大阪府箕面市にある市道箕面今宮線は住民たちから『桜通り』と呼ばれていて、春先には桜がきれいに咲き誇ります。そんな住民自慢の桜の木がいま、歩道整備に伴い伐採の危機にあるということです。“桜を守りたい住民”と“安全を優先したい箕面市”の現状を取材しました。
春になると“ピンクに染まる”桜通り 交通量多く市は道路工事の方針
大阪府箕面市。都会近くでありながら自然が豊かで、市外からも多くの人が訪れる場所です。
(『箕面大滝』を見に来た観光客)
「やっぱり癒されます。癒されに来ました」
「緑が大好きだから、毎回よく来るんです」
「ホッとしますね」
美しい自然は住宅街にもあります。春になると市内のあちこちで満開の桜が見られます。その桜をめぐり、いま箕面市で“ある問題”が起きているのです。
箕面市に36年住む矢嶋隆司さんに、その問題について話を聞きました。
(矢嶋隆司さん)
「昔は箕面駅を降りたら、道がまっすぐですから、ずっと両側に桜並木が見えていた。あ~、箕面ってこんないいところかと」
阪急箕面駅近くを東西に走る箕面今宮線は『桜通り』と呼ばれていて、春先には桜がきれいに咲き誇ります。ピンクに染まった桜通りは住民たちの自慢なのですが…。
(矢嶋隆司さん)
「(箕面市は)『もみじだより』という広報紙を出しているんですけど、見開きでこんなにでっかく工事の概要が出ていまして。『箕面駅から新御堂筋の間を全部9m道路に拡幅しますよ』という計画をバンっと打ち出しているんですよね。これが突然出てきました」
市の広報紙に「桜通りの拡幅工事を行う」と書かれていたのです(※なお、今回の歩道整備事業の区域に『市道才ヶ原線(桜並木通り)』は含まれていません)。
現在の桜通りは交通量が多いにもかかわらず車道の幅が4.9mと狭く、南側には歩道もありません。このため市は桜の木や電柱を取り除き、水路に蓋をして歩道を整備。車道も幅6mに広げる方針です。
桜の伐採が突然発表されたことに矢嶋さんは怒り心頭です。矢嶋さんは桜通り近くの住民約300人の署名を集め、市に道路の整備を考え直すよう訴えています。
(矢嶋隆司さん)
「市の人は伐採伐採言うけどね、桜も生き物なんですね。老木や大木やからといって伐採やというのはものすごく腹が立ちますね。住民の意思は無視されて強硬に自分達でやろうとしている。非常に憤りを感じていますね」
自慢の桜が伐採されることについて、箕面市民は次のように話します。
(箕面市民)
「いや、それはさみしいですね。私としては残してほしいと思いますけど」
「1つの箕面の名所でしたけどね。一部分がなくなったら、短くなったら魅力が無いですしね」
「バスの邪魔やしね、(桜は)無い方がいいよ。桜咲くでしょ、もう全部ガレージの中まで花の片づけや掃除でえらい目に遭うねん」
バスがすれ違うのも一苦労 取材中に事故も発生
一方で、桜通りの交通量は限界に達しています。
(記者リポート)
「2台の大型バスがすれ違えず片方が停止しています。その影響で後ろに車が並んでしまいますね」
車道の幅が狭く、桜通りはバスがすれ違うのも一苦労です。また、通りの南側には歩道が無いため、歩行者は大量の車が行き交うすぐそばを通行しなければなりません。
さらに、取材中にも車の事故が発生。まさに、事故と隣り合わせの危険な状況なのです。
住民『なぜ切る必要があるのか?』 市職員『交通安全上切った方がいい』
“住民自慢の桜”と“交通の安全”、どちらを守るのか。10月4日に桜通り周辺の住民に対して説明会が行われました。住民たちからは桜の木を残してほしいという切実な声があがりました。
【住民説明会の様子】
(住民)「(桜の木を)切ってほしくないという意見はどうなってしまうのかっていうのを知りたいんですけれども」
(市職員)「交通安全上切った方が市としたらいいとお伝えした上で、それでも残したいというご意見がございましたら何とか残す方法を考えたいと思っております」
市は「安全のために基本的に桜は切る」と主張。一方の住民側は「桜を残しながら道路を整備する方法はないのか」と詰め寄ります。
(住民)
「なぜ桜を切る必要があるのかということと、なぜ車道の幅も同時に拡幅するのか?」
「実態を見ないで、ただ切った方が安心やと言うのはおかしいんちゃいます?」
議論は白熱し、終了予定時刻を過ぎても説明会は続きました。
(市職員)「ご質問も1時間半にも及びましたので、質問も偏った方のご意見でしたので、また職員の方に個別に(対応して)いただきながら…」
(住民)「申し訳ないけどね、偏った人の意見なんて言わないでください。おたくが答えないからね、おたくがね、ちょっと待って!」
結局、会場の利用時間が過ぎたことから説明会は半ば強制的に終了しました。
市長『緑豊かな住空間の中で利便性を高めながら安全性も確保していきたい』
何とか今のまま桜を残せないのか。取材班が箕面市の上島一彦市長に話を聞きました。
(箕面市 上島一彦市長)
「直近の家の方が『桜は残しておいてください』とおっしゃった場合は残しますということは、既にもう明らかにしているんですよ。ただ、倒木しそうやとか、特に台風の時に倒れてしまうという危険性のある木はですね、やっぱり撤去しなくちゃいけない」
「危険な状態の桜以外は住民の要望があれば残す」と断言した上島市長。
一方で2023年度末に北大阪急行の新駅が開業する予定であることから、道路の整備は安全上必要だと話します。
(箕面市 上島一彦市長)
「バスは今(1日に)170本走っている。それが北大阪急行線ができると、みんな歩いたり自転車に変わるでしょ。余計にやっぱり歩行空間っていうのは整備したいなと思っている。緑豊かな住空間の中でやっぱり利便性を高めていかなあかん、安全性も確保していかなあかんというのが我々のミッションなんでね」
桜を守りたい住民と安全を優先したい箕面市。どちらも譲れないからこそお互いの声を聞き、慎重に話し合いを進めていくことが必要なのではないでしょうか。
市によりますと、桜の状態を専門家が確認したところ「すぐに倒木するおそれのある危険木はない」ことが判明したということです。市は、桜の前に家がある住民の意向を確認して伐採を判断することにしています。