奈良県に、“法令に違反した横断歩道”があるとして、法律の専門家である弁護士が警察に憤っています。弁護士が指摘する違反の実態を取材すると、そうした横断歩道を県内で複数確認。この場所で“歩行者妨害”の交通違反取り締まりを行っていた場合は…警察に見解を聞きました。
法令違反の横断歩道?実際に車で通ってみると…
【奈良県警公式YouTubeの動画より】
『春の交通安全県民運動です!ドライバーの皆さん、もちろんバイクも自転車も、横断歩道を横断しようとする歩行者がいるときはストップ!』
5月に行われる「春の交通安全県民運動」に向けて、動画では警察官がドライバーに交通ルールの順守を呼び掛けています。
奈良県警は、事故が多発していることから、歩行者が歩道を横断中に車が一時停止しないなどのいわゆる歩行者妨害の取り締まりを強化していて、2021年の検挙数は3923件と、2016年の約10倍に増えています。
しかし、その中に不適切な取り締まりがあるのではと訴える人がいます。行政問題などを扱う弁護士・三橋和史さん(34)。不適切な取り締まりとは一体どういうことなのか?
向かった先は、奈良市西大寺南町にある一見どこにでもある横断歩道。
なにやら道路標識に問題があるようで、実際に車で通ってみると…。
(三橋和史弁護士)
「横断歩道が見えてきましたが、標識は見当たらないですね」
この交差点には横断歩道が1か所あり、南北の道に道路標識が1つずつ設置されています。南北を走る車からは道路標識を確認できますが、東西の道から曲がって横断歩道に進入する車には道路標識が見えないのです。
(三橋和史弁護士)
「路面標示はわかりますが、道路標識が視認できない位置にあるということですので、法令の要件を満たさない横断歩道ということになってしまいます」
道路交通法施行令では、信号のない横断歩道には「道路標識」と白線の「路面標示」の両方を設置しなければならないと定められています。このため、運転手から道路標識が見えない横断歩道は「法令違反にあたる」と三橋弁護士は指摘します。
2時間で見つかった「不備ある横断歩道」は10か所以上
こうした横断歩道は他にも。県立奈良高校近くの、奈良市朱雀にあるT字路。高校生の通学路になっていて交通違反の取り締まりも頻繁に行われている場所だといいますが…。
(三橋和史弁護士)
「右折車両に対して確認できる横断歩道の道路標識が設置されていませんね。これは完全に設置し忘れていると言っていいものだと思います。本来であればこちらにも道路標識を設置しないといけないんですけれども、それが行われていない」
大通り沿いに道路標識が設置されていないので、この横断歩道も法令違反となるのです。
さらに車を走らせ、奈良市学園朝日町の横断歩道では…。
(三橋和史弁護士)
「今から通る交差点の先に横断歩道が見えますが、横断歩道の標識はどこにも確認できません」
そして、別の横断歩道でも…。
(三橋和史弁護士)
「ここもないんちゃいます。左折車両に対して道路標識が設けられていない。どんどん出てきますね」
奈良市内を中心に2時間ほど探しただけで、法令に違反する横断歩道が10か所以上見つかりました。さらに問題なのが、こうした横断歩道で交通違反の取り締まりが行われるケースです。
(三橋和史弁護士)
「右左折する車両から見た場合に標識がありませんので、もし歩行者を妨害したとしても有効に違反として取り締まることができない。仮に過去に取り締まりをしていた場合であっても、行政上あるいは刑事処分の取り消しや必要な是正措置をはかっていかなければいけないと思います」
“不適切な取り締まり”は各地で問題に 過去の検挙者に反則金を返還も
こうした不適切な取り締まりは、実は全国で問題になっています。
【SBC信越放送 今年3月24日放送より】
『警察が、本来設置すべき標識がない交差点で車の取り締まりをしていたことがわかりました。その数は県内46か所の73件に及んでいて、警察は違反を取り消すなど対応をとることにしています』
去年から今年にかけて、長野県や群馬県で道路標識がない横断歩道が50か所以上見つかりました。さらに、その横断歩道で交通違反の取り締まりを行っていたことが発覚し、過去の検挙者約100人に反則金や違反点数の返還を行いました。
奈良県民はこうした不適切な取り締まりをどう思っているのでしょうか。
(奈良県民)
「取り締まりをしているのであれば、決まりはちゃんと守ってもらいたいですね、標示とか。そういう場所で切符を切っていたら、わかってる人には返してあげてほしいですね」
「よくパトカーとかバイクが止まっているので、止まるようには気を付けていました。知らなかったらそのまま罰金を受け入れるかもしれないです」
「止まりますけどね、どっちにしろ。ルールだから警察も守ってもらわないと、とは思いますね」
奈良県警「道路標識の設置に関する理解が不十分であったのではないか」
法令に違反する横断歩道が多数見つかったことについて、取材班が奈良県警に取材を申し込むと、文書で回答が寄せられました。そこには次のような内容が書かれていました。
【奈良県警からの文書より】
『横断歩道標識が適切に設置されていないことを確認しており、県民の皆様にお詫び申し上げます。道路標識の設置に関する理解が不十分であったのではないかと考えています』
奈良県警交通規制課は、標識が正しく設置されていない横断歩道の存在を認めた上で、その場所や数は調査中と回答。一方で取り締まりについては…。
【奈良県警からの文書より】
『取り締まりをした事実が判明すれば、違反者として検挙された人には反則金の還付や違反点数の抹消など必要な対応をさせていただく』
請願書を提出の弁護士「交通安全確保の点からも設置してほしい」
4月6日、三橋弁護士は道路標識の設置状況について県内全域で調査するよう求める請願書を奈良県警などに提出しました。
(三橋和史弁護士)
「奈良県警でも是正しないといけないと担当者は考えてくださっていると受け止めております。法律家としては、法令に基づいてしっかりと標識・道路標示を、交通安全確保の点からも設置していただく、見直しをしていただくということを期待したいと思います」
交通違反の取り締まりをする以上、警察側にもルールの順守が求められるのではないでしょうか。