2018年の平昌オリンピックなどで金メダルを獲得したフィギュアスケートの羽生結弦選手。羽生選手の聖地としても知られている兵庫県の“ある神社”には、樹齢300年以上の原生林が広がっています。しかし、その木々が「害虫」によって存亡の危機に瀕しています。

“羽生選手も参拝”山の中に佇む「諭鶴羽神社」 

兵庫・淡路島の南部に広がる山々。島の最高峰・標高600mの場所にひっそりとたたずむ神社があります。
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「諭鶴羽(ゆづるは)神社」です。「ゆづる」という名前から、圧倒的な表現力で平昌五輪などで金メダルを獲得した羽生結弦選手の聖地としても知られています。
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「ゆづる」という同じ名前の読み方に親しみを感じた羽生選手は、これまでに2度、諭鶴羽神社を参拝しています。2017年に羽生選手本人が書いた絵馬が話題になり、今では毎年数百人のファンが訪れるようになっています。
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そんな中、去年12月、訪れたファンの1人が“ある異変”に気づいたといいます。

(諭鶴羽神社 宮司・奥本憲治さん)
「外を一緒に歩いていたところ、木に“木くず”が出ていたんですよね。僕はあまり気にもとめなかったんですが、ファンのおひとりの方は『宮司さん、これはちょっと心配ですね』みたいなことをおっしゃられていた」

ファンが異変に気づく…「木に『フラス』が出ていた」

諭鶴羽神社には樹齢300年を超える「アカガシ」と呼ばれる木が500本以上自生していて、県の天然記念物に指定されています。そんな神聖な森で一体何が起きているのか。
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異変に気づいたファンに取材班が電話で話を聞きました。

(羽生選手のファン)
「普段から樹木や街路樹の管理の仕事をしていまして、最後に見せてもらった神社の境内にある木が『フラス』が出ていた状態で、気になってはいたんです」

気にはなったものの、その日は帰宅したといいます。しかし、後日、思い出すきっかけがあったということです。

(羽生選手のファン)
「NHK杯か何かがあって羽生結弦君が優勝した日だったから、『羽生君の名前見た!』と思って、それで思い出したんです。フラスどうなったかなと思って、論文を検索したらすぐにヒットしてきたので、『これはやばい』と思って、すごく心配しています。今でも心配しています。少しでも残ってほしいですよね」
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このファンの人はすぐに宮司に連絡しました。

(諭鶴羽神社 宮司・奥本憲治さん)
「ぜひ樹木医さんに見てほしいというメールをいただいて、かなり深刻な被害が起こっているということと、けっこう費用もかかるというお話を聞きましたので、これは大変なことになったなと思いました」

木を枯らしてしまう“カシナガ”の脅威

諭鶴羽神社のアカガシを脅かしていたのが、木の中に住み着く害虫「カシノナガキクイムシ(通称:カシナガ)」でした。
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カシナガは体長5mmほどで、穴をあけて木の中に侵入すると卵を産み付け、ふ化した幼虫がさらに穴を掘り続けます。木は水を吸い上げられなくなり枯れてしまうのです。カシナガは徳島県から海を越えてやってきたとみられています。その徳島では、すさまじい繁殖力から、3年ほどで森全体が枯れてしまうことも。
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諭鶴羽神社でも樹木医らが502本を調べたところ、84本で被害を受けていることが確認されました。

樹木医も参加 『カシナガホイホイ』などで捕獲へ 対策費でファンから500万円以上の寄付も

カシナガから“聖地”を守るプロジェクトは今年4月に始まりました。依頼されたのは樹木医の宗實久義さん(72)です。

(樹木医 宗實久義さん)
「木にちょっと茶色っぽいのが出ていると思うんです。カシノナガキクイムシの痕ということですね」
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木にはところどころ穴が開いていて、その周りには「フラス」と呼ばれる木くずと虫のフンが混ざったものが確認できます。カシナガが中にいる目印だといいます。
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木の中に侵入したカシナガを捕獲するため、木に『特殊なシート』を巻いていきます。

(樹木医 宗實久義さん)
「シートの正式名は『カシナガホイホイ』といいます。木の中から出てくるカシノナガキクイムシを粘着性によってひっつけて捕獲するというものです。シンプルですけど非常に効果があります」

「カシナガホイホイ」が巻かれたのは特に被害が大きい37本。中にいるカシナガを捕獲できるように隙間なく巻かれていきます。
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さらに、被害が出ていない残りの470本についても防虫ネットを設置していきます。作業は地元の人や森林組合の会員らと共に進められていきました。

(一緒に作業する人たちに呼び掛ける宗實さん)
「それぞれ皆さん、虫が入るか入らないかチェックしてください。小さな隙間ができるんですよ。そこからわざわざこじ開けて入ってくることはないけど…」
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こうした対策にはかなりの費用がかかりますが、それを救ったのも羽生選手のファンでした。

(諭鶴羽神社 宮司・奥本憲治さん)
「5月を超えたぐらいからどんどんご寄付が集まり始めまして、全国から500万円以上のお金が。800人以上の方がご寄付していただいて、これだけ大勢の方が森を愛してくださって思ってくださっていたことが本当に感動でしかない」

カシナガホイホイの設置作業は丸4日かけて行われ、防虫ネットも1か月間で100本以上の木に施されました。

宮司「森は地域全体の宝。みんなの力で守っていきたい」

カシナガホイホイを設置してから1か月。6月に経過調査のため樹木医の宗實さんが再び森に入りました。木には防虫ネットやカシナガホイホイが巻かれています。

(樹木医 宗實久義さん)
「見てください、すごいでしょう。ここまで対応していただけたというのは実際やりがいがありますね」
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そして、木に巻かれたカシナガホイホイをはがし、中の様子を確認します。

(樹木医 宗實久義さん)
「この木に関してはまだですね。他のキクイムシはいますけど。今はまだサナギの状態だと思います」
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捕獲されたのは「キクイムシ」と呼ばれる害虫。カシナガは気温が上がった夏の時期から捕獲されるようになるといいます。

(諭鶴羽神社 宮司・奥本憲治さん)
「時々は宗實さんにも評価していただき、虫の状態を観察していただいて、その評価をもとにまた対処していくという作戦でこれから進めていきたいと思っています。神社だけの宝ということではなくて地域全体の宝ですから、みんなの力で守っていきたい」
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2000年以上にわたって守られてきた静かな森。今後も「ゆづるの森」としてカシナガを減らす作業は何年にもわたって続いていきます。

(2021年8月9日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『憤マン!』より)