去年12月、ある大学教員に勤務先の大学から1枚の文書が届きました。そこに書かれていたのは「専任嘱託教授契約終了のお知らせ」。契約終了に至った理由は一切書かれていません。紙1枚、たった4行の契約終了通知に、教員は憤っています。
「奈落の底にたたき落とされた」たった4行の契約終了通知
東京・新大久保。若手ミュージシャンの楽曲に聴き入る音楽プロデューサーの脇田敬さん。これまで経験したことのない怒りをいま抱えているといいます。
(音楽プロデューサー 脇田敬さん)
「衝撃ですね。もう本当、奈落の底にたたき落とされたというか」
事の発端は教授を務めていた大学から届いた1通の郵便でした。
(記者)「たった4行…」
(脇田さん)「そうなんですよ。本当に理由も何もない」
空白のほうが目立つ1枚の文書。そこには次のようなことが書かれていました。
【文書より】
『今年度まで専任嘱託教授としてご勤務いただきましたが2022年度末(2023年3月31日)をもちまして契約を終了させていただきます。2023年度の契約は更新いたしませんので、ご了解の程よろしくお願いいたします』
わずか4行の契約終了通知。理由は一切記されていません。
(元大阪音大・専任嘱託教授 脇田敬さん)
「暴力的な書類だと思いますけどね。それを食らわされて本当にどうしたものかと思いましたけどね」
新専攻立ち上げの中心人物の一人だった
郵便の送り主は大阪音楽大学。創立100年を超え、音楽界に数多の人材を輩出してきました。
大阪音大は、デジタル化など音楽シーンの変化に対応できる人材を育成しようと、去年4月にミュージックビジネス専攻を開設。専攻は多くの学生を集め、それまで10年以上も定員割れが続いていた大阪音大の危機を救いました。脇田さんはこの専攻立ち上げの中心人物の一人でした。
(元大阪音大・専任嘱託教授 脇田敬さん)
「音楽業界の未来を引っ張っていくような人材を業界に送り込むんだという気持ちですね。学生たちにしっかりとその夢をかなえさせてあげたいという気持ちと、自分たちの考えた志を達成したいと思って、去年4月からずっと頑張ってきた」
しかし徐々に教員のリーダー格である教育主任との間で対立が生じていったといいます。そんな中で郵便が大阪音大から届いたのです。脇田さんはすぐに面談を申し入れ、理由の説明を求めましたが、教育主任はこうはぐらかします。
(教育主任)
「俺の気持ちで言えば、先生としての脇田さんを何ら否定するものはないし、講師としての評価がNOだったということは何も俺にはない」
教育主任「俺が脇田さんと協調してやっていける自信がない」
その後の会議で他の教員が脇田さんの契約終了について抗議しても…。
(他の教員)「紙切れ1枚でこんなにひどいことをする。さすがに理不尽な決断なのではないかなと。まっとうな人材が大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻の専任で(キャリアを)かけてやろうとはならないのではないでしょうか」
(教育主任)「俺が教育主任として脇田さんと一緒に協調してやっていける自信がない。なんと言われようと、そういう決断をしたのは俺」
「協調してやっていけない」という何とも漠然とした理由。その後、大阪音大側は「打ち合わせで脇田さんが教育主任に暴言を吐いた」などと契約終了は正当だと主張しました。
脇田さんは「暴言を吐いたことはない」と真っ向から否定しています。
(元大阪音大・専任嘱託教授 脇田敬さん)
「いまどきブラック企業ですらやらないようなことをやり、組織を健全に回していこうという意識はどこにあるのかなって、自分は疑問に思いますね」
他の教員も怒り 教員12人が自主的に退職・離任
脇田さんへの大学側の対応に他の教員も不信感を募らせています。KazKuwamuraさんは2021年には提供した楽曲がレコード大賞を受賞した注目の作詞・作曲家です。
去年3月に大阪音大ミュージックビジネス専攻で専任の助教として働くため家族と大阪に移住。しかし、脇田さんへの仕打ちに驚きと怒りを隠せませんでした。
(作詞・作曲家 KazKuwamuraさん)
「信じられないです。どういう神経をしていたらこんなことができるのだろうかと、本当に理解に苦しみます」
精神的ストレスは限界に達し、今年2月に退職を決断。1歳の娘と妻を連れて、わずか1年で東京に戻る形となってしまいました。
(作詞・作曲家 KazKuwamuraさん)
「我関せずのスタンスで残り続けることも当然、学生にとってはベストという選択肢もあると思いますし。ただ天秤にかけたときに、自分の中のポリシーがそれを許さなかったという所ですね」
ミュージックビジネス専攻では計12人もの教員が退職や離任を申し出て一気にキャンパスを去りました。
大阪音大側「雇用契約及びコンプライアンスの上で何ら問題はない」
混乱を招いている事態を大阪音学大学はどう見ているのか。取材班が見解を問いただすと大阪音大側は文書でこう回答しました。
「契約不更新に至った詳細な理由につきましては、プライバシー保護の観点からお伝えできないことをご理解ください。契約期間満了日の4か月程度前に契約不更新を通知しております。したがいまして、本学といたしましては、雇用契約及びコンプライアンスの上で、何ら問題はないと考えております」
弁護士の見解「契約更新の期待権が生じたと判断しうる」
一方で労働問題に詳しい弁護士は今回の契約終了は不当な可能性があると指摘します。
(みお綜合法律事務所 西村諭規庸弁護士)
「4年間の中でどういったカリキュラムを組んで、どう指導して教育して、ということだと思いますので、(脇田氏が)その中で中心的なことをされていたのであれば、十分契約更新の期待権が生じたと判断しうるのではないかなと考えます。毎年更新をするという前提というよりは、基本的には1期生が卒業するまでに関しては少なくとも契約更新の期待権が発生しうるのではないか」
「若い人たちのために貢献する機会を奪われた無念さ」
大阪音大を追われた脇田さん。現在は東京でなんとか音楽関連の仕事を手がけていますが悔しさは拭えません。
(元大阪音大・専任嘱託教授 脇田敬さん)
「大阪で大学に行っている若い人たちのために貢献する機会を奪われた無念さというんですかね。大学側も非をしっかり認めて、いい方向に向かって、その姿を世の中に見せてほしい」