新型コロナウイルスのPCR検査をめぐり、ある民間業者に対して「検査結果が届かない」と訴える人が相次いでいます。一体どんな検査が行われているのか、その実態に迫りました。

PCR検査「頼んだものが届かない」

今、ネット上では、ある民間業者が行っているPCR検査に対して“怒りの投稿”が相次いでいます。

【ネットへの投稿文より抜粋】
「結果まだ来ない。騙された?」
「本当に来るのか?」
「嘘こきすぎ。まじでお金の無駄」
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一体何が起きているのか。ツイッターに「回収だったのに来ない」などと投稿していた関東圏に住むAさん(30)に、オンラインで話を聞いてみました。

(Aさん)
「7月15日の午前0時~午前3時の間でのお届け・回収というシステムでした」
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Aさんはインターネットで民間業者Xが行うPCR検査に申し込みました。費用は3000円。受け付けは24時間可能で、指定した時間に業者が検査キットを持って自宅を訪れ、その場で唾液を採取するというものでした。結果は最短で24時間以内にメールで届くシステムでした。
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(Aさん)
「そもそも頼んだものが届かない。なおかつそれで一切連絡がなかったです」

Aさんはすぐに業者に連絡しました。すると業者Xは「遅延があってきょうはいけません」と返答。Aさんは仕事の関係で2日後には検査結果が必要だったため、ギリギリ間に合う翌日の午後9時までに来るよう改めて依頼しました。

(Aさん)
「それでも来なかった。ちょっと馬鹿にされてるじゃないですけど…」
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来なかった理由を改めて電話で確認したAさんでしたが…。

(Aさん)
「『ドライバー都合で』とまた言われちゃって。『返金をお願いします』とは言ったんです。そしたらその場では『返金とかはできません』と言われて。えー?!と思いながら」

その後、何度も返金を求め、3000円は返ってきました。そして結局2万円をかけて医療機関のPCR検査を受けました。

システムエラーで検査結果が消えた!?

さらに、こんな人もいます。Bさんは、Aさんと同じ業者Xが運営する札幌市内の施設で、今年5月にPCR検査を受けました。

(Bさん)
「100人~150人くらいは並んでいたのかな。最長でも明日の夕方には結果がわかるんだなという感じでいた」
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看板には確かに3時間~24時間以内で検査結果がわかると記されています。しかし…。

(Bさん)
「24時間経っても結果が来なかった。それでも、やっぱり並んでいたからというのがあったので、少し日にちをあけてから問い合わせをした」
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連絡用のチャットでBさんが業者側に問い合わせた時の画像を見ると、「検査結果が届きません」とたずねても、「待ち状況37人、順番が来るまでもう少々お待ちください」と表示され、10時間待っても対応してもらえなかったといいます。

(Bさん)
「もう結果を通告する気がないのかなと」

その後、2週間が経ち、電話をかけてみたといいます。

(Bさん)
「システムエラーがあったと、検査結果が消えてしまった可能性があると。電話をしなかったら2週間以上経っても何の知らせもなかったんじゃないかと」
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その後、Bさんには返金はされず、送られてきたのは新しい検査キットでした。

(Bさん)
「もう必要ないくらいの期間が経ってしまったので、正直どういう神経をしていらっしゃるのかという感じです」

記者も業者Xに検査を依頼 その結果は?

業者Xが行うPCR検査とは一体どういうものなのか。取材班はAさんと同じように、ネットから時間を指定して検査キットを持ってきてもらうように、依頼をしてみることにしました。

(記者リポート)
「即時配送という欄にチェックを入れると、今だと3時間以内に配達してくれるということです」
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8月11日の午前9時~11時を指定して、場所は大阪市内の公園にしました。取材班が公園で待っていると、午前11時、時間ギリギリに外国人らしき配達員がやってきました。

(配達員)「ここでやって、今、僕が回収します」

記者はその場で唾液を採取します。

 (記者)「これ24時間以内に結果が出るんですか?」
(配達員)「そうです。明日の11時くらいに結果が出まして、メールで送ります」

そして配達員は検体を回収していきました。
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しかしその後、24時間以内には結果は来ず、約6時間半遅れて結果を知らせるメールが届きました。2日以上遅れるということはありませんでしたが、届いた結果は「低リスク」と書かれていました。さらに「新型コロナウイルス感染症への感染の有無等の判断を行うことはできません」と記されています。これは一体どういうことなのか。

検査で示された「低リスク」とは…医師に聞く

8月17日、取材班は大阪市都島区の診療所「ごとう内科クリニック」を訪ねました。この日、クリニックで検査を受けた12人中7人が陽性でした。医師は新型コロナウイルス患者の発生届を作って保健所に提出します。こうした連携で患者を把握しているのです。

この診療所の後藤浩之院長に取材班が受けた業者XのPCR検査について聞いてみました。
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―――「低リスク」というふわっとした表記の意味は?
(ごとう内科クリニック 後藤浩之院長)
「高リスク・低リスクと出しているところは、要は提携する医療機関がないので、確定的なことが言えないわけです。確定診断というのは医師免許を持っている人しかできないので」

さらにリスクについても指摘します。

(ごとう内科クリニック 後藤浩之院長)
「入院調整をするのはあくまでも保健所ですから、発生届が出ていない人に関してコロナとしての入院調整をすることはありえないので、かなりデメリットが多いと思います」

業者X「会社全体として提携している医療機関はない」

民間業者については、厚生労働省も「提携する医療機関を定めること」や「陽性であった場合には医療機関を受診する旨を誓約させること」などと通達していて、実施していない業者は「不適切」との見解を示しています。少なくとも取材班は業者Xの検査で誓約書にサインなどはしていません。
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業者Xの検査は適正に行われているのか。取材班が問い合わせてみると音声を使わないことを条件に取材に応じました。

(業者X)
「どのような検査をしているのかなどは営業秘密のため言えません。会社全体として提携している医療機関はありません。(利用者に)誓約書も書いてもらっていません」

一部の地域以外については厚労省の通達内容を実施していないと話しました。

(業者X)
「基本的には症状がない方が自分の健康管理のために受ける検査で、高リスクとなれば自分の行動を考えてもらう目安の1つとなるサービスです」

そしてAさんやBさんが訴える検査の遅延などについてはシステムエラーや配達員不足が原因と話しました。
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命を左右することもある「PCR検査」。一見すると感染の有無がわかるかのような表記ですが、「確実な結果ではない」とする業者側の説明は釈然としません。