今年4月、菅義偉首相は高齢者への新型コロナウイルスワクチンの接種を7月末までに完了させるという方針を示していました。しかし、7月に入り一時ワクチンの供給量が減り、予約のキャンセルをせざるを得なくなった診療所が数多くありました。また、接種を希望している高齢者はワクチンを打てているのでしょうか?その実態を取材しました。

今年5月にワクチン接種が始まったクリニック

今年5月、大阪府豊中市では65歳以上の高齢者に対して新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。待ちわびたワクチン。個別接種を担う診療所側も準備万端で体制を整えていましたが…。

(飯尾クリニック 飯尾雅彦院長 今年5月)
「国から各自治体に配布量が少ないので、これは私たちいかんともしがたいところです」

この日、接種できたのはたった5人。最初の1週間は25回分のワクチンしか届きませんでした。

  (患者)「ワクチンはまだやね?」
(飯尾院長)「順番来たら連絡しますけどね、もうちょっと待ってください」

初日から現場は混乱していました。
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(菅義偉首相 4月23日)
「希望する高齢者に7月末を念頭に各自治体が2回接種を終えることができるよう、政府をあげて取り組んでまいります」

今年4月に『高齢者の2回接種を今年7月末で完了させる』という方針を示した菅首相。

高齢者へのワクチン接種は?

希望する高齢者には本当にワクチンは行き届いたのでしょうか?8月6日、取材班が大阪市内でワクチンを接種したかどうか話を聞くと…。

(ワクチン接種済みの大阪市民・70代)
「6月と7月かな。最初にネットで申し込んだからね」
(ワクチン接種済みの大阪市民・70代)
「受付開始時にすぐ電話したけれども繋がらない、ずっと。昼過ぎに繋がったらもういっぱいですと…。たまたま区役所に用事があって行ったときに、『キャンセル出たらいけますよ』と言われて、それで(6月)27日に予約を取った」

「接種を終えた」という声が多い一方で、こんな高齢者たちも…。

(ワクチン未接種の大阪市民・68歳)
「(接種)受けていないですよ。必死だけどダメです。どこも早いもの勝ち。頼みの綱である近所の病院に行ったんですよ。『8月10日に予約ができるかどうかがわかるから』と言われて、『10日に来てください』と。それで予約できるかと」
(ワクチン未接種の大阪市民・62歳)
「きょうも電話をしたけれども、病院関係も一切取れない。目が悪いのでインテックス(大規模接種会場)は空いてるんだけれども、ちょっと遠いから行けないんです。(Qかかりつけ医はあるのですか?)(クリニックに)電話したんですけれども、『3か月くらいで通ってないとかかりつけにはならない』と。もうあきらめようかなと思って」

ワクチンを打ちたくても打てない…。「ワクチン難民」とも言える高齢者たちの存在。

“ワクチン届かない”基礎疾患のある人も接種のめど立たず

さらに、こんな人もいました。大阪市内に住む川崎保弘さん(68)。介護が必要な90代の母親と2人で暮らしています。川崎さん自身も糖尿病を患っていてワクチン接種を希望していますが、取材に訪れた7月26日、まだ接種のめどが立っていませんでした。

(大阪市内に住む川崎保弘さん)
「ほったらかしですよ。1か月半ですよね、既に。これは私、“絶対許せない”と思いました。基礎疾患があるのでかかりつけ医で打つのがいいだろうと自分自身で判断して、(かかりつけ医で1回目が)7月16日と2回目が8月6日ということを言われました」
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新型コロナウイルスのワクチン接種を巡っては、大阪市は68歳~72歳の場合、集団と個別接種の予約は6月14日から始まりました。接種の1回目は6月21日から、2回目は7月21日からとなっていました。川崎さんの1回目は7月16日、2回目は8月6日に決まっていました。しかし…。

(大阪市内に住む川崎保弘さん)
「7月の5日か6日だったと思いますが、病院の方から『ワクチンの入荷が止まってしまった』ということで、とりあえずキャンセルと延期をお願いしたいということで。その時は『なんでこんなことになるんかな』と。国は『65歳以上は7月末をもってほぼ2回目接種完了する』と…。本来、高齢者の基礎疾患のある方が優先されるべきだと私は思っています」

「ワクチンが届かない」という理由から接種が延期されることになったのです。

「かかりつけ医」を選択する人が多い現状

病院側はどういう状況なのでしょうか?8月2日、川崎さんのかかりつけ医に電話をすると…。

(川崎さんのかかりつけ医)「いまやっとこさ普通になりました。ワクチンもそれなりに入りだしてきたので」
(記者)「7月中は延期?」
(川崎さんのかかりつけ医)「7月中は全然できていなかったですね」
(記者)「集団接種などへの案内は?」
(川崎さんのかかりつけ医)「そこには行かないですよ、お年寄りは。『かかりつけ医がいい』と思っている人はどれだけ待っても来ます。そういう人ばっかりですからね、うちの人は。それは仕方ないかもしれないですね」

8月になってようやくワクチンの供給があったということで、川崎さんも取材後、1回目の接種を受けることができました。「7月末の接種完了」という大方針のもと、各自治体や医療機関は翻弄されてきました。

「打ち手が足りないのではなくワクチンが足りない」クリニックの訴え

大阪市都島区にある「ごとう内科クリニック」を7月26日に取材しました。予定より接種が遅れているといいます。

(ごとう内科クリニック 後藤浩之医師)
「6月までは順調に、かなりの数接種できたんですけれども、7月になってワクチン供給が減ってきまして、接種回数が減っています。具体的にいつの予約というのは現状では難しいので、とりあえず希望者を募ってワクチンが入荷してからですね」

大阪市にワクチンを依頼する書面を見せてもらいました。毎週金曜日までに2週間先の希望数を記入して提出するといいます。7月12日、後藤医師は150回分のワクチンを依頼しましたが、供給量は60回分と『4割』しか届いていません。

(ごとう内科クリニック 後藤浩之医師)
「はしごを外されたという感じですよね、特に政府に関してはずっと接種が進まないのはワクチンの打ち手が足りないという話で、要するにみんな頑張ってやりなさいと言って、僕たちそれに合わせて頑張ってきたわけです。結局『打ち手が足りないのではなくてワクチンが足りない』。当初4月くらいからずっとそうですけれも、結局ワクチンが入らないから進まないので。それを『打ち手のせいにされたというのは僕は納得いかない』ところがありました」

「打ちたいのに打てない」と歯がゆい思いをしているのはクリニックも同じです。

神戸市では1回目の予約を全キャンセル「すごく翻弄されている」

さらに自治体側も。兵庫県神戸市では国からのワクチン供給が不透明だったため7月、ワクチン集団接種の1回目の予約を全てキャンセルするという事態に陥りました。
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(神戸市保健所ワクチン接種対策室 青石克明室長)
「どんどんやりなさい、どんどんやりなさい。やるところには渡しますと。それで、どんどんスピートアップしたら、いきなりぱたっと途絶えて、できなくなって。すごく翻弄されている感じがします。早め早めに知らせてもらわないと、すごく大きな事業なので、関係者も多いですし」

各地で感染爆発が起きる中、取材でわかってきた「ワクチン難民」の実態。現場で起きている歪の原因は何なのでしょうか。

(8月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『憤マン』より)