大阪市内の住宅街でひときわ異彩を放つ『空き家』があります。壁が落下するおそれがあるということで、ネットが張られてバリケードなども置かれています。住民らは大阪市に「取り壊してほしい」と訴えていますが、市は「倒壊のおそれはない」としています。こうした状況でも自治体側が動こうとしない訳とは、一体何なのでしょうか。
空き家率は約17%…全国の政令区でワーストの大阪市
大阪市淀川区の古びた民家が並んだ場所にある一軒。
一見、何もなさそうに見えますが、よく見ると、剥がれ落ちた外壁、地面に落ちた瓦など。
取材班が屋根の状況を確認するためにカメラを向けてみると、屋根には大きな穴が開いていました。
障子のようなものはズタズタに破れ、部屋の中は瓦礫で埋め尽くされています。この民家は人が住んでいない空き家のようです。
この空き家の隣に住む田中さん(仮名)は、おととしの早朝、大きな音で目が覚めたといいます。
(隣に住む田中さん(仮名))
「ガッシャーンという感じで。何かがいつか起こるだろうなというのはあったので、『隣の家だ!』と慌てたら、すごい感じになっていた」
空き家の外壁や瓦などが落下して、エアコンの室外機が泥まみれになったり、窓枠がへこんだりするなどの被害が出たといいます。
隣の民家が空き家になったのは約40年前。残された壁が今にも剥がれ落ちそうな状況で、行政側に対応を求めましたが、瓦の一部が取り除かれただけで空き家は放置された状態が続いています。
(空き家の隣に住む田中さん(仮名))
「危険やし衛生面も悪いし。地震なんかがきたときには何がどうなるのか。やっぱり、こっちに倒れてきたら、もちろんうちの家に被害があるっていうのが心配ですね」
大阪市ではこうした空き家が増え続けています。2018年時点で、マンションの空室なども含むと約28万6000戸。空き家率は17.1%と、全国の政令市の中でワーストです。中でも倒壊などの危険性が高い建物は自治体が「特定空き家」に指定し、所有者への罰金や行政代執行などができるようになっています。
行政代執行による建物の解体には税金が投じられ、その後、所有者などに費用は請求されますが、回収できないことも少なくありません。自治体側は代執行には慎重で、大阪市では代執行した件数がゼロの年もあります。
田中さん(仮名)の隣の空き家も「特定空き家」ですが、淀川区によると土地と建物の所有者が違ったり権利者が判然としなかったりするため、対応に苦慮しているといいます。
(隣に住む田中さん(仮名))
「誰が持ち主か分からないから連絡のしようがないというのが最大の原因みたいで。市と話した時も『これよりも酷いところがもっとあるので』みたいな感じで言われたんですけれど。結局『そこも放ってあるんだ』『何もしてないんだ』というので、何もできないっていう回答ですね」
『頭上注意』と書かれた空き家…過去には壁の一部が崩落する被害も
大阪市東成区の住宅街にはひときわ不気味な建物があります。
建物の一部はネットで覆われていて、「崩落の危険あり頭上注意」と書かれています。
(近所に住む人)
「4~5年くらい前からで、特に最近は前にせり出してきているので、地域の方が怖がっている。子どもとかの通学路は変わったみたいなんですけれど。撤去してほしいです」
「危ないよ、ここ。こっちに傾いてるのに。こんなん早く潰すか何かしないとあかんわ」
建物の外壁には至る所に亀裂が入っていて、ベランダの柱は浮いてしまっています。
建物を横から見ると、道路側に傾いていることが分かります。
さらに、建物の側面を見てみると壁の一部がなくなっていて、子どものおもちゃや名前が書かれた衣装ケースなど、部屋がむき出しになっています。
なぜこうした状態で放置されているのか。空き家の隣に住む人に話を聞いてみました。
(隣に住む人)
「借地の上に建ててあるから、家族全員が亡くなっていなくなったから(相続を)放棄したのよね。相続を放棄して出ていると思うから、地主さんも手が出せないんじゃないのかな」
近隣住民によりますと、15年ほど前に住んでいた人が亡くなってから空き家になったといいます。建物の所有権は相続人がすでに権利を放棄していて、さらに土地が借地だったため、土地の所有者に空き家の管理を強制するのは難しいというのです。
去年の夏には突然、壁の一部が道路に崩落する被害も出ていて、住民らは空き家の前を通るたびに不安がよぎると話します。
(近所に住む人)
「あちらの看板にも『頭上注意』って書いてありますけれど、どう注意したらいいのか。『行政代執行したらどうですか?』って言ったんです。(Qそしたら何と言われた?)『それも手順があるので、そこにたどり着くまでなかなかなんです』と」
区の担当者は「ただちに倒壊する危険性はない」
壁が崩落するおそれもある危険な空き家。もちろん「特定空き家」ですが、さすがにこの物件は代執行の対象ではないのでしょうか。大阪市東成区の担当者に話を聞きました。
(東成区役所市民協働課地域支援・防災担当 藤原吉生課長代理)
「建物自体は鉄骨造りになっておりまして、ただちに倒壊する危険性はないと考えております。防護シートとかを設置していますので、安全対策をできるだけ講じておりますので、当面の危険性は排除できているのかなと考えております。(Qあの防護措置で十分だと考えてる?)はい、いまのところはそう考えております」
一級建築士は「壁の崩落は今すぐに起こってもおかしくない」と指摘
本当に安全性は担保されているのか。一級建築士の橋本頼幸さんに現場を見てもらいました。
(一級建築士 橋本頼幸さん)
「なかなか厳しいですよね。ネットより上に壁がありますから、崩れるときは(壁が)1枚で崩れてきますから。ネットは超えてくる可能性が高いですよね」
建物は鉄骨3階建て。損傷が激しい側面を見てもらうと…。
(一級建築士 橋本頼幸さん)
「鉄骨部分はそんなに問題ないと思いますけれども。(鉄骨部分は)崩壊するというところまではすぐには至らないと思いますが、柱や梁についている壁が非常にギリギリで建っている状態ですね。壁が落ちてきて道路を塞ぐとか、人や物に損害を与えるという事は十分に考えられると思います。正直、今すぐに起こってもおかしくないです」
市は今後の対策について「所有者に適切に管理してほしい」
大阪市内には、去年12月末時点で、倒壊する危険があるとされる「特定空き家」は840件あると言われています。
大阪市は今後の対策についてどう考えているのでしょうか。
(大阪市計画調整局 中森淳監察課長)
「行政代執行を目的として空き家対策に取り組んでいるということではございませんので。(空き家を)どうしたらいいのかなということになれば、まずは担当の区役所に連絡をして相談していただくとか、空き家を増やしていかないところに双方で努力をしていきたいと思っております」
市は「所有者に適切に管理してほしい」としていますが、野村総合研究所(NRI)の予測では『10年後の2033年には空き家が全国で947万戸増える』とも予測されていて、「増やさないための新たな制度などが必要だ」と、専門家らは指摘しています。