JR西日本は4月に「1日の利用客が1kmあたり2000人未満の路線」を発表。17路線30区間が赤字路線として初めて公表されました。取材班は、年間6億2000万円の赤字(2018~2020年度平均)が出ているJR姫新線の上月-播磨新宮間に注目して取材しました。JR上月駅がある兵庫県佐用町では、これまで町として駅舎の整備や学生の定期券の補助などを行い存続維持に努めていて、“廃線”を匂わせるJR西日本の発表に町職員や住民は困惑しています。

JR西日本が『赤字路線』17路線30区間を公表

 兵庫県佐用町。観光客も訪れていますが、人口は今年3月末時点で1万5701人と減少傾向が続いています。
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 駅前の大通りもシャッター街に…。
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 そんな中、4月、佐用町の住民らにとって驚きのニュースが飛び込んできました。JR西日本が会見を開き、初めて赤字路線の収支を公表したのです。

 (JR西日本 地域共生部 飯田稔督次長 4月11日)
 「ローカル線を取り巻く環境は大きく変化しているところでございます。今回お示ししている線区におきましては、鉄道の特性が十分に発揮できない」
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 具体的に発表されたのは、1日の利用客が1kmあたり2000人未満の路線です。和歌山県の白浜-新宮間や兵庫県の城崎温泉-浜坂間など、17路線30区間が「赤字路線」になっているというのです。
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 佐用町を走る姫新線の播磨新宮-上月間も、1日の平均利用者数は1kmあたり750人(2020年度)で、年間6億2000万円の赤字(2018~2020年度の平均)と発表されました。

 (JR西日本 地域共生部 飯田稔督次長)
 「今回は収支率中心の経営状況が分かるものをお示ししたうえで、地域の皆さまと対話をしてまいりたい。(Q廃線も含めての議論になる?)特段、前提とか結論とかを考えているものではありません。ただ『このままの形で100%私どもの負担でこのままやってください』と言われたら、それはちょっとは困ります」

住民「廃線は死活問題になる」

 突然、降って湧いた「廃線」という2文字。名指しされた佐用町の住民たちからは、このような声が聞かれました。

 (タクシー運転手)
 「学校があるでしょう、その子らの足はどうなるのかなと思って。(廃線は)死活問題になると思いますわ」
 (駅前のメガネ店の店主)
 「地元としては大変困りますね。姫路とかに出るのにどうしてもこれ以上不便になってくるし、まして廃線となると大変なことになりますね」
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 町から鉄道がなくなると“深刻な事態に陥る”と住民たちは話します。

 (駅前のメガネ店の店主)
 「向こうには神姫バスの乗り場がありましたが、バスも採算がとれないからということで撤退されましたし。マイカー以外だとやっぱり電車になりますよね」

町が『駅舎の整備』や『利用促進への取り組み』も

 今回のJRの会見では地元負担にも言及していますが、佐用町ではすでに一部を負担しているといいます。

 (佐用町・企画防災課 江見秀樹課長)
 「こちらが上月駅になります。JRの昔は駅があったんですが、町がにぎわいをつくろうということで、特産物の直売所や地域のコミュニティースペースを合築した駅舎を建てている」
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 赤字路線の上月駅では、名産のもち大豆味噌などを販売する直売所や、陶芸教室などの交流施設が併設されています。実は佐用町にある4つの駅のうち上月駅など3つの駅舎などは、町が総額4億5000万円をかけて整備し管理しています。
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 (佐用町・企画防災課 江見秀樹課長)
 「この4月からは、大学生等の通学定期券購入助成ということで、鉄道の利用促進にも繋げていこうと」

 さらに佐用町は鉄道の利用を促進するために、学生の定期券補助や、5人以上で姫新線を利用した場合に片道分の切符代を補助するなどの取り組みを行っています。

町内の高校の生徒の約7割が町外から通学「学校に行くのが厳しくなる」

 (記者リポート)
 「午後3時半です。人通りの少なかった駅前の大通りですが、高校生たちの姿が目立つようになってきました」
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 佐用駅から列車に乗り込む多くの高校生たち。町内の高校に通う生徒の7割ほどが町外から鉄道などで通っていて、廃線になれば生徒への影響も大きいといいます。

 (生徒)
 「(Qもしあすから姫新線が無くなったらどうする?)学校に行くのが親(の送迎)だと厳しいので行きにくくなります」
 「姫路からとか結構時間をかけて来ている子も多いし、それがなくなったら交通手段がなくなるから結構大変ですよね」

