アスベスト(石綿)は、高度経済成長期に建材として広く利用されましたが、2005年に肺がんや中皮腫の原因として社会問題になりました。現在、建物を解体する前にはアスベストの調査が必要です。しかし、解体される神戸市内のとある市営住宅を調査したところ、複数の場所で、アスベストが“あるのかないのかわからない”ということです。どういうことなのでしょうか。

『飛散性高いアスベスト』を施工業者が見落とし 工事に不安募らす医師

 約30年前から神戸市中央区で診療所を営んできた医師の武村義人さん(69)は、近くの市営住宅が解体されることに不安を募らせています。

 (武村義人医師)
 「(市営住宅は)3つの建物が『コ』の字型になっていて、建った時期が全部違うみたい。工事現場の“お知らせ”のところには書いてある、『石綿なし』『石綿あり』とか。でもこんなん書かれてもわからへんわな」
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 この「神戸市営下山手住宅」はもともと1号棟~5号棟まであり、1号棟と2号棟は2020年に建て替えなどのためすでに解体されています。
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 同じ時期に解体されるはずだった4号棟は、1970年~1974年にかけて建設されました。この4号棟の解体工事をめぐって問題が起きているというのです。

 (武村義人医師)
 「アスベストはモノが違いますので、もう少し地域に注意を喚起したほうがいいのではないかということを(神戸市と)何回か話し合ったんですけども、その中で『電気室』の吹き付けアスベストを見逃していたと」
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 4号棟は2020年11月から解体されることが決まっていましたが、工事前、武村医師が所属する兵庫県保険医協会が、1階部分にあった「電気室」についてアスベストの調査状況を確認したところ、施工業者の見落としが発覚。電気室内に飛散性の高い「アスベスト」が使用されていたことがわかったのです。

(武村義人医師)
「東側は小学校の通学路になっていますのでね、そういうことも含めると環境問題で子どもたちの健康問題も出てくると思う。そこはもう少し慎重に丁寧にやらないと、誰が考えても由々しき事態です」

長い期間をかけて「肺がん」などを引き起こすとも

 アスベストは繊維状の天然鉱物のことで、石でできた綿のような見た目から「石綿」とも呼ばれています。安価で耐火性や断熱性が高かったことなどから、1955年ごろから建材として使われ始め、1960年代の高度成長期に広く使用されました。しかし、アスベストを含んだ粉じんを吸い込むと肺の組織に悪影響を及ぼし、15年~40年と長い期間をかけて、肺がんや中皮腫を引き起こすとも言われています。

3回目の調査でアスベストを確認…工事は延期・工事費は増額

 取材班が入手した、下山手住宅4号棟で行われたアスベストの調査結果を見ると、行われた3回の調査で、電気室は入札前の1回目の調査では対象外。落札した施工業者が行った2回目の調査では、電気室の存在を見落として調査は行われず、指摘後に行われた3回目の調査で飛散性が高いアスベストが確認されています。工事は延期され、神戸市は2億円で発注していた施工業者との契約を解除しました。
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 3回行われた調査では、複数の場所で“調査によってアスベストがあったりなかったり”と判断が分かれる事態も起きています。神戸市は一度でも「あり」と判断された場所で対策を取ることを決め、最終的に契約額は5億円増の7億円以上に膨らみました。

2023年の法改正まで「アスベスト調査」は無資格でも可能

 そもそもアスベストの調査で業者によって判断が分かれることはあるのでしょうか。建物のアスベスト調査などを年間で150件以上請け負っている会社の調査員に話を聞きました。

 (アスベスト調査員 宮森忠則さん)
 「外壁だったら外壁のなかで大体3か所をとって1つの検体とするんですけれども、見た目で『こことこことここにしましょうか』と(決めるので)、別に(サンプルをとる場所の)決まりはないです。今はサンプリングは誰でもできます」
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 宮森さんは専門機関で講習を受けてアスベストを調査するための資格を持っています。しかし、2023年10月の法改正までは資格がなくても基本的には誰でもアスベストの調査はできるといいます。

 (アスベスト調査員 宮森忠則さん)
 「(信頼できるデータを得るには)ちゃんと講習を受けたものがサンプリングして、信頼のおける分析会社に出すしかないんじゃないかなと思いますね」
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 今回の神戸市の問題について、アスベストに詳しい東京女子大学の広瀬弘忠名誉教授は、異なる調査結果が出たのであれば検証すべきだと指摘しています。

 (東京女子大学 広瀬弘忠名誉教授)
 「検査結果がお互いに矛盾するような場合にはですね、やはり市としてはきちんとした検証をするべきだと思います。アスベストが『ある』と言ったら『ある』ことにして、それに従って工事をするというのはあまりにも安易すぎるので」

市の担当者は再調査について「4つ目の結果が出るだけなので検証には至らない」

 解体工事をめぐる“アスベストの見落とし”と“工事費の増額”。神戸市の対応に問題はなかったのか、担当者に話を聞きました。

 (神戸市・住宅建設課 名倉正人課長)
 「(Qアスベストの見落としが起きたのはどうして?)請負業者が指示を失念していたとともに、神戸市としましても調査結果がどうであったかという確認が漏れておりましたので、それが一番の原因だと考えています。今回、結果として5億円の増額になりましたけども、必要な事業であると認識しております」

 3回の調査で結果が一致していないことについては、次のように述べました。

 (神戸市・住宅建設課 名倉正人課長)
 「一方が正しくて一方が間違いであるというような検証はできないというところも専門家からは伺っています。(再調査すると)4つ目の結果が出るというだけのことなので検証には至らないと考えております」

「闇に葬られていた可能性は大きい」医師は検証の必要性を訴える

 計画がストップしていた市営住宅の4号棟は、今年2月に工事が始まりました。
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 今後も老朽化した建物の取り壊しは増える中で、“なぜアスベストを見落としたのかも含め検証をしてほしい”と武村さんも指摘しています。

 (武村義人医師)
 「『第三者委員会で調べてもう1回ちゃんと(検証)してください』ということについては、神戸市は『それはしない』と。(アスベストが)1週間とか10日とか1か月で被害が出るようなものであればそれは(原因が)すぐわかりますけど、闇のうちに葬られていた可能性は大きいです。だからすごく怖いです」