神戸市内にある築50年の商店街。これまでずっと「地上」として営業してきました。登記簿上も「地下」とは表記されていません。しかし、去年になって消防が立ち入り調査をして、突然「地下」にあたるとして、地下に適した消火設備などの改修命令が出されました。これに対応するには莫大な費用がかかるため、商店街に入る映画館の支配人が、神戸市に対して「命令の取り消し」を求めて裁判を起こす事態になっています。

この映画館は『地上?地下?』

レトロな映写機で往年の名画などを上映している神戸市兵庫区の「パルシネマしんこうえん」。今年1月に開館50周年を迎えた歴史ある映画館です。
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(映画を見に来た人)
「来やすい雰囲気というか。アットホームな感じがあっていいんじゃないかなと思います」
「昔の映画を上映している。それを狙ってこちらに来ていました」

ロードショーが終わった映画などを上映する「名画座」で、地元の人だけではなく映画ファンからも親しまれてきました。
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そんな歴史ある映画館で、その“問題”が起きているといいます。支配人である小山岳志さん(37)に話を聞きました。

(パルシネマしんこうえん・支配人 小山岳志さん)
「こちらは現時点の消防設備として使えるものとなっております。火災が起きた時はこのホースを全部ばーっと出して、所定のところをひねって水を出す。本来は消防法で認められているものですね」

映画館に設置されている消火設備。これまでであれば、この設備で問題なく運営できたといいます。しかし…。

(パルシネマしんこうえん・支配人 小山岳志さん)
「(市に)『認められません』というふうには言われました。地下街だと認められないそうです。それは消防法にも確かに書かれていましたので。ここが『地上階ということでしたらこれは認められますので』というふうに」

50年間『地上』と認識…しかし『地下』として消火設備の改修命令

「地上」であればオッケーで「地下」ならアウト。一体どういうことなのでしょうか?

(記者リポート)
「映画館のチケット売り場は商店街の中にありますが、すぐ歩道に出られるようになっています。感覚としては地上のような感じなのですが、歩道に出てすぐ右側にある斜面を上がっていきます。上った先は公園になっていて、ここも地上のような感じになっています」
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“坂の下”も地上で、“坂の上”にも地上がありました。
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神戸市兵庫区新開地にある「湊川公園」。その北側の低層部には築50年の「ミナエンタウン」という商店街が入っています。公園沿いには道路が走っていて、商店街の入口も地上からアクセスできるようになっています。
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この商店街もその中に入る映画館も半世紀にわたって「地上」だと認識していましたが、去年12月に消防署から“通知”が届きました。突然、映画館を含めた商店街が「地下街にあたる」として、スプリンクラーの改修などの命令書が届いたのです。

(消防署から届いた命令書)
「上記対象物は、消防法の規定に違反していると認める。スプリンクラー設備を基準に適合するよう改修すること」
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(パルシネマしんこうえん・支配人 小山岳志さん)
「消防署に『地下街じゃないでしょ』というふうには商店街として一応は言ってはみたんですけど、『いや地下街です』というふうに言われました。うちにはスプリンクラーがないので改修しようがない」

映画館の建物などを記した登記簿には「鉄筋コンクリート2階建て」と記載されていて、入口が2階、上映スペースは1階となっています。「地下」という記載は一つもありません。
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2階にある映画館の入口から入った客は、上映スペースがある1階に降りてきます。外が坂道になっているため、1階にも道路に面した扉があります。そして上映スペース内にも道路に出る扉があり、鑑賞中に何かあった場合でもすぐに地上に出ることができます。
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登記上も「地上」で構造上も「地上」。それでも「地下」にあたるとして消防が命令を出したのには訳がありました。

「ミナエンタウン」は2年前、2階部分の商店街に消防が点検に入った際、スプリンクラーの故障やガス漏れ警報装置の未設置などが指摘されたといいます。商店街に入る多くの飲食店は指摘を受けてもスプリンクラーの改修工事などを行わず、今回の改善命令に至ったとみられています。

スプリンクラー費用は2000万円近く…従わないと「施設利用停止」も

映画館を運営する小山さんは、元々あった屋内消火栓が使えなくなったことから、新たな消火設備を設置するなど対応にあたっていますが…。

(パルシネマしんこうえん・支配人 小山岳志さん)
「スプリンクラーって配管がありますよね当然。シャワーの部分と、そこに水を送るポンプとエンジンもしくは発電機があるんですけれど、そこがどうも一番お金がかかるみたいで。ここだけで2000万円近く。(Q命令に従わなかったらどうなる?)一番可能性が高いのは施設の利用停止ですね」
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小山さんは消防から指摘を受けて以降、安全対策のために上映前に客に対して直接非常口の説明を行うなど、避難方法を伝えています。

『地上?地下?』専門家の見解

歴史ある映画館の存亡の危機ともいえる今回の事態。消防法に詳しい専門家に現場の状況を見てもらうと次のように話しました。

(神戸学院大学 小川一茂准教授)
「こちら真ん中に大きな通路が一本あって、通路の先端は公園を抜けた西側のビルの方に繋がっています。繋がるまでの間のお店ですね。窓なども付けられていないということで、どちらかというと『地下街』のような造りになっているというのがわかる」

商店街に立ち並ぶ店舗には窓などが無く地下の構造に近いと指摘。しかし映画館については?

(神戸学院大学 小川一茂准教授)
「今、立っている地盤の方からすると、地上部分から入って行けて、防火対策や火災が発生した時の避難などができるのかという点を考えてみますと、必ずしも地下とみなさなくてもいい」
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「地上」か「地下」かで揺れる映画館。「地下」ということになれば厳重な防火対策が求められて運営を継続するのが難しくなることから、小山さんは今年5月、神戸市に対して「命令の取り消し」を求めて神戸地裁に提訴しました。

裁判は来年始まる予定で、取材に対して神戸市は「係争中なのでコメントできない」としています。