コロナ禍で登山をする人が増えた中で登山者のマナー違反が問題となっています。取材したのは大阪と奈良にまたがる金剛山。登山に要する時間が短めで、その手軽さから「東の高尾山・西の金剛山」とも呼ばれています。実際に登ってみると、そこには数々の憤懣がありました。

「東の高尾山・西の金剛山」

 大阪と奈良の境にある金剛山。標高1125mの山です。市街地からのアクセスもよく、山頂からは大阪平野が一望できるとあって、ハイカーたちに人気のスポットになっています。

 (登山者)
 「めっちゃ久しぶりですね。コロナ前は金剛山よりもきつい山に行っていたんですけど、今回リハビリ的に」
 「気持ちよかった。新緑がきれいで」
 「楽しかったです。いいコースでした」

取り外された「この先危険!」の看板の先に『勝手道』

 新型コロナウイルスをきっかけにその魅力が見直された金剛山。一方で今ハイカーのマナーが問題となっています。取材班は今年5月、登山のマナー啓発などを行う大阪府山岳連盟の自然環境委員長・田中昭男さんと広報マネージャー・佐伯典昭さんに案内してもらいました。
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 登り始めると早速、異変が。

 (大阪府山岳連盟 佐伯典昭さん)
 「なんか、看板が無残なことに…」

 山岳連盟が設置した看板が取り外されていました。

 (大阪府山岳連盟 田中昭男さん)
 「そういうことをされるとちょっと悲しいですね」

 元通りにすると、看板には「この先危険!」と書かれています。
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 登山道のように見えるこの道は、実は熟練のハイカーが独自に切り開いた、いわゆる「勝手道」です。
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 (大阪府山岳連盟 田中昭男さん)
 「この大きな石、去年落ちてきた石なんですよ。おそらく向こうから落ちてきて、ここで止まった」
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 看板は事故や道迷いの危険がある勝手道の入口5か所に設置されています。この勝手道、SNSでは「安全に通行できる」などと拡散されていますが、一歩間違えば事故につながる恐れがあるといいます。

 (大阪府山岳連盟 田中昭男さん)
 「『勝手道を登ってきました』みたいな書き込みって結構あるんです。いつも事故が起こるわけではないですけど、スリップしやすいとか死亡事故につながるようなところですね」

勝手に描いた?『登山口とは違う方向』に誘導する矢印

 さらに山を歩いていくと、木に赤や白のペンキが塗られていました。ハイカーが勝手に描いたものとみられます。
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 同様のペンキは別の場所にも。こちらは木の表面が削られ、右に誘導する矢印が描かれていたようです。
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 この場所は山を下る途中にある分かれ道で、登山口に戻れるのは左側の道なのですが、矢印はなぜか右へと誘導しています。その方向へ進んでいくと…。

 (大阪府山岳連盟 田中昭男さん)
 「細い登山道に誘導されている。どういう目的でなのかは私たちもわからないところですね」
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 この道もいわゆる勝手道。駐車場やバス停のある登山口から離れたところにたどり着いてしまいます。

 (登山者)
 「遠回りですね、かなり。もしかして間違った方にわざと悪意で案内している人がいるとしたら、かなり困りますけど」
 「全く知らない人が来たら『こっち(右)かな』と思うかもしれないですね。あまり知らない人がこっち行くとよろしくないですね」

 道に迷いやすく危険なため、こうした誘導はやめてほしいと山岳連盟は訴えます。

持参ゴミを捨てる人たち『注意書き』しても守られないマナー

 また、マナー違反は山頂でも。山を登りきった人たちが売店で買ったものを食べたり持参したものを調理したり、思い思いに食事を楽しんでいるのですが、深刻なのがゴミの問題です。
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 山頂の売店で買ったものを捨てる専用のゴミ箱があり残飯を捨てることもできますが、ゴミ箱の周りには持参したゴミは持ち帰るよう、いくつもの注意書きがあります。

 (金剛山・葛木神社 葛城裕宮司)
 「ゴミを処分するのも有料になりますので、捨てるのは店で買っていただいたものに限るということにしているんですけれども、なかなかそれも徹底されない」
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 「ゴミは持ち帰る」というのが登山のマナーですが、なかなか守られないといいます。
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 実態を確かめるべく、ハイカーの多い週末に撮影しました。ゴミ箱にやってきた女性、まずはペットボトルを1本捨てました。その後、背負っていたリュックを下ろし、中から取り出したペットボトルと袋に入ったゴミを無理やり押し込みました。
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 さらに別の男性は、売店で買ったカップ麺と一緒に、持っていたゴミを袋ごと押し込みました。

トイレの洗い場に残飯「使用禁止にしたい気持ち」

 また、トイレでも…。

 (金剛山・葛木神社 葛城裕宮司)
 「ちょっと目を離すとこういう状態で。残飯を流すところを設けているんですけど、どうしてもここに流してしまう。後始末が半日くらいかかるという大変なことになります」
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 山頂にあるトイレにカップ麺の容器を持った人が次々と入ります。残飯を洗い場に捨ててしまって配管が詰まるトラブルが頻発しているといいます。

 (金剛山・葛木神社 葛城裕宮司)
 「ここも使用禁止にすればいいんですけど、なかなかそういうわけにもいかず。(Q使用禁止にしたい気持ちに?)なりますね」
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 山頂のゴミの処理やトイレの維持管理は神社などが行っていて、負担額は年間100万円以上にもなります。ハイカーのマナーが悪いと余計に費用がかさんでしまうのです。

持参ゴミを捨てた人「マナーがわからなかった」

 続いてゴミ箱にやってきたこちらの男性。注意書きを読んでいるのか、ゴミ箱をしばらく眺めていました。
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 すると、ゴミ箱の口に入らない大きさのものを強引に押し込むように捨てていきました。
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 ゴミ箱を開けて確認してみると、捨てたのは売店には売っていないカップ麺の容器でした。
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 どうして捨てたのか、話を聞いてみました。

 (持ち込んだゴミを捨てた人)
 「(Qここで買ったもの?)ここで買っていないです。(Q持ち込んだゴミを捨ててはいけないが?)全くわからなかった。初めて登りました」

 登山は初めてでゴミ捨てのマナーを「知らなかった」と話します。

 (持ち込んだゴミを捨てた人)
 「全く理由はないです。ただ単にゴミ箱があるから捨てています。(Q山のルールは?)全くわからないです。いい参考になります。次から気をつけます」

 山ににぎわいが戻るのと同時に増えるマナー違反。誰もが安心して登山を楽しめるよう、マナーを確認した上で登ってほしいものです。