『落書き』に悩む商店街。防犯カメラには若者がわずか3秒でシャッターに落書きする様子がとらえられていました。商店街側は防犯カメラ設置など対策をしていますが、「被害を被っている側がコストをかけて対策するのは納得がいかない」と憤っています。
犯行時間はわずか3秒…シャッターに書かれた「謎の落書き」
今年2月に撮影された防犯カメラの映像。商店街を歩く2人組。シャッターの下りた店に1人が近づきます。黒いスプレーを吹きかけ、あっという間にその場を立ち去りました。シャッターに書かれたのはアルファベットの「B」のような文字。書いたのは10代くらいの女とみられ、落書きしてから立ち去るまでわずか3秒でした。被害があったのは飲食店など約300店が軒を連ねる大阪・梅田の「ひがし中通り商店街」。日曜日の午後、人が行き交う商店街で、まさに白昼堂々の犯行でした。
(落書き被害に遭った尾田宏大さん)
「これですね。素直にびっくりしたっていうのと、やっぱり憤りも感じますし。なんでうちなんやろうって。びっくりしましたね」
商店街で不動産業を営む尾田宏大さんは当初はただのイタズラと考えました。その後、更なる被害が出るのではないかと不安を感じるようになり、約10万円かけてシャッターを取り換えることを決めました。
(落書き被害に遭った尾田宏大さん)
「最近はたたき(強盗)とか、そういう窃盗被害とかもあるので。そこも変に勘ぐっちゃって、なんかマーキングされているのかなとか、その辺もいろいろ考えましたけど。なんでこういうことをしたのか、単純にすごく気になっているので、そこは聞いてみたいですよね」
路地裏に入ると大量の落書きが…『治安が悪くなるのが一番困る』
落書きをした2人組の行動を商店街の防犯カメラがとらえていました。2人組は「B」の落書きをした後、商店街を10分ほどうろついていました。シャッターが閉まった別の店の前で足を止める様子も…。落書きする場所を探しているようにも見えます。
(ひがし中通り商店会 小牟礼隆之さん)
「落書きした後にこっちに来たんですよ、犯人2人が。ここがうちの店なんですけど、うちの店の前でも止まって書こうとするそぶりがあったんですね」
酒店を経営する小牟礼隆之さんは当時、商品の配達に出かけていて、2人組はシャッターに貼られていた配達中の張り紙を見て落書きをやめたといいます。
商店街では長年こうした落書き被害に悩まされています。
(ひがし中通り商店会 小牟礼隆之さん)
「もうここから落書きゾーンですね。見てわかる通りこんなんです」
路地裏に入ると大量の落書きが目に入ります。落書きは増える一方で、見栄えが悪くなって商店街に客が寄り付かなくなることを心配しています。
(ひがし中通り商店会 小牟礼隆之さん)
「治安が悪くなるという懸念しかないですよね。落書きがあることによって『ここはこんなんしてもいいんや』とか『悪い地域やな』みたいな感じになって、治安が悪くなるのが一番困ります」
かつて「落書き村」と言われた街の『ある工夫』とは?
落書き被害に悩んでいるのはこの商店街だけではありません。若者たちが多く訪れる大阪・ミナミの「アメリカ村」。2006年にはシャッターや電柱への落書きが800か所以上あり、「落書き村」と言われるほどひどい状態でした。
そこで、地元住民や店舗スタッフなど約200人が立ち上がり、2か月かけて街中の落書きを消す活動が行われました。
街を挙げての大規模な清掃から17年。今のアメリカ村は…?
(記者リポート)
「以前にはシャッターなどに多くの落書きがされていましたが、このように落書きのない場所が増えてきました」
街を歩くと、その差は一目瞭然。訪れた人たちも昔の印象と違うと口を揃えます。
(アメリカ村を訪れた人)
「10年ぶりくらいですね。(昔は)もっとゴミが散乱していたりとか、落書きというかなんか汚いなって、子どもを連れて来にくいなって感じではありましたね」
「(Qここにはよく来る?)初めてです。思っていたより落ち着いているなっていうイメージです。たくさん落書きとかもあちらこちらにあるのかなと思っていたけど、あんまりそこまでないですね」
なぜ落書きが減ったのか。アメリカ村で30年カバン店を経営する女性は“ある工夫”をしているといいます。
(アメリカ村でカバン店を経営する清水尚子さん)
「全部をきれいに消すんじゃなくて、こうやって部分的に『ここ消しました』って感じにしておくんですよ。そしたら次に落書きする人が『これはやばいな』と思ってもうしないんです。きれいに消してしまうとまっさらなキャンバスのような気がして、そこにまたやっちゃうんですよ」
工夫を凝らして落書き被害に立ち向かっているのです。
自治体として予算計上して対策する地域も
落書き撲滅に向けて積極的に取り組んでいる自治体もあります。大阪府高石市は、2009年度から落書き対策の予算を計上し、市内にある落書きを消す活動を行っています。予算は年に12万円と決して多くはありませんが、犯罪の抑止や街の環境を守るためには必要なことだと話します。
(高石市環境政策課 初田光慶係長)
「やっぱり落書きを一度されますと、その近くに同じような落書きとかもされますので。それを防止という形ですぐ消して『もうここには落書きさせないぞ』という気持ちでさせてもらっています」
なぜ被害側が対策コストを…「迷惑かけるような承認欲求は捨てて」
シャッターに「B」と落書きされた梅田のひがし中通り商店街でも対策が取られています。商店街に約15台の防犯カメラを設置し、電柱などに撮影されていることを知らせる注意書きを貼っています。
(ひがし中通り商店会 小牟礼隆之さん)
「これだけ見えていますっていうのをアピールしていますね。これを柱に全部貼っているっていう状態ですね」
また、夜間は警備員が4人態勢で巡回パトロールをしています。しかし、被害を被っている商店街側がコストをかけて対策するのは納得がいかないと話します。防犯カメラ1台で15万円~16万円がかかり商店街全体では約200万円。巡回パトロールには1か月で約30万円の費用がかかるといいます。
(ひがし中通り商店会 小牟礼隆之さん)
「もうふざけんなです。これは迷惑行為の1つなので、もうそんなんはせんといてくださいと。迷惑かけるような承認欲求はもう捨ててください」
各地で長らく問題になっている落書きの被害。された側の苦労を考えると、もはやモラルの問題では済まされないのではないでしょうか。