奈良市の近鉄新大宮駅前に毎年、夏の訪れとともにやってくるムクドリの大群。大量のフンや大きな鳴き声に住民たちが憤懣しています。「追い払おうとする市役所職員」と「ムクドリ」の終わりなき戦いを取材しました。

「傘さしている人もいる」「なんとかしてほしい」フン害に“悲鳴”

 奈良市の近鉄新大宮駅前。交通のアクセスが良く、人通りも多いエリアです。ここでいま、住民らを悩ませる問題が起こっています。ムクドリのフン害です。

 (フン害を知る人)
 「ものすごい鳴き声とフンの被害。なんとかしてほしいです、ほんとに」
 「毎回、下校の時とかよく見ますね。めっちゃフンしますね!次の日とか雨降ったらめっちゃくさい。友だちは(フンを)リュックに落とされた」
 「傘さしている人もいる」
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 歩道を見てみると、確かにフンだらけです。
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 生け垣の葉っぱも白く染まっています。さらに…。
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 (記者リポート)
 「郵便ポストの上にもたくさんの鳥のフンが落ちています」

 これには近隣のケーキ店も頭を抱えています。

 (近隣のケーキ店 従業員)
 「フンが毎朝すごいので、水で流してデッキブラシでこすって掃除しています。(掃除は)ここから向こうの点字ブロックの終わりまで。毎朝10分かかります」

 明るいうちは一切その姿はみられませんが、夕方になると異様な光景が広がるといいます。

 (フン害を知る人)
 「夕方になると群れでワーってきて、バタバタバタバタと並んで、空もすごく暗くなる感じで」
 「もうほんま無数の…無数ですよ、ほんまに。もうワーって鳴くから、しゃべっていても全然聞こえないくらい」

午後6時半ごろから姿を現し…約10分で大群が集まり“空を埋め尽くす”

 取材班がムクドリのやってくる時間帯まで待ってみました。すると午後6時半ごろ、遠くの方にムクドリが見えてきました。
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 (記者リポート)
 「午後6時40分です。どこからともなくムクドリが飛んできています。すごい。空一面にムクドリ」

 ものの10分ほどでムクドリの大群が集まってきました。鳴き声の大きさも相当なものです。
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 電線には鳥除けのトゲも設置されていますが、器用によけてとまっています。
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 ムクドリ対策のフクロウの置物も効果はないようです。
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 なかには、こんな場面も…。

 (記者リポート)
 「場所を争ってムクドリ同士が喧嘩しているようなところもたくさん見られます」
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 通行人もムクドリの下を通るときには思わず猛ダッシュ。

「もう15年以上…」あの手この手で追い払おうとするもうまくいかず

 住民らを困らせ続けるムクドリ問題。行政も黙って見ているわけではありません。現場に奈良市の職員がやってきました。

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「もうここ15年以上ですかね。追い払っては来る、追い払っては来る」
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 実は、このムクドリ問題はここ最近にはじまったことではありません。ムクドリはカラスなど天敵の少ない市街地を好み、以前は近鉄奈良駅前に集まっていました。
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 当時、対策としてハヤブサの置物を設置するも、効果は一時的。
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 その後は、運動会などで使うピストル音を鳴らすも、近隣住民から「うるさい」との苦情が出てあえなく中止に。やけくその“木にキック作戦”が飛び出す始末。
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 2005年には、当時、最終兵器とも呼ばれた“ムクドリの悲鳴を録音したテープを流す作戦”に出ます。ムクドリは危険な場所と認識したのか、近鉄奈良駅前にはほとんど来なくなりました。しかし、このころから新大宮駅前にやってくるようになったのです。
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 新大宮でも”悲鳴作戦”を実施するもうまくいかず、2013年にはムクドリがとまれないようにと街路樹をばっさり切りもしましたが…。
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 結局は電線にとまる始末。

今年は学校から借りた「拍子木」で追い払う作戦 効果は?

 現在、奈良市では土木管理課・道路維持課・保健衛生課・農政課の4つの課で毎年持ち回り制でムクドリと戦っています。

 そして今年立ち上がったのは、農政課の職員たち。さて、今年の作戦は?

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「学校の道具ですね、音を鳴らして追い払うという形」
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 「拍子木」を鳴らして追い払うという、なんとも原始的な作戦です。今年はムクドリ対策の予算がゼロ。そんな中、名古屋市ではこの方法でムクドリの姿が消えたと聞きつけ、学校から借りてきたのです。

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「相手も生き物なので、お互いやむを得ないところはあるんですけれども、こちらも生活圏を守らないといけませんので」
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 奈良市とムクドリ、因縁の戦いがはじまります。

   (職員)「集まってきましたね」
   (職員)「どうします?散ってやります?」
 (板倉さん)「1回一緒にやってからばらけましょうか」
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 拍子木を鳴らし始めると、音に驚いたムクドリが電線から飛び立ちます。出だしは好調のようです。職員たちは電線に沿って練り歩き拍子木を鳴らし続けます。

「悔しい。このままでは当然終われない」

 しかし、効果が見られたのもつかの間、音に慣れてきたのかすぐに戻ってきました。

 (板倉さん)「またあそこもいっぱいになっていますね」
   (職員)「1人の音量では…」
 (板倉さん)「そうですね、一緒に」
   (職員)「もう多勢に無勢ちゃうかな」
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 鳴り響く拍子木の音もむなしく、ムクドリは電線で優雅に休んでいます。

 (職員)「追い払っても追い払っても…」
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 (板倉さん)「動かなくなりましたね」
   (職員)「あれだけ効いていたのに」
 (板倉さん)「やっぱり(音に)慣れてしまいましたね。しょうがないですね」
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 作戦は失敗に終わりました。

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「思った以上に効果は厳しいなと思っています。悔しいからこそまた次の方法を考えるわけで、このままでは当然終われない」

「大きめの拍子木を作って再度チャレンジ。諦めたらそれで終わり」

 後日、奈良市役所を訪ねると、次の戦いに備えて準備を進めていました。

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「ムクドリもバージョンアップしていますけれども、奈良市もそれに合わせて資料を増やしていっている状態」

 あの後、拍子木作戦が成功した名古屋市に問い合わせ、前回の敗因は「拍子木の音が分散したこと」だと分析したようです。

 (奈良市・農政課 板倉聖起主幹)
 「大きめの拍子木を作って、再度チャレンジしてみようと思っています。諦めたらそれで終わりなので、方法があればそれをチャレンジしていくのも仕事かなと思っています」

 ムクドリとの戦いに終止符を打つことはできるのか。奈良市の戦いは続きます。