京都駅のすぐ近く、とてもアクセスのよい立地に移転オープンした京都市立芸術大学。キャンパスはきれいで、学生はウキウキ気分で通うのかと思いきや、新しいキャンパスに、憤慨している学生もいるというのです。いったい何が起きているのか、怒りの現場を取材しました。

門川大作市長「京都駅の東隣、崇仁地域に移転することができました」

 今年10月、千年の都の玄関口は、華々しいムードに包まれていました。京都市が設置する日本で最初の芸術系大学「京都市立芸術大学」の移転セレモニーです。総事業費は約270億円。オーケストラやオペラの演奏会に対応できる音楽ホールなど、最先端の環境に囲まれています。

学生「駅から近くて色々と便利なところが多いので、移転して良かった」
学生「コンクリートで統一されていて、写真映えしやすい」
学生「自分はこっちの方が好きかなと思っています」
k5.jpg
しかしその裏で、キャンパスの「ある場所」を1人見つめる学生がいました。サッカー部に所属する荒木颯太さん(修士課程)です。

突然「球技は禁止」と口頭で伝えられた

荒木颯太さん「あそこが京芸のグラウンドです。移転する3~4か月前に部長だけ集められて、口頭で『球技は禁止』って。なんか、どうしようもない気持ちでいっぱいです」

移転前、大学から突然、「球技は禁止」と伝えられたというのです、なぜなのでしょう。新しいグラウンドは建物の屋上にあります。広さはテニスコート約9面分ありますが、球技ができない「ある理由」が…。
k11.jpg
荒木さん「グラウンドの真横にJRの線路があって。そこに(ボールが)入ってしまうと、とんでもない事態になっちゃう」

グラウンドと線路までは、わずか26メートル。しかしネットの高さはたった4メートルで、線路にボールが入ってしまうリスクがあるためだといいます。
k12.jpgk13.jpg

黙々と芸術に向き合う中…スポーツは「いい時間」

 この映像は、荒木さんたちサッカー部が移転前のグラウンドでサッカーの練習していたときの様子です。グラウンドの広さは今の約4倍。大学公認の部活で、日々、精力的に活動していたといいます。
k16.jpg
荒木颯太さん「普通に、前の校舎でできていたものが急に禁止にされて。当初ちょっと怒りじゃないですけれどもなんで?と」

 こうして活動はできなくなり、休部状態に。いまは制作室にこもる日々を送っています。この日は木に“摺り用うるし”を塗る、拭きうるしの作業をしていました。「漆工」を学ぶ荒木さん、作品づくりは孤独な時間だといいます。
k18.jpg
荒木さん「9~10時間ぐらい、1人で黙々と、誰とも喋らず制作するときもあるので、やはりほかの専攻、ほかの学年の人たちと一緒にスポーツするのは、すごくいい時間だった」

不満の声がOBからも「パス回しも禁止と!」

 不満を抱いているのは荒木さんだけではありません。移転の約4か月前、学生らが大学に提出した要望書です。

野球部「JRの線路側だけでも、球技ができるほどのネットの設置を要望する」
サッカー部「天井を覆うネットの設置を要求します」
大学側「設置団体である京都市に要望してきたところですが、様々な課題があり対応は困難」

危機感を募らせているのは学生以外も。遡ること8年前。
「『大学の思い出は?』と聞かれれば、浮かぶのはアトリエでの制作とグラウンドで走り回った記憶です。移転先に、クラブ活動実施に必要な運動施設を建設して下さい」
k25.jpg

 運動部OBを中心とした2000人余の署名が、門川市長と当時の学長に提出されていました。

移転前の今年9月、こうした状況を知った地元議員の呼びかけで、OBや保護者らが集まっていました。
k28.jpg
サッカー部OB「めちゃくちゃ腹立っているというか。今回衝撃的だったのはパス回しだけだったらできるのかなと思ったらそれも禁止と」

保護者「門川市長のお話を何回か色々な場で聞いているんですけれども、『学生のために』と言う言葉がなかなか出て来ません!もう喉元までムカムカとくるんですけど」
k29.jpg
京都市の門川市長はどう受け止めているのか。地元議員が質問をぶつけると…

山根智史市議「(OBらから)市長と学長宛の要望書面が提出されています。当時どのように受け止めていたんでしょうか?」

門川市長「学校と京都市の担当局が丁寧に話し合いながら、きちっとしたお答えをしています」

山根智史市議「これまで通り部活ができるように約束すると。このことを学生のみなさんに明言していただきたい」

門川市長「大学当局とそれから市役所の担当局が、常に丁寧な話し合いをしてきていますので」

山根智史市議「学生のために明言してくださいと言うことを言ったのに、本当に長々と別の話をおっしゃったのは大変残念でございます」

結局、明確な回答は得られませんでした。
k32.jpgk33.jpg

しかし、グラウンドにボール蹴る学生の姿が!

しかし、12月。球技ができないはずのグラウンドに、ボールを追いかけるサッカー部の姿がありました。

――ボールは使えるようになったんですか?
荒木さん「一応なんとか…。『絶対出さない』と言う条件であれば、多少ボールを使ってもいいよということにはなった」

絶対にボールを出さない、という条件では、パス練習が限界だといいます。
k38.jpg
荒木さん「試合したいとなると、もう別のところを借りてやるしかないですね。この校舎じゃできないです」

そして、12月11日。荒木さんは野球部とともに、大学側に直接意見を伝えにいきました。

「このままでは、廃部の懸念」に学校側の回答は

荒木さん「学校側としてどういった対応を考えているのか改めてお聞きしたいです」

京都市立芸術大学 天沼憲事務局長「今のグラウンドを改修、というプランはあまり現実的ではないと正直私は思っていて、それであれば他の場所を探すことに力を入れたほうがいいかなと思っています」

荒木さん「今、現段階ではどのぐらいまで、どういう話が進んでいますか?」

天沼憲事務局長「これは我々が京都市に投げている話なので、京都市とは調整しているというか、市の内部でも調整してもらっているところ」
k42.jpg
荒木さん「調整してもらっているのはわかっているんですけれども、このまま満足できない状況が続いてしまうと『廃部』とかそういう懸念もしています」

野球部員「僕らの活動が保証されていない状態だと思うんですけれども、そういった現状についてはどう思われているんですか?」

天沼憲事務局長「『困っています』という事情は理解できますけれども、とはいえ、我々が主体的にできる範囲ではない部分があるので、そこはご理解いただきたい」

「少数派」運動部の小さな声、届くのか

大学側は、別のグラウンドを探そうとしているものの、京都市が動いてくれないとどうにもならないといいます。

 京都市に取材をすると、「大学から市有地を活用した代替グラウンドの確保について相談を受けており、関係各所と協議・調整を進めているところ」などと回答しました。

「芸大」で運動部は少数派。それでも荒木さんは声を上げ続けるといいます。
k49.jpg
サッカー部の荒木颯太さん「やっぱりあの時の楽しさだったりとかを残していきたいなと言うところがある。部活動というものを後の世代に残していきたいなと思います」

移転に沸くなか、学生たちの「小さな声」は拾われるのでしょうか。
k50.jpg