本来なら公道は国や自治体などが管理する土地のはずですが、ある男性が自分の土地の測量を行ったところ、公道の一部も自分の私有地であることがわかったといいます。全国的にこうした事態が相次いでいます。一体なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

工場改修のための土地測量で県道の一部が私有地と判明

兵庫県姫路市でプラスチック加工会社を経営している福岡久和さん(73)。工場の目の前を走る県道を見ると複雑な思いがこみ上げてくるといいます。多くの車が行き交う県道5号。今から8年前、この県道の一部が、福岡さんの私有地の中を通っていたことが判明しました。

(福岡久和さん)
「何とか生きている間にケリをつけたいと思っています。県道5号で坪20万円だとしますと、約200坪あるので4000万円くらいになるのかなというイメージですね」
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福岡さんによりますと、福岡さんは今から48年前、手狭になった工場を増設するために隣接する土地を約1200万円で購入しました。ところが8年前、工場の改修工事のために改めて土地を測量したところ、県道の一部が福岡さんの私有地だったことがわかったのです。

『測量すると所有する土地が広がった』と聞くと悪い話ではないように思えますが…。

県道部分の土地まで固定資産税の対象だった…

(福岡久和さん)
「道路の分としての固定資産税、40年余りになるかと思いますが、その間は無駄な固定資産税をずっと払い続けていたと」

福岡さんは土地を購入してから40年以上、県道になっている土地の分まで固定資産税を払い続けてきたのです。2015年度に福岡さんが支払った固定資産税は約14万9000円。このうち6万7000円は県道にかかる固定資産税で、これまで約300万円を支払っていたことになります。福岡さんは5年前に固定資産税の返還を県に求めました。しかし兵庫県は、県道の一部が私有地だったことは認めたものの、民法上の時効で「5年分しか返還できない」としました。
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(福岡久和さん)
「(固定資産税を)5年間さかのぼって返していただいた。それまでに払っていた30数年分は時効ということで返していただけなかったですね。固定資産税を返して下さいということと、土地の買い上げをしてくださいということ、主に2点ですね。数回足を運んだんですけれども、全く話の進展がありませんので。最後には寄付をしてくださいとおっしゃられました」

県道になっている私有地分を寄付するよう県は求めていますが、福岡さんは土地を買い取ってほしいと訴え続けていて、今も平行線が続いています。

全国各地で発生『公道が私有地だった』

『公道のはずが実は私有地だった』という問題は全国各地で相次いでいます。

大阪府松原市の住宅街。Aさんが自宅を購入したのは約40年前。去年、隣の土地が売買される際に境界線を決める測量が行われたところ、思わぬ事実が発覚しました。土地の測量を行った結果、所有する建物の前の市道約10平方メートルがAさんの私有地だったことがわかったのです。
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Aさんの場合は、これまで登記簿上では市道は土地には含まれていなかったため、固定資産税などは取られていませんでした。

(Aさん)
「約40年です。40年全く知りませんでした。まさかそんな道路に自分の所有地があるなんて夢にも、夫も私も思っていませんね」
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Aさんは松原市に対して、広がった私有地に立っていた電信柱を別の場所に移すよう求めました。

(Aさん)
「松原市がそこじゃないとダメと断ってきているんですね。(電信)柱に番号があるから、それを書いていって連絡して、関電に直接かけあってみたらどうですかって言われたんですね」

さらにAさんは私有地を通る道路の使用料を市に求めましたが…。

(Aさん)
「所有権があっても道路法が勝つんだって言って。今度はね、寄付する方法もあるとか言い出すんですよ。寄付するのであったら、登記の費用とか名義変更の費用を出しますよという言い方をするんです」

松原市も、新たに判明した私有地を買い取るなどの対応はせず、寄付を求めてきたといいます。しかしAさんにとっては「土地」という資産に関わる問題とあって、簡単に「寄付する」という選択は難しいといいます。

昔の『不動産登記への認識不足』が一因か

では、そもそもなぜ私有地が広がる現象が起きるのか、専門家は『戦後の混乱の中で正確な測量がなされないまま登記手続きが行われた』と話します。

(和歌山県土地家屋調査士会 服部正会長)
「交通量が戦後に増えてきて、車社会になって、昔の細い道ではどうしようもなくなって、現場では工事がなされて道路が拡幅して幅員が広くなったんですけども。古い当時はあまり不動産登記ということについては、どうしてもしなければいけないという認識が薄かったものですから、登記手続きがされていない状況で現在に至っている」

『私有地の中に公道がある』という問題。多くの自治体では、実態の把握などは先送りにされているのが実情で、発覚しているのは氷山の一角とみられています。