30軒以上の民家が立ち並ぶ閑静な住宅街。その裏山で、ある施設の建設が進められています。住宅から100m以内のこの施設を巡って住民側と業者側がトラブルになっています。工事現場の看板には「ペットカフェ・ショップ」と書かれています。しかし実は「ペットカフェ・ショップ兼火葬炉」だったのです。ペットショップと火葬炉、ミスマッチのような気もしますが、本当の計画は何だったのでしょうか?

住宅街の隣で「ペット用火葬炉」などの建設

削り取られた斜面で建設が進められているのは、犬や猫などのペット用の火葬炉・墓・ペットショップ・カフェだといいます。

(近くに40年以上住む人)
「あれが火葬炉です。ペットカフェ・ショップ・火葬炉・墓。それができるんですよ」
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火葬炉などの建設は、大阪府堺市中区の住宅街のすぐ隣で行われていました。

(近くに40年以上住む人)
「ちょっと民家に近すぎますよね」
(近くに20年以上住む人)
「火葬炉から煙が上がったときに、洗濯物が干せないんちがうか、お布団が干せないんちがうかと」
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取材班は建設場所のすぐ隣の民家を訪れました。寝室の窓を開けると、すぐそこに火葬炉の基礎部分が見えます。

(この民家に約18年住む人)
「あまりにも近すぎますよね。これから先もこの状態でそこに見えますからね。それがずっと一生続きますので。精神的に苦痛になりますね」
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ペット用火葬炉などの建設工事をしているのは葬祭場などを経営する堺市内の会社で、2021年11月から始まりました。住民たちが2021年1月に業者側から知らされていたのは『ペットカフェを作る』という計画だったといいます。

名前は「ペットカフェ」だが図面に「火葬炉」の文字

2021年2月に行われた1回目の住民説明会で配られた資料では、タイトルは「ペットカフェ」となっています。
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ところが資料をめくっていくと、図面の片隅に「火葬炉」の文字を見つけました。
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(近くに40年以上住む人)
「資料に初めて『火葬炉』という名前が出てきた」
(近くに約18年住む人)
「小さく『火葬炉』と書いているので、みんなにある程度わかって、そこからバッと広がったんです」
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さらに、2021年7月に行われた2回目の住民説明会の資料。タイトルはペットカフェのままですが、図面を見ると、そこには火葬炉に煙突が。しかも住宅地側に取り付けられています。

(近くに20年以上住む人)
「一番住民たちが不安になっているのは全部“小出し”です。はじめはペットショップ・カフェ、それで火葬炉。火葬炉の次が、今度集まった時には、また増えているんです、お墓がね」

こうした業者側の説明に、住民らはもはやペットカフェではなく火葬炉が目的の建物ではないかと不信感を募らせています。

2021年11月の3回目の説明会で、業者側は火葬炉の建設について、こう説明しました。

(業者側担当者の説明)
「何個か土地はあるけれども、住宅が少ないということも考慮して、今回その土地を選定した」
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しかし、現場の周囲100m以内には35軒以上の民家が立ち並んでいます。住民たちが納得しないまま工事は着々と進んでいます。
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工事現場の看板は今も「ペットカフェ・ショップ新築工事」となっていて、「火葬炉」という言葉は見当たりません。
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(近くに約18年住む人)
「結局は無視されているような感じに思いますね。何を住民が言ってきても無視しておこうというような。そうでないとあんな工事は始まりませんもんね」
(近くに20年以上住む人)
「だから住民たちが不安にもなるし、これじゃいかんって、みんなが騒ぎ立てる」

建設地の急な斜面にも“不安”

住民たちが不安に感じているのは建物との近さだけではありません。建設地の一部は急な斜面になっていて、大阪府は2015年に建設予定地を土砂災害警戒区域に指定しています。
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(近くに40年以上住む人)
「こんな急でしょ。崩れ出したら一気に崩れてきますわ。斜面に片方の足(建物の支え)がかかりますからね。もし下が崩落したら基礎が崩れますよね」

業者側は住民らに対して「過去のボーリング調査で地盤の安全性は確認できている」と説明していますが、住民たちは不安は拭えないと話しています。

ペット火葬は需要が高まっているが「十分な説明や配慮が必要」

大阪市天王寺区にある「柳谷観音大阪別院泰聖寺」。約10年前からペットの火葬を始めていて、当初は月10件ほどの依頼でしたが、今では月に100件ほどあるといいます。
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(柳谷観音大阪別院泰聖寺 純空壮宏住職)
「ペットの火葬は需要・ニーズが高まっている。つまり必要ということでもございます。ですので、火葬炉を設置するにあたっては十分な説明、(住民の)皆さんへの配慮が必要なのかなと思います」
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この寺もマンションや民家に囲まれた場所にあります。住職は住民説明会を3回開き、稼働時間を午前9時~午後5時に限定したり、住民の要望を受けて煙突の高さを高くしたりするなど、住民側に寄り添う形で計画を進めたといいます。

堺市では今年1月に規制条例を施行

堺市中区で建設が進められているペットカフェやショップ兼火葬炉とお墓。そもそもこうした施設を建設する上で法規制などはないのでしょうのか。
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今から4年前の2018年、堺市では同じようにペットの火葬炉建設を巡るトラブルが起きていました。

(堺市西区での記者リポート 2018年)
「立派なマンションなんですけれども、エントランスのすぐ横に目をやりますと、『ペット焼却炉設置計画地』と書かれた看板が立てられています」
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そもそもペット火葬炉や墓を規制する法律はなく、堺市ではこの問題を機に条例を作る検討を始めました。しかし、事業者の“営業の自由”を制限することや、“ペットの範囲”をどうするのかなど検討に時間を要し、ようやく今年1月になって『火葬炉と民家との距離を100m以上とすること』や『市に許可を得ること』などを盛り込んだ市条例が施行されました。

今回の計画地は、火葬炉の100m以内に民家がありますが、2021年11月に着工したため条例の規制対象外とされました。

市は『条例施行前に工事が始まっているので条例が適用できない』

住民らは何度も堺市に陳情に訪れていますが、市は問題をどう考えているのでしょうか?

(堺市保健所環境薬務課 野田雅一課長)
「2018年2月に建築確認済証の交付を受けている施設になっております。用途は店舗なんですけれども、その中で火葬場という記載がございます。条例施行前の施設ということになりますので基準が適用できない」

堺市によると、堺市中区で建設中のペット用火葬炉の計画は2018年に建築確認申請が下りていて、条例施行前に工事が始まっている以上、条例は適用できないといいます。
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4年前に建築確認申請が下りていながら、なぜ住民への説明は工事着工の直前だったのか?取材班は業者側に取材を申し込みましたが、業者側は「係争中のため一切コメントできない」としています。

住民らは、2021年12月に建物の建設差し止めなどを求めて大阪地裁堺支部に仮処分を申し立て、今年2月10日からは工事は中断しています。

ペットの火葬炉は必要な施設ではありますが、住民たちに寄り添う計画であるべきではないでしょうか。