電動アシスト自転車には、バッテリーがついていて、少ない力で自転車をこぐことができます。コロナ禍では密を避けるためにこうした自転車が人気になっています。そんな中、去年ごろから急増しているのが、電動アシスト自転車に取り付けられたバッテリーの盗難被害です。犯行時間はわずか数十秒。一体、なぜ盗難が相次いでいるのか。取材班が追跡取材しました。
急増する『電動アシスト自転車のバッテリー盗難被害』
去年ごろからツイッター上には次のような怒りの投稿が相次いでいます。
【ツイッター上に投稿された書き込み】
「電動チャリのバッテリー盗られた!ムカつく。絶対見つけたる」
「自転車のバッテリーまたとられたー。今回は鍵もかけてたし、チェーンもつけてたのに」
投稿者らは『電動アシスト自転車のバッテリーが盗まれた』と訴えています。
大阪府内に住むAさん。去年10月、愛用していた電動アシスト自転車のバッテリーが盗まれました。
(バッテリー盗難被害者のAさん)
「『あ、電池(バッテリー)がない』と思って、家に忘れたと思って探したけど見つからなくて。パって見たら、鍵の部分も壊されていたので『盗られたんだな』と。回すとカチッと取れるんですけど、盗られたときは、ここがそもそももうなくなっていたんですよね。(Qそこの鍵の部分自体がなくなっていた?)そうですね」
Aさんは毎日、娘の保育園の送迎などに電動アシスト自転車を使っていて、生活には欠かせないものとなっています。
盗難防止のための鍵が壊されて盗まれたバッテリー。警察に被害届を出しましたが犯人は未だに捕まっていません。
(バッテリー盗難被害者のAさん)
「(修理費は)トータルで4万8000円位だったんじゃないですかね」
Aさんは親族にお金を借りて自転車を修理してバッテリーを購入したといいます。
(バッテリー盗難被害者のAさん)
「私はシングルマザーなので、去年9月にコロナの関係で保育園が休みになり、収入もほぼない状態に近いくらいまで減ったので。盗らないでほしいですよね、高いですから。何せ貧乏なので、『バッテリー買えないなぁ』っていうショックが最初は大きかったですね」
犯行時間は“数十秒”~“わずか4秒”の例も
取材班は、去年8月に撮影された、バッテリーを盗難する一部始終を捉えた防犯カメラの映像を入手しました。
タバコをくわえながら自転車に乗る男。
駐輪場に止めてあった1台の自転車の横で何かをしているようです。そして男は画面から消えました。
自転車を見てみるとサドルの下に取り付けられていたバッテリーが抜き取られていました。犯行時間はわずか30秒ほどでした。
現場は大阪府八尾市。去年7月~8月にかけて周辺では20件以上の被害が相次いでいたことから、大阪府警が捜査に乗り出して男は逮捕されました。
さらに東京都内の住宅街ではこんな事件も起きていました。防犯カメラが捉えたのはフルフェイス姿の人物。
すぐに車の横に止めてあった自転車に近づきます。
そして立ち去る人物の手にはバッテリーのようなものが映っていました。犯行時間はわずか4秒でした。
被害者に話を聞きました。
(バッテリー盗難被害者のBさん)
「普段、鍵がついているというのを犯人はたぶん見ていたんでしょうね。『この家はバッテリーに鍵をつけたまま自転車を置いてある』というのをわかっていたんだと思います。やっぱり腹立たしいですよね。結局またバッテリーを買わないといけないので、それだけまた出費してしまうので」
相次ぐ電動アシスト自転車を狙ったバッテリー盗難。大阪府内では去年1年間で366件発生していて、おととしから3倍に被害が急増しています。
『バッテリーを自転車に取り付けたまま』が多い
(記者リポート)
「こちらが電動自転車のバッテリーが盗まれた駐輪場ですが、こういったパチンコ店や入浴施設など、駐輪時間が長くなる場所を狙っていたといいます」
取材班が過去に被害があったパチンコ店を確認すると、駐輪場にはバッテリーがついたままの自転車が見受けられました。ただ盗難防止のためにわざわざバッテリーを抜いて持ち歩くのも難しいように感じます。
電動アシスト自転車に乗る人はどのように管理しているのでしょうか。
(電動アシスト自転車の利用者)
「(防犯対策は?)していないですね。本当はバッテリー自体に鍵を付けたらいいんでしょうけど。(Q周りで盗られたりとかは?)いまのところは聞いていないですけど」
「(Q防犯対策は?)僕は盗難にあったことないからね。家の前に置いているだけやけどね。(Q普段バッテリーは家に持って入りますか?)いや入らない、家の前に」
取材をすると「充電するとき以外は鍵をかけた上で自転車に取り付けたままの人」が多いようです。
盗んだバッテリーを“フリマサイトで売買”…盗品かどうか調べるのは難しい
ではそもそもなぜ自転車のバッテリーが狙われるのか。取材班がインターネットで調べてみると、フリマサイトなどで1000円~2万円程で売買されている中古のバッテリーが見つかりました。
(記者リポート)
「バッテリーだけで売られているものも結構ありますね。こちらもバッテリー単体で売られているようですが、見ただけでは盗品かどうか分かりません」
出品者の多くは匿名でのやりとりになっています。盗品かどうかを調べるために取材班は1つ購入してみました。届いたのはボロボロのバッテリーでした。
(記者リポート)
「結構使い古した感じがしますね。持ち手の部分が割れています」
本体を確認するとシリアルナンバーのようなものが記載されています。
この番号で元々の所有者を特定することはできないのか。自転車販売店にバッテリーを確認してもらうと、次のように話しました。
(まちの自転車店「リコ」あびこ店 中井良店長)
「正直言うとバッテリーの持ち主というのはわからなくて。盗難品かどうかは正直わかりかねます。シリアルナンバーをメモで控えてはるとかであれば、『このバッテリーは私のものだ』とわかる可能性もあるんですけれども」
自転車販売店によると、自転車の車体は防犯登録で管理されているものの、バッテリー自体は管理されていませんでした。
大阪府八尾市内でバッテリーを盗んだ男は大手オークションサイトに1万円程で出品していたことが分かっています。
フリマサイトなどでは、警察と協力して「盗品と分かれば出品を取り消す」などの対策が取られていますが、取り引きが匿名で行われるケースが多く、犯罪の温床になっているとも指摘されています。
警察は「常に狙われているという意識を持って防犯対策を取ってほしい」と呼び掛けています。