姫新線の一部区間のみ赤字と名指しされ…町長怒り

 今回のJRの発表に対しては、町長も怒りを募らせています。

 (佐用町 庵逧典章町長)
 「(姫新線は)この10年間くらいで90万人くらい増えているんですよね。本当にずっと右肩上がりで乗客が増えてきた」
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 姫新線利用促進・活性化同盟会によると、JR姫新線の姫路-上月間では、沿線の自治体の取り組みで、2009年度には238万人だった乗客数がコロナ前の2019年度には322万人にまで増加しています。
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 しかし、今回の発表では、播磨新宮-上月間だけが赤字路線とされました。

 (佐用町 庵逧典章町長)
 「利用者が少ないところだけを取り上げて赤字路線という発表の仕方をされましたのでね。そういう部分を切り取って廃線にしていくのか、そういう意図が感じられまして、非常に危機感を感じている」

公共交通機関はバスのみ…鉄道は32年前に廃線の「兵庫・多可町」

 では、鉄道が廃線になると町はどう変わるのか?取材班は佐用町から東へと向かいました。播州織などで知られる兵庫県多可町。町内に鉄道はなく、公共交通機関はバスのみです。
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 公民館前のバス停で雨の中、高齢の女性が1人、バスを待っていました。

 (バス停で待っていた女性)
 「(Qもっと昔はにぎやかだった?)にぎやかだったよ。ここらへんでもお店があったしね。もう今はお店も閉まっているから寂しいです。バスの回数も少ないからちょっと不便やけどね」
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 町内を走るバスは1時間に1本程度。やってきたバスに乗ったのはこの女性だけでした。
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 しかし、この町にもかつては鉄道が走っていました。大正時代に開通し、多可町の前身である中町と西脇市を結んだ国鉄の鍛冶屋線。しかし、1980年代に入ると乗客数が減少し、廃線の危機に直面しました。
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 そんな中、当時、全国的に「ミニ独立国」を名乗って町おこしすることがブームになっていて、この地域でも鍛冶屋線の7つの駅の頭文字を取り、「カナソ・ハイニノ国」と名乗り、住民に月1回の乗車を義務付けるなど鍛冶屋線存続のための運動が行われました。
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 カナソ・ハイニノ国で内閣官房長官を務めていた小嶋明さん(74)。今もこの地域に住んでいます。

 (小嶋明さん)
 「毎月毎月、乗車促進のイベントを企画したり、研修に行ったりいろいろしました」

 当時はメディアが殺到するなど注目を集めましたが、鍛冶屋線は結局、国鉄の民営化とともに廃線になりました。

バスも廃線危機「便数減→不便→さらに乗らない」負の連鎖

 廃線から30年、今、多可町では再び廃線の危機に陥っているといいます。

 (小嶋明さん)
 「バスも同じことで乗る人が少ない。高齢者とか学生に限定される。一部通勤の方。そうすると実績が落ちていくと便数が減っていく、不便になる、さらに乗らない、その繰り返しですね。(鉄道の)代替バスはどうやって守れるのか、維持できるのか、それが新たな課題としてすぐ出てきた」
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 鉄道がなくなり人口は激減。鉄道の代わりにできたバス路線も利用者の減少で2020年、町内をまわるコミュニティーバスが廃止に。さらに、隣の西脇市とを結ぶバスも存続の危機に直面しているといいます。まさに負の連鎖…。
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 多可町の小嶋さんは、鉄道の廃線危機に陥る地域に伝えたいことがあるといいます。

 (小嶋明さん)
 「(鉄道が)無くなった町の者しか言えないことなんですけど、無くしてしまったらもう終わり。もう一度作りたいと言ってもできません。廃線が俎上(そじょう)に上がっても無関心でおっても、無くなってしまったらどう言っているかというと『やっぱり残さなあかんかったな』というのが、当時の30年前のこの町の多くの人の声だったんです」
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 今回、JRが発表した“廃線”を匂わせる内容には、和歌山県の仁坂吉伸知事も苦言を呈しています。

 (和歌山県 仁坂吉伸知事 4月12日)
 「(JRは)儲かるところと儲からないところを全部まとめてつじつまを合わせて行きなさい、というのが基本の考え方なので、儲かるところはそのままにして儲からないところは切り捨てていくといったら、それはちょっとおかしいのではないかということは言えると思います」