地方競馬が開催されている兵庫県尼崎市の園田競馬場。近隣住民との取り決めで、ナイターの開催は金曜日だけと決められていますが、金曜日以外にもナイター照明が焚かれて開催され、一部の住民らは“約束が違う”と声を上げています。一方、競馬場側は“辺りは真っ暗だが『薄暮開催』です”と住民側に説明しています。2年前に突然始まったこの薄暮開催をめぐり、住民側と競馬場側のにらみ合いが続いています。

「レースが平日に」「間近で観られる」ファンを魅了する園田競馬場

兵庫県尼崎市の園田競馬場。今年3月上旬に訪れると、平日の昼間とあって客はまばらでした。
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(来場者)
「(Q園田競馬の魅力は?)平日やっているところかな。いつでもできる」
「馬がすぐ横をバーッと走る、その迫力が違いますね。中央競馬はちょっと離れていますねん。ぼくも何十年とやっとるけどね、あまり勝たんけどね」
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園田競馬場は、兵庫県や尼崎市などで作る競馬組合が運営し、地方競馬が開催されています。中央競馬とは違い、レースは基本平日のみ。レースを間近で観られることなどからファンを魅了しています。しかし、この競馬場をめぐって問題が起きています。

近隣住民悩ます『薄暮開催』 自治会長「薄暮じゃなくナイターちゃうかな」

(北園田地区の住民)
「夜遅くまでやってんなと。小さいお子さんをお持ちの方は家を出るのを控えさせたり、買い物に行くのも控えたりというアンケート結果がちょろちょろ出ています」
「『薄暮』に関しては取り決めをしていないわけやから」

このように話す園田競馬場のすぐ南側にある北園田地区の住民たち。悩ませているのが競馬の『薄暮開催』でした。
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園田競馬場では金曜日を除くレース(火水木開催・祝日含む)は午後5時までとして運営されてきましたが、2020年3月から開催時間を2時間繰り下げて午後7時までとする薄暮開催が始まったといいます。
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北園田地区で自治会長を務める溝川芳夫さんらは、夕方には日が落ちて暗くなるので「薄暮開催をやめてほしい」と訴えています。

(北園田地区の自治会長 溝川芳夫さん)
「午後6時くらいになったら暗くなるので、そうなったら照明があかあかとつくようになっています。これは薄暮じゃなくてナイターちゃうかなということでね。暗くなったら治安の問題とかが出てきますので、ナイターは週1回という取り決めを守ってほしい」

かつて一部ファンのマナーの悪さからナイター開催に反対…「週1回のみ」で合意

対立する園田競馬場と住民たち。取材班は10年以上前から園田競馬場と住民らとのにらみ合いを取材してきました。

(溝川芳夫さん 2011年放送当時)
「このようにですね、競馬の新聞をその辺に捨てて帰られたり。はずれ馬券を道端に捨てられたり、飲みさし(の容器)をポイ捨てされたりしています」
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11年前、経営難に直面していた園田競馬場は、集客を伸ばそうとナイターでの開催を打ち出しました。しかし、当時は一部の競馬ファンのマナーの悪さに頭を抱えていた住民らが反対し、署名活動などが行われました。
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住民側の訴えを受けて、競馬場の運営側は住宅街に街灯を設置したり、警備員を増やすなど対策を強化。最終的には「週1回の金曜日のみ」午後9時までナイターの開催をするという約束で住民側と合意しました。

住民への事前説明なしに始まった薄暮開催

当時合意した際に交わされた申し合わせ書には次のような内容が書かれています。

【申し合わせ書】
「今後、協議の必要が生じた場合は、競馬場側と住民側とで話し合い解決する」
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しかし、今回、薄暮開催を始めることは住民側には事前に知らされていませんでした。

(北園田地区の自治会長 溝川芳夫さん)
「競馬をやめろとかそういうことじゃないんです。あくまでも昼間開催と週1回のナイター開催については了承しておりますので。なにかやる時には事前に話し合いをもって納得した上でやっていきたい。約束事を破ったことに対してみなさん憤っております」
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薄暮開催が始まって4か月後に説明があったといいますが、住民側は「薄暮開催の一部はナイターにあたる」とし、600人以上の署名を集めて開催の中止を求めましたが、受け入れられませんでした。

冬は日没早く午後6時には“さながらナイター開催”に

そもそも『薄暮』とは何なのか?広辞苑には「薄明りの残る夕暮れ」と記されています。しかし、冬の時期は午後5時には日没する日もあり、午後6時には煌々と照明が焚かれた、さながらナイター開催となります。
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競馬場側は、最寄り駅まで無料直通バスを運行したり、薄暮開催するにあたって警備員を増やしたりするなど対策を取っているとしていますが…。

(近隣住民)
「植木にはずれ馬券を放り込まれたりというのも、薄暮になって最近でもちょこちょこあるんです。昔に比べれば減りましたよ。減ってもやっぱり思いは一緒」
「一番(の不安)は警備ですよね、暗くなって子どもが帰ってくる時間。薄暗くなれば嫌だし、人がぞろぞろ歩かれるのは」

以前よりも迷惑行為は改善されたといいますが、住民たちの不安は払拭されていません。

競馬場側「薄暮開催は密を避けるため」

そもそもなぜ薄暮開催を実施することにしたのか。競馬場側に話を聞きました。

(兵庫県競馬組合 小寺修司副参事)
「新型コロナウイルスの感染拡大防止対策としまして、通常の昼間開催であれば午後5時に閉門になってそこから帰られますと、ちょうどラッシュアワーの午後6時あたりになるので、3密にならないようにと」

コロナ対策として、客などが“密”を避けるために午後7時までの薄暮開催を始めたといいます。地元自治会などに事前説明をしなかったことについては、次のように話しました。

(兵庫県競馬組合 小寺修司副参事)
「(コロナ対策で)やむを得ず時差開催を実施したのが始まりでございます。(当時は)無観客でやっておりますので(その時点では)周辺の方には影響がないので、その時は周辺地域の方にご説明はしておりません」
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始めた当初は“無観客”で住民らに説明する必要がなかったと話します。そもそも無観客であれば客はおらず、密になる心配もないのではないのでしょうか。

(兵庫県競馬組合 小寺修司副参事)
「無観客開催でも働いている方がおられます。(Q売り上げが良いから薄暮開催するのではない?)薄暮開催は午後7時までなので、家にいる方が(ネット購入で)買いやすい時間帯なのは確か。(Qその買いやすい状況を狙っての薄暮開催ではない?)ではないですね」

照明が灯され「ほぼナイターモード」と実況

今年3月2日、薄暮開催の園田競馬場には約1800人が訪れました。午後6時前には日が暮れ、ナイター照明が灯されました。

(実況)
「ほぼナイターモードといったような状態となっています、園田競馬場」

実況者もこう伝えるほど、ほぼナイターモードで競馬が開催されました。
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この日は気温も低く、多くの客は警備員に誘導され直通バスに乗ったため、特にトラブルはありませんでした。競馬場側は薄暮開催はあくまで「緊急的な対策」としていますが、今後どのように運営していくのか住民側は誠実に対応してほしいと訴えています。