兵庫県神戸市には70年以上の歴史を誇る「王子動物園」があります。年間100万人以上が訪れていますが、老朽化が問題となってきました。そんな中、2021年、神戸市が王子公園の再整備計画を発表しました。動物園の隣に大学を誘致するなどの計画です。動物園をリニューアルするという計画も含まれていますが、これまで公園の中にあった施設が廃止される方針で、地域住民らから困惑の声が上がっています。

去年12月に発表された「王子公園」の再整備計画

1月16日、神戸市灘区にある王子公園の前でビラ配りが行われていました。

(ビラを配る人)
「意見募集」
「書いてください、ぜひ意見を」
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チラシには『王子公園をまもって』と書かれています。
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今、王子公園を巡ってある騒動が起きています。その発端となったのが2021年12月に神戸市が発表した再整備の計画です。
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王子公園は阪急やJRの駅が近くにある約19ヘクタールの公園です。
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公園内には年間100万人以上の来場者がある王子動物園や、アメリカンフットボールや陸上の大会も行われている王子スタジアムと隣接する陸上グラウンド、広々としたテニスコートやプールなどもあります。

素案では遊園地やテニスコートなどを廃止する計画

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示された神戸市の方針(素案)では、老朽化した施設を整理して、交通便利な立地を生かす計画として、動物園の敷地内にある遊園地を廃止。王子スタジアムはトラックを廃止して移転します。その跡地に立体駐車場や大学を誘致する計画です。体育館などは残されますが、テニスコートやプールは廃止されることになっています。

神戸市はこうした計画に対して、去年12月10日~1月17日までの1か月間、市民から意見を募りました。

しかし公園を利用する人たちは次のように話します。

(公園を利用する人)
「(陸上の)サブグラウンドとか、テニスコートとかプールとかっていうのは、地域住民だけじゃなくていろいろ活用しているんですよね、若い人たちが。学生さんも。むやみになくすとか大ざっぱな考え方ではいけないんじゃないですかね」
「案がよくわからないんです。案自体の説明がもう少し聞きたいなというか考えないと。これで3月とかで決まりになると嫌だな」

神戸市は去年12月の素案発表前から住民説明会を開催していますが、そもそも開催を知らなかった市民も多いようです。

住民らの意見交換会では“困惑の声”が相次ぐ

そんな中、1月16日、住民の有志が意見交換会を開き、市民ら210人、立ち見が出るほどの人たちが詰めかけました。
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(神戸・灘区住民)
「子どもが陸上グラウンドで練習しているんですけれども、近隣の中高生が練習します。ここがなくなると練習するところがなくなるんです」
(神戸・灘区住民)
「議論があまりにも足らなさすぎるということを言いたい。市議会で議論する(べき)。報告ではなくてね」
(神戸・灘区住民)
「少子高齢化の中で全国の大学の経営も非常に厳しい状況にあるのは目の前に迫っているわけですね。どうしても住民にとっては全く理解できないですね」
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再整備計画は、1か月間で寄せられた市民の意見を踏まえて2月に市議会に報告されるため、集まった人からは、再整備のあり方を慎重に議論してほしいという声が相次ぎました。

管理職員も詳細を知らなかった「テニスコートの廃止計画」

素案で廃止されることになっている王子公園テニスコート。平日も多くの人が利用しています。
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神戸市灘区に住む元プロテニスプレーヤー・中村聡一さん(57)もその1人で、毎週ここでテニスをしています。

(テニスコートを利用する中村聡一さん)
「(去年)11月ぐらいだったと思うんですけれど、神戸新聞に突然『テニスコートを撤去する』というのが出て」

廃止計画はテニスコートを管理する職員も誰1人として詳細を知らされていなかったといいます。

(テニスコートを利用する中村聡一さん)
「65年とかある長い間あるコートが全く誰も知らない間にいきなり撤去っていうのはないだろうと。それはちょっとおかしいんじゃないのっていうのが本当のところですね」

学生たちも利用…王子公園のテニスコートは貴重な「ハードコート」

中村さんがこのテニスコートを守りたいのには理由がありました。日本では多くのコートが人工芝に砂を入れた「オムニコート」になっています。
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一方、王子公園はアスファルトでできた「ハードコート」。同じような施設は公営としては近隣では大阪市や三木市にしかないといいます。
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(テニスコートを利用する中村聡一さん)
「ハードコートっていうのは非常に貴重。だから少し上を目指している選手クラスの人たちになってくるとハードコートがないというのは困る」
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こんな利用者もいます。

(テニスコートの利用者)
「けがをして車いすテニスをするようになったんですけれど、ハードコートがなくて王子公園くらいしか普段使えない状態ではあります。今は普通に日常生活は送れるんですけれど、半月板を割ってしまって」

夕方になるとテニスコートには高校生たちがやってきました。
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王子公園の周辺には神戸大学のほか中学校や高校がいくつもあり、学生たちが部活などでテニスコートや陸上競技場を利用してきました。
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(利用する高校生)
「球威というか勢いが全然違ってくるのでいろんな体験ができる」
「初め聞いた時はすごく驚いたんですけど、後からしっかり考えると、後輩の代もこのコートを使って練習してほしいなっていうのがありますし、練習場所としてしっかり残してほしいな」

市の担当者「改めて庁内で議論したい」

こうした事態に、近隣の中学校や高校の陸上部らが市長宛に嘆願書を提出。中村さんらも計画の見直しを求めてテニス仲間ら460人の署名を神戸市に提出しました。
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神戸市はこのまま計画を進めていくのか。神戸市企画調整局の山田大輔副局長に話を聞きました。

(神戸市企画調整局 山田大輔副局長)
「(市民からの意見が)1500通という数はかなり多いと思いますので、そこをまず読み解くことが必要なのかなと。大前提として、まだ(計画の)ゾーニングをお示しした段階。我々がお伝えしなければいけなかったこととか、少し言葉が足りなかったというところも事実です。改めて庁内で議論したいと思っています」
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地域住民へ改めて理解を求めていくという神戸市。1月28日、市長の定例会見で取材班がこの問題をぶつけてみました。

(神戸市 久元喜造市長)
「唐突に出したのではなくて、去年10月の市長選の公約にも入れています。現時点で確定的なスケジュールを立てることありきではなくて、これだけの意見も寄せられているわけですから、この意見の内容を見て、今後どうするかということをしっかりと考えていきたいと思います」
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今から71年前に作られた王子動物園。ゾウが暮らす建物は園内で最も古く老朽化が進んでいます。
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再整備計画で動物園の施設が一新されて、神戸の新たな目玉になればと期待する声があれば、入場料の値上げを心配する声も聞かれます。市民に親しまれる公園だからこそ、行政主導ではなく、市民の声を反映した計画であるべきではないでしょうか。