーを整備すると表明したのです。
「防災拠点ができるなら皆さんの役に立てる」と思い土地を売ったのに…
これに「県にだまされた」と訴えるのは、五條市の山林を管理する辻本國治さん。もともとゴルフ場跡地一帯は地元住民が所有する土地でしたが、県から「防災拠点にしたい」と説得され、20回以上もの説明会の末、2022年に売却に踏み切りました。
(五條市阪合部・山林自治会 辻本國治理事長)「今までにメガソーラーもあるでっていう事前の説明があったら、絶対売ってませんわ。土地を売ることに関してはだいぶ迷うというか、維持している管理者としてはきつい選択だったと思いますが、大規模広域防災拠点ができたら従事する人がよってくる。それが活性化になる。活性化したら仕事ができると。それから、土地を提供することで皆さんの安心安全のお役に立てることが一番大きかったと思います」
そんな経緯を無視した今回の知事の発表に憤りを感じているのです。また、土地の売買の際に県と結んだ契約書には、次のように書かれています。
『この契約に疑義が生じたとき、又はこの契約書に定めのない事項については、甲、乙協議して定めるものとする』
(山林自治会 辻本國治理事長)「協議と書いてるねん。180度変えたことをする時には事前に説明があってしかるべきじゃないかと」
住民の怒り爆発 一歩も譲らぬ知事「地元の同意や許認可を必要とする法令はない」
そんな中、今年2月、知事による住民説明会がようやく開催。約150人が集まり、怒りが爆発しました。
(地元住民)「こういう勝手な話をされたら3年4年かけて進めてきた話が水の泡になるんです」
(山下知事)「ここに2000m級の滑走路をつくるという前知事の発想自体が誤っていたと私は考えておりまして、そのような不必要なものを関連道路も含めて1000億円をかけてつくることが、納税者である全県民の同意は得られないであろうと」
(地元住民)「1円たりとも無駄にしたくないというのなら今まで説明会にどっさりお金かけてきましたやん。それを全部どぶに捨てて。私らは県を信用してやっているんですよ。それを全て覆すのは県との信頼関係はまったくありませんやん。うそついてもいいんですか?」
住民が厳しい口調で詰め寄る一幕も。これに対して山下知事は…。
(山下知事)「知事が変われば県の方針も変わるのは当たり前です。知事が変わっても前の知事と同じことを必ずしないといけないのであれば、なんのために4年に1回選挙するのかわかりません」
(地元県議)「地元の同意は関係ないのでしょうか?」
(山下知事)「今回の計画を進めるにあたりまして地元の同意や許認可を必要とする法令はございません」
両者一歩も譲らぬまま説明会は終了。住民側は2回目の開催を求めていますが、この日以降、知事が五條市を訪れることはありませんでした。
“整備検討費”を盛り込んだ予算案は否決 計画は事実上の白紙となったが…
そして始まった2月議会。
【議会でのやりとり】
(自民党・無所属の会 金山成樹県議)「なんでメガソーラーにこだわるのか、いまいちよくわからないのですが」
(山下知事)「この土地をメガソーラー以外で有効活用する案があったら教えてください、逆に」
山下知事は地元の反対などどこ吹く風と、メガソーラーの整備検討費を盛り込んだ新年度予算案を編成。ところが委員会で否決され、知事の計画は事実上、白紙に戻ったのです。五條市のゴルフ場跡地をどう活用するか改めて検討しなおすことになりました。
しかし、この決定に知事は…。
(山下真知事)「(Qメガソーラー整備の方針は変わらない?)はい。現時点でわれわれとしては現行案以上に優れた案はないと思っていますから」
メガソーラー計画を諦めない姿勢を滲ませました。
「知事はそう簡単に意見を変えないでしょう」地元住民は署名を提出の予定
議会が終わった後、五條市を訪れてみると、すでに新たな動きが始まっていました。
3月上旬に始めたというメガソーラーに反対する署名活動は、既に地区の人口の8割近い約1400筆もの数に。今後は五條市全体に広げて知事に提出したいといいます。
(五條市阪合部地区・自治連合会 大汐孝会長)「騒いでいるのは一部の人間だろうという考え方を改めていただけたらありがたいなと思います」
メガソーラー整備計画は白紙に戻ったようにも見えますが…。
(自治連合会 大汐孝会長)「知事は正直何を考えているのかわからないので不安もありますね。地元の説明会に来て自分の意見を言われたんですから、そう簡単には変えないでしょう。ただし、こっちもそう簡単には『メガソーラーいらない』というのは変えないです」
宙に浮いたゴルフ場跡地。前に進めるためにも知事は県民に寄り添う姿勢が必要なのではないでしょうか。