戦後70年以上にわたって続いている「姫路市民文化祭」。兵庫県の姫路市が会場費など約1200万円を支出し、文化団体が活動の成果を発表する市民にとっては秋の恒例イベントです。そんな市民文化祭に関して、市が『今年度で終わり』と通告したのです。“唐突な通告”に市民らが憤っています。

70年以上の歴史がある「姫路市民文化祭」 例年1万人以上の観客が集まる

 11月26日まで行われた「姫路市民文化祭」。約1か月の間、週末を中心に市内4か所で市民らが吹奏楽・バレエ・茶道などを発表しました。70年以上前に始まった姫路市主催のイベントで、例年5000人が参加し、1万人以上の観客が集まります。
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 姫路市内のバレエ教室「瀬川バレエスタジオ タン・リエ」では今年9月、市民文化祭に向けた練習が行われていました。教室を運営するのは瀬川哲司さん(45)。ニューヨークを拠点とする男性バレエ団「グランディーバ・バレエ団」などで活躍し、10年前に故郷・姫路に戻り、このバレエ教室を始めました。3歳から大人まで約120人が所属していて、1年を通して最も大きなイベントが市民文化祭だといいます。しかし…
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 (生徒)「たくさんの人の前で踊れなくなるから嫌や」
 (生徒)「残念です。舞台に立てなくなるのが寂しい」

 生徒たちがなぜこんな思いをしているのか。実は、今年8月に、主催する市から「今年度を最後に市民文化祭を廃止する方針だ」と一方的に伝えられたというのです。市からは今年の初めに来年度の日程も知らされていましたが、それについても「無し」だと言われたといいます。
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 (瀬川哲司さん)「(来年度について)スタッフにお願いをしたり、どういう作品にするか話し合いをして準備が進んでいた状態で、突然そういうふうに言われてどうしようかという状況」

姫路市長『大胆かつ積極的に事業の見直しを行う』

 市によりますと、廃止の理由は大きく2つ。1つは、近年、参加団体が固定化して新しい団体の参加がしにくくなっていること。もう1つは、文化活動が盛んな11月に市内のホールが市民文化祭でおさえられるため、興行公演の誘致などに制約があることだといいます。

 (瀬川哲司さん)「(姫路市民文化祭は)いろんなお客さんが来て、見てもらって、市の公的な行事に参加できているっていう目標、とても僕たちにとっては大きなことだったんですけど。なんでそんなに強引なんだろう」
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 バイオリン講師の藤井たみ子さんも納得できない1人です。30年以上文化祭に参加していますが、今回の廃止の進め方に憤ります。

 (藤井たみ子さん)「一生懸命やっている市民のレベルが少しずつ高くなっていく、そのことを応援してくれる市がいて、それで初めて文化都市と言える。(今回の廃止は)唐突だし、情け容赦ないなと」
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 なぜ市は参加団体に事前に伝えず今年度での廃止を進めようとしているのか?理由は姫路市の清元秀泰市長が示した方針にありました。

 (清元秀泰市長 今年6月)「慣例や既成概念にとらわれることなく、事業の廃止を含め、大胆かつ積極的に事業の見直しを行うよう指示したところです」

 市長は「子育て支援や観光産業に一層取り組む」とした一方、「既存事業の再検証と見直しをする」と表明。市はこの方針に基づき64の事業見直しを進めていて、会場使用料など約1200万円を支出する市民文化祭を廃止の対象としたのです。

市側は「参加団体の固定化」を強調 参加団体からは疑問声“参加できない団体がいると聞いたことがない”

 姫路市は今年9月に参加団体の代表者らを集めて説明会を開き、「急きょ、廃止することになった」と謝罪しました。

 (姫路市観光文化部 大山嘉文部長)「今年度、市長の指示に基づき全庁的に事業見直しに取り組んでいます。市民文化祭が急きょ、事業見直しの対象になり廃止する方針を共有させていただきました。『唐突だ』とか『一体どういうことだ』と感じられたことについては非常に申し訳なく考えております」
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 そして、廃止の理由として「参加団体の固定化」を強調しました。

 (姫路市観光文化部 大山嘉文部長)「姫路市主催の市民文化祭という形になると、ある程度公平性や機会は均等にならなければいけない。やはり平成21年(2009年)から新しいところも出られていないような状況もありまして」
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 一方、参加団体からは「参加できない団体がいると聞いたことがない」と疑問の声があがりました。

 (参加団体)「市民文化祭に参加したいけど入ることができないとか、そういうことについて私たちの耳には一切入ってきていないです」
 (参加団体)「参加希望の団体がいっぱいあるけど参加できていないということなのですか?実情がどうなっていて、どんなふうに公平性が失われているのか説明していただきたい」
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 市は「補助金を活用するなどして今後は各団体で発表会をしてほしい」としていますが、参加団体らが口々に訴えるのはあくまで「市民文化祭の継続」です。

 (参加団体)「せめて来年度、決まっていたことだけは何とか、少し縮小したとしても実施していただきたい」
 (参加団体)「姫路市民のために11月はこのまま文化祭を続けさせてください」
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 1時間半に及んだ説明会。廃止の方針は覆ることはなく、バレエ教室を運営する瀬川さんも「廃止の結論ありきで納得いかない」と話します。

 (瀬川哲司さん)「絶対変わらないっていう印象は受けました。いろんな問題があるのであればもうちょっと早くお話ししてほしかった」

姫路市長『“姫路芸術祭”を検討。付加価値の高い芸術の街にしたい』

 市の進め方に不満が相次いでいることに当の市長はどう考えているのか?11月12日、今年で最後となる市民文化祭に姿を見せた清元市長に直撃しました。

 (記者)「市民文化祭を廃止することが急なのではという話があるが?」
 (市長)「市民芸術祭に変わっていくんですけどね」
 (記者)「それはどういうこと?」
 (市長)「また改めて」
 (記者)「急じゃないか?という市民の声もあるが?」
 (市長)「そうですか。そういう説明は以前からしてたところなんです」
 (記者)「市民から『説明が足りない』という声もあるが?」
 (市長)「そうですか。どうもありがとうございます。また検討させていただきます」

 市長の口から出た「芸術祭」の計画。その詳細を語ることはなく、足早に去っていきました。
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 この5日後、定例会見で清元市長に「市民文化祭廃止が一方的なのではないか?」と改めて質問すると…

 (清元秀泰市長)「廃止っていうよりも白紙っていいますかね。コロナ禍もありましてね、参加団体となかなか会議等でコミュニケーションをとるのは非常に難しかった」

 多くのまちで市民文化祭は形を変えていると説明。2025年度から、プロのアーティストを呼ぶ「姫路芸術祭」の開催を検討していると発表しました。
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 (清元秀泰市長)「自己満足的な文化ではなくって、他都市からも姫路の芸術祭を見に行きたいと、それはおそらく観光連動政策にもなるんじゃないかと。今まさに姫路を付加価値の高い芸術の街にするための胎動の苦しみというような状況」

 「姫路芸術祭」の詳細はまだ決まっていないということですが、そこに市民が立つ舞台はあるのかと問うと…

 (清元秀泰市長)「前座はありえますよね。メインと前座との中でみんなで作っていく芸術祭にすれば、すべての人がハッピーになるんじゃないかなと思うんですけどね」

 70年以上にもわたり姫路市民に寄り添い文化を育んできた姫路市民文化祭。12月に市議会で正式に廃止が決まる見込みです。