度重なる「まん延防止等重点措置」などで影響を受けている飲食店。現在も大阪府では飲食店へ営業時間の短縮などが要請されています。そんな中、飲食店の頼みの綱が「時短協力金」です。時短要請に応じた店への給付金ですが、「申請したのに全く支給されない」とトラブルを訴える飲食店を取材しました。

コロナ禍で厳しい経営…「時短協力金」申請も支払われず

大阪市浪速区に店を構える「マオリキッチン」。おととし9月から営業を始めています。
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この店一番の人気メニューは独自の配合でブレンドした25種類のスパイスで味付けされた「ハワイアン唐揚げ」です。
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店を切り盛りする店主のAさん。明るくサービス精神旺盛で、ボリューム満点のカレーやチキンステーキも人気で、弁当の配達も行っています。いつも常連客などで賑わっていますが、コロナ禍では難しい経営を強いられているといいます。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「しんどかったですよ。めっちゃしんどかったです。やっぱり飲み物、アルコールがなければ飲食店はしんどいです」
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コロナ禍で店をオープンさせたAさん。度重なる時短要請に応じて、本来であれば午後11時までの営業時間を、今は午後8時までにしています。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「皆さん早く帰らなあかんということで、売り上げが全然上がらなかったですね」
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経営が厳しい状況の中、Aさんは時短要請に応じた飲食店に大阪府から支給される「時短協力金」を去年2月から申請しました。ところが…。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「まだ1円も入っておりません。ちょっとひどいと思いますね」

本来であれば、去年6月までに400万円以上が支給されているはずですが、1円も支給されていないというのです。一体、なぜなのでしょうか。

同じ店名で2通の申請「違う筆跡」「漢字間違い」も別会社に協力金を支給

支給されないことを不審に思ったAさんは、去年6月に大阪府のコールセンターに電話をかけたといいます。すると、コールセンターの担当者は次のように話したといいます。

(コールセンターの担当者)
「すみません。同じ店の名前で時短協力金の申請が2件来ていまして、別のところに支給しているようです」
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Aさんはもちろん1人で二重に申請はしていませんが、「マオリキッチン」という店の名前でAさんの名前が書かれた申請が2件あったというのです。

(マリオキッチン・店主 Aさん)
「(Q『違うところ』というのはどこに支払われていた?)株式会社S社というところにお金がいっていました」
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Aさんによると、「マオリキッチン」の時短協力金はS社の代表・T氏に支払われていました。S社は元々、Aさんが代表だった会社ですが、別の飲食店を6年ほど前に経営していた際に、当時アルバイトだったT氏の人柄を買い、その後、会社を譲ったといいます。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「当時、『借り入れの名前も保証人も全部変えてほしい』と言われまして。『かまへんよ』と」
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その後、Aさんは2020年に営業許可を取って「マオリキッチン」を立ち上げて、家賃や光熱費、経理関係など、現在は全てAさんが担っています。店に置かれている「営業許可証」には、確かにAさんの名前が記されています。
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憤懣取材班が入手した、『大阪府に提出された2通の時短協力金の申請書類』には、両方とも店の名前は「マオリキッチン」となっています。Aさんが提出した書類には、Aさんの直筆で名前が書かれています。一方、T氏が提出した書類にもAさんの名前が書かれています。しかし、Aさんの名前の一部の「啓」という字を比べると、筆跡が違うようにも見えます。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「ここですね。僕はこんな字が書けない」
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また、T氏が提出した書面には住所の「浪速区」の漢字も間違えています。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「これはすぐ分かる字体ですので。『よくこんなことしたな』と」

大阪府側は「筆跡まで調べられない」と回答

「時短協力金」は、店の経営者に支給されるもの。不正受給を防止するために、仮に営業許可証の名前と申請者が違う場合は、営業許可証を受けた人が自筆で署名する必要があります。
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Aさんは、T氏の申請書類に署名した覚えがなかったため、こうした状況を大阪府に伝えたといいます。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「『調べてくれ、お願いします』と何回も言ったんでけれども、『(T氏から)出ている書類には不備がない』と言うから、『いやいや、不備があるやないか。ここに』と言っても、全然聞く耳を持たない」
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大阪府側は「筆跡まで調べられない。AさんとT氏で話し合ってほしい」と回答するだけで、聞き取りなどは行わないと伝えてきました。
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警察にも「詐欺ではないか」と相談しましたが、次のように言われたといいます。

(大阪府警)
「詐欺だとすれば、被害者は協力金を支給した大阪府になるので、府が被害を申し出ないと捜査できない」

T氏側は「違法な行為は一切していない」と主張

AさんはT氏に電話などで事実関係を確認しようとしましたが、対応してもらえなかったといい、去年10月に大阪府を相手に「協力金を支給する決定を出してほしい」と訴えて、大阪地裁に提訴しました。
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(マオリキッチン・店主 Aさん)
「僕が何十回も電話して、その時に調査をやってくれたら、もっと早く私にお金が入り、従業員の給料や家賃、電気代も全部払えたのに。『裁判せんかったら分からへんのか』という気はします」
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裁判所は府に対して、どちらが協力金をもらうべきか断するために、T氏が府に提出した協力金の支給対象時期の「売り上げ台帳」を明らかにするよう求めました。
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Aさんが毎日つけている「売り上げ台帳」と比べてみると、T氏が府に提出した売り上げ台帳とで金額が食い違う部分があったといいます。

(マオリキッチン・店主 Aさん)
「これが私の出した、去年2月2日の売り上げです。1万4410円。これには根拠があります。中にですね、こういうような『売り上げ伝票』があります。例えば、『ゆずチキン』を2つ売りました、『ロコモコ』1個売りました、『角煮丼』1個売りました。この合計が1万4410円。相手側(T氏)は2月2日、『弁当』が7500円、『唐揚げ』が500円、合計8000円ですと。全く違います」
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こうした実態について、憤懣取材班はT氏に直接取材を行いましたが応じてはもらえず、代理人弁護士は「マオリキッチンの経営主体はT氏で、違法な行為は一切していない」と伝えてきました。

「時短協力金」は速やかに支給するという前提で、書面や要件が簡素化されています。しかし、今回露呈した“チェック体制の甘さ”。大阪府の関係者は「性善説で進めるしかない」とも話しています。