昨今のアウトドアブームも後押しして、年間約20万人が訪れる滋賀県の伊吹山。色とりどりの高山植物が有名で、国の天然記念物にも指定されています。しかしこの伊吹山では、野生のシカに貴重な花畑を荒らされる被害が続いていて、地元が叫びの声をあげています。

防護柵が設置された伊吹山の山頂付近

 滋賀県の北東部にある伊吹山。標高1377mは県内最高峰で、希少な植物の宝庫として知られています。しかし今、山頂付近で問題が起きているといいます。
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 今年5月、取材班が地元住民らと山頂へ向かいました。すると、山頂付近には防護柵が設置されていましたが、大きな穴が開いていました。
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 (地元住民)
 「ここ穴が開いています」
 「針金が入っているんやけど、下は食べなくて、上の針金がないところを」
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 さらに登っていくと、また防護柵に大きな穴が。
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 (地元住民)
 「ロープでちょっと補修しよう」

 穴を発見するとロープで応急処置を行います。

 (地元住民)
 「仮の補修ですね。もっと大きい穴はちょっとなかなかできないですけどね」
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 穴はあちこちで見つかり、その都度、修復しながら山を登っていきます。

 (地元住民)
 「まずシカですね。間違いないですね」
 「お花畑を守るためにネットをしているんです。(Qシカはお花が好きなんですか?)好きなんです」

 地元住民らによると、シカがネットに穴を開けて山頂へ登っていくといいます。
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 歩くこと30分。取材班が山頂付近に到着すると、山頂は防護柵に囲まれるような状態になっていました。

温暖化の影響でシカの活動域が山頂へ拡大

 一体、何が起きているのか?50年以上、山小屋を経営する松井純典さんに話を聞きました。

 (山小屋を経営する松井純典さん)
 「いろんな高山植物といって、シモツケソウというのが一番多かったんですけど、年々減ってますね。一番いい時は本当に足の踏み場もないくらいびしっと花がありました。それが温暖化のせいもあるし、シカが年々増えているので、どうしても食べられてしまって」
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 約20年前の夏に伊吹山の山頂で撮影された写真では、赤いシモツケソウや紫のクガイソウなどが咲き誇り、一面花畑が広がっています。
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 しかし、去年の夏に撮影された伊吹山の山頂の写真では、花畑はなくなり、青々とした草が一面生い茂っています。

 (山小屋を経営する松井純典さん)
 「昔の私からしたら泣けるほど寂しいね。タマガワホトトギスとかね、もうここだけ。ほとんどここだけ。ドライブウェイの方に一面あったのもほとんどないですもん。それも全部シカに食われた」
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 温暖化の影響で雪が減り、シカの活動域が山頂へと拡大。10年程前から被害が出始めたといいます。伊吹山にはイブキトリカブトといった希少な花など約1300種の植物が自生していて、2003年には国の天然記念物にも指定されています。花をシカから守ろうと、地元の滋賀・米原市や滋賀県、保全団体などが協力して、防護柵を設置するなど対策が取られてきました。

 しかし、午後5時ごろ、取材班が山頂付近を歩くとすぐにシカと遭遇。すでに防護柵の中に侵入していました。

 (記者リポート)
 「午後5時前の伊吹山山頂付近です。シカが草を食べています。防護柵の中です」
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 (記者リポート)
 「シカが網を食べています。いじくっていますね」

 何とかして防護柵の中にある花を食べようと、力づくで壊したり、網を噛み切って侵入するシカもいるといいます。

 (山小屋を経営する松井純典さん)
 「夜に来てください。この周りに20~30頭、びしっと出てきますから。毎晩」

夜には防護柵の中に『シカの群れ』

 シカは人の気配がなくなった夜に防護柵の中に侵入して花を食べていくといいます。取材班は、花が咲いている付近にカメラを設置して、夜になるのを待ってみることにしました。すると…。
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 (記者リポート)
 「めっちゃいる…1、2、3、4、5、6…めっちゃいる…。午後11時の伊吹山山頂です。シカの目が光に反応して光っています」
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 不気味に光るシカの目。防護柵の中をシカの群れが悠々と歩いています。花を食べているようにも見えます。防護策を修理してもすぐに破られて、シカに花を食べられる被害が続いているのです。

金属柵だと噛み切られないが雪の重みで壊れてしまう

 取材した日、米原市の職員と専門家らが、設置された防護柵の点検にやってきました。3年前から防護柵が破られないようにロープの柵から金属製の柵に少しずつ取り換える取り組みを行っています。しかし、そこには課題もあるといいます。
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 (米原市自治環境課 鎌田亜裕美主任)
 「雪がたくさん降る伊吹山では、雪の重みでどうしても金属柵が倒れてしまう。そこが難しさです」
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 金属製の柵はシカに噛み切られることはありませんが、冬場に降った雪の重みで倒壊して、雪解けとともにシカが柵を乗り越えて中へと侵入してしまうというのです。

 (京都大学・農学研究科 高柳敦准教授)
 「もうちょっと早めに僕が来てるときに自分1人ででも補修しておけば良かったなって。シカの方が一歩早かったですね。向こうも生きるのに必死なので、こちらもしっかりやらないと」
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 壊れた金属柵は撤去され、また新たな作戦を検討することになりました。

 穴が開けられたポリエチレン製の防護柵には、強化繊維やステンレスが入った強化ネットが設置されるなど、現場では試行錯誤が続いています。

『昆虫や他の小動物への影響』『土砂災害』などの懸念も

 そしてシカによる被害は山頂だけではありませんでした。1合目から山頂へと続く登山道では…。

 (記者リポート)
 「伊吹山の山頂付近に来ています。土がむき出しになっています。シカが草を食べることで土が流れ出し、土砂災害や登山道が使えなくなる危険性があるといいます」
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 登山道もかつては両脇に花が咲き誇っていたといいますが、シカに全て食べられ、草すらも残っていない状態になっていました。
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 (京都大学・農学研究科 高柳敦准教授)
 「植物がなくなれば、それをエサとしている動物、昆虫とか他の小動物にも影響が出ますし、土壌の流出が起きたりしている。一番の大きな問題は、柵をしても中への執着度が非常に高くて、柵を壊して入ってくるその意欲が、他の場所のシカとは段違いですね」

 他の山では防護柵でシカを防げるといいますが伊吹山ではそうはいかないといいます。

猟犬を使ってシカを追い出す作戦も

 夏が本番を迎える前に対策として伊吹山に投入されたのが猟犬です。取材した日には柵の内側の藪に住み着いているシカを追い出す作戦が行われました。
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 合図とともに猟犬が走り出しました。
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 そして、犬が薮の中に入ると、それに驚いたのか、勢いよくシカが飛び出してきました。最後にはシカは柵をなんとか飛び越えてそのまま外へと逃げていきました。
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 駐車場に逃げ出すシカも…。この日は5頭ほどのシカが柵の外へ出ていきました。

 温暖化の影響で冬に積もる雪の量が減りシカの生息域が広がったことなどが急増した原因とみられています。自然環境をどう守っていくのか、有効な対策が急がれています。