京都府京丹後市に長らく放置されて廃墟となったタワーがあります。インターネット上では「バベルの塔」などというあだ名が付けられていますが、このタワーを“つくった人”は「京丹後市がほったらかさなければこんなことになっていなかった」と憤っています。一体何が起きているのでしょうか。

外の壁が剥がれて「さびた鉄骨がむき出し」のタワー

 京都府北部の京丹後市にある道の駅・丹後王国「食のみやこ」。西日本最大級の広さを誇り、子どもたちが遊べる遊具や芝生広場のほか、小さな動物園なども併設されていて、週末には多くの観光客で賑わっています。
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 そんな中、道の駅の一角、森の奥に“建物”が顔を出しています。
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 取材班が建物の近くまで行ってみると、そこに建っていたのは、さびた鉄骨がむき出しになった高さ30mほどのタワーでした。
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 (記者リポート)
 「近づいてみたらわかりますが、完全に(建物の)外の壁が剥がれてしまっています。雨風にさらされて柱などがかなりさびている様子が見て取れます」

観光の目玉として建設も『台風』で壁面のガラスなどが吹き飛ばされる

 まさに“廃墟タワー”。一体この建物は何なのか?取材班は、このタワーをつくった有田光亨さんに話を聞くことができました。
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 (有田光亨さん)
 「これは『丹後王国タワー』です。当初はここから海が見えたので、大勢の方に来ていただけるだろうと。平成16年(2004年)の台風23号でこんなようになった」
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 1998年、観光の目玉として旧弥栄町が建設した「丹後王国タワー」。外壁にガラスや木材をふんだんに使ったデザインで、総工費は約2億円でした。その後、2004年に旧弥栄町・旧丹後町・旧大宮町など6町が合併して、京丹後市が誕生。市がタワーの管理も行うはずでした。
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 しかし、同じ年の10月に日本列島を直撃した台風23号の暴風雨で、タワー壁面のガラスや木材が吹き飛ばされたのです。
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 有田さんは旧弥栄町で当時、町長を務めていました。

 (有田光亨さん)
 「(Qまさにこの建物を建てることに決めた?)そうそう、私がハンコを押した。台風がなければ残っているでしょ。保険で少なくとも修復はできた。(Qなぜ放置されている?)当時、京丹後市長が忙しすぎたんちゃいます?」

 有田さんによりますと、当時、市は災害対応や学校などの施設の修繕に追われ、タワーは保険などで復旧できたはずが、いつしか忘れられた存在になったといいます。

2015年の取材時も廃墟化が進んでいた

 取材班は7年前の2015年、この“廃墟タワー”の中に一度だけ入ったことがありました。タワーの中には木製の箱が無造作に置かれているなど、廃墟化が進んでいました。
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 (京丹後市の担当者※当時 2015年)
 「展示パネルを窓際に置いてあったものが風で飛んで…」

 2億円を投じて作ったものの、わずか6年で放置されました。

タワー跡地に『スケートボードパーク』建設案が打ち出されたが…

 しかし、今年になってある計画が持ち上がったといいます。

 (有田光亨さん)
 「スケボーですか、当初予算に組んだとかいう話は聞いております。果たしてそれで大勢の方が来られるのかな」
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 京丹後市は、地元の高校などから要望があったとして、東京オリンピックで脚光を浴びた「スケートボード」のパークをタワーを解体した跡地に建設する方針を打ち出したのです。解体費用約1億2000万円を含めた予算案が、今年4月の市議会に提出されました。しかし…。
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 【京丹後市議会の様子 今年2月】
 (京丹後市 池田惠一議員)
 「あれだけの土地が解体によってできるのであれば、広く公募すべきじゃないですか?」
 (京丹後市 櫻井祐策議員)
 「そもそもこのスケートボードの想定になった経過というのは、いつどのようにこういった話がでてきたのか?」
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 (京丹後市 中山泰市長)
 「いかに日常的な集客をしていくかというのが大きな課題であった中で、公募をかけることなく予算として今回はこういうことでやっていこうという経過となったということでございます」

 議会は「場当たり的だ」として紛糾。年間7700人が利用するという試算にも疑問符がつきました。
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 (京丹後市・農業振興課 野木秀康課長補佐)
 「決して早急に(案を提出)したという認識はないです。ゼロベースで検討いただきたいというご指摘をいただきましたので、その通りにさせてもらいたい」

 結局、「関係団体などとの事前調整が不十分」として、スケートボードパーク案は事実上の白紙となりました。

 道の駅が活況の中、なぜこのタワーだけがボロボロなのか。怒りを通り越した思いがこみ上げてきます。

 (有田光亨さん)
 「思いつきの場当たりではね、なかなか市民の税金を使うということにはちょっと抵抗があるんとちがいますか。京都府のサイド(道の駅)は、(委託して)大手さんがやっておられますので、そこにお任せして市民の声を聞いてやってもらう方がいいんじゃないかなと思いますけどね」

兵庫・三木市には17年間「未完成」のスケートボードパーク

 一方、兵庫県三木市では、17年間も放置されたスケートボードパークがありました。取材班が訪れてみると、すでに完成しているようにもみえますが…。
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 (家族で利用する酒井周平さん)
 「ここまでがとりあえずできています。ここから先ができていないという状況です」
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 17年前にオープンしたこの市営スケートボードパークは、敷地の一部が今も未完成のままになっています。利用者からは困惑する声が上がっています。

 (酒井周平さん)
 「アスファルトでガタガタなので、ちょっとここは滑れないかなと。(パークが)できていないということがまずおかしいと思う」

 別の利用者にも話を聞きました。

 (利用者)
 「途中でもオープンさせておくと後から市が完成させてくれるということを聞いていたので、それはちょっと話が違うな」
 「順番待ちとかが多いので、狭いのがちょっと嫌だなと思います」

 未完成がゆえにパークの中は鉄骨がむき出しの部分もあります。

利用者が急増したことを受け「未完成部分の工事」へ

 市の担当者に17年間も未完成だった理由を聞くと、次のように話しました。

 (三木市・都市政策課 前田和久課長)
 「利用者の状況等も含めて十分利用いただけている状態ではないというところもあったと思います。1年ごと1年ごとに施設が拡充されていくというイメージを持たれていたのかもしれないですけども、他の施設とのバランスをとっていく中で今日に至ってしまった」

 長年、予算の問題で放置されてきました。
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 そんな中、東京オリンピックでの活躍がきっかけとなって利用者が急増。市側はついに未完成部分の工事を始めることを決め、来年2月には全面オープンの予定です。
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 長年放置されてきた公共の施設。巨額の税金を投じて作られたものの不遇な運命をたどるタワーに人と活気が戻るにはどうすればいいのでしょうか。