兵庫県神戸市で、住宅地から主要道路へつながる”唯一の橋“が突然閉鎖する事態となっています。記者が現場に向かい「橋を管理する男性」を直撃取材しました。

橋の上に「鉄パイプ」や「土のう」 約2年前から突然通行止めに

問題の現場は神戸市北区の小川にかかる橋です。取材班が訪れてみると、幅5m・長さ約7mの橋の上には、鉄パイプのバリケード・土のう・「サワルナ」と書かれたポリタンクが置かれています。一体どういうことなのでしょうか…。
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現場には「車両通行止め」、そして「告知」と書かれた張り紙が掲示されていました。

【「告知」と書かれた張り紙の内容の一部】
「建設から45年以上が経過し路面の損傷等老朽化が進んでおります。当面通行禁止となります」

こうした状況について、住民らに話を聞きました。

(住民)
「一時、通せんぼをするのはパイプでやっていた。寝耳に水やからね」
「歩行者は通れるようにしてくれているけれど、車の方は困っていますね。最近まで橋に所有者がいることをみんな知らなかった」
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住民らの話によりますと、長年、神戸市が管理していたと思っていた橋に“所有者"がいて、約2年前から突然通行止めになったというのです。この橋は住民らにとって欠かせない生活道路になっています。約30戸が立ち並ぶ住宅地から幹線道路「有馬街道」に車で向かうにはこの橋を通るしかないのです。

「車は1台1か月2万円」住民に書面が配られる

去年9月に住民が現場を撮影した画像では、橋が完全にバリケードで塞がれていて、チェーンが南京錠で繋がれています。これまでに7回も完全封鎖され、住民が警察に通報しては"封鎖と解放を繰り返している”といいます。
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(住民)
「毎日不安です。橋を見るたびに『きょうは大丈夫やな』と思ってね。車を持ってる方には通行料を取るとかなんとか言い出してね」
「車を通らせるのはなんぼやと言ってきたかな」
「普通の大きいのやったら2万円やったんちゃう?」
「(Q通行料は払いましたか?)いやいや、そんなん払わへんよ」
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2年前に橋の所有者とされる人物が住民らに配った書面を見ると、そこには橋の使用料として「車は1台1か月2万円」「原付バイクは1台1か月3000円」などと細かく記されています。

「橋が落ちて死傷者が出たら責任に」橋の所有者の主張

橋の突然の封鎖や通行料など、所有者とされる人物は一体なぜこのような対応を取るのでしょうか?住宅地の中に住む所有者に取材班は直接話を聞くことにしました。
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 (記者)「突然こういう話が持ち上がってきたのですか?」
(所有者)「4年前ですかね、橋を買い取ったのが。この橋もこの家も前の所有者の持ち物で」
 (記者)「家を買うときに橋も一緒に買った?」
(所有者)「『これも買ってくれ』と」
 (記者)「前の所有者の家をそのまま引き継いだ?」
(所有者)「そうです。外国の方なんですよ、オーストラリアの方」
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約4年前に知人のオーストラリア人から住宅を購入して、その際に橋も所有していると言われて、一緒に購入したと話します。

(所有者)「橋を買わなかったら自宅が袋小路の土地になるじゃないですか。資産価値がなくなるじゃないですか。あの橋も45年ほど経っているので橋にひずみがきているんですよね。万が一、車が通って陥没して落ちて死傷者が出た場合、所有者責任になる」
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所有者は、今後も橋を生活道路として使うのであれば、『橋を購入した費用1200万円を住宅地の30戸が40万円ずつ出し合って所有者から買い取り神戸市に移管すること』を提案したといいます。

(所有者)「住民が全員でこの橋を割り勘で買えばここの資産価値は上がるし、神戸市に移管すれば橋の補強費も全部神戸市が出すようになるので、『(通行料を)2万円払うよりも割り勘で払いましょうよ』と」
 (記者)「今後も閉めますか?」
(所有者)「閉めます。問題を提起しないとここの住民は動かないから」

行政は対応できないのか 神戸市「話し合いで解決策を…」

こうした橋の所有者の主張に住民らはどう感じているのでしょうか。

(住民)
「1200万円という数字を出してきた経緯ですよね。提示された金額に対する証拠というか、何をもってこの金額かっていう」

所有者は『前の所有者だったオーストラリア人から1200万円で橋の所有権などを譲渡された』とする書面を住民らに提示しています。しかし、そもそも橋に登記簿はなく、住民らは誰のものかも証明されていないと主張しています。
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解決策が見いだせない中、神戸市は対応できないのでしょうか。

(神戸市道路管理課 森悟志課長)
「公道にかかっている(市の)橋はリストがあります。それに載ってないということは神戸市の橋ではない。(住民から)『買い取ってくれ』というお話は聞くのですが、ほかとの公平性もあるので、無償でないと難しいのかなと思っております。みなさんでお話し合いしていただいて何とか解決策を見出していただけたらなと思います」

ALS患者が利用するデイサービスの車が通行できなかったことも

地域には深刻な悩みを持つ人もいます。車いすに乗る住民の女性は難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っていて、介護のために週に数回はデイサービスの車がやってきますが、過去に橋が封鎖されたときは車が通行できず困ったといいます。

(ALS患者の母親)
「車を橋の向こうに止めてもらって、お風呂に入るのに桶みたいなものをみんなが運んで、家で(娘を)お風呂に入れてもらっていた。娘も『みんながしんどくなって業者さんが来ないと言ったら風呂も入られへん』と言って娘が怒ってね」

遠回りすれば“6分半”で大通りに出られるが… 最終的には裁判か

仮にもしこの橋がなくなったら「う回路」はあるのか。記者が周辺を歩いてみると…

(記者リポート)
「人1人通れるくらいの道が続いています」
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唯一の「う回路」は、もはや“けもの道”。
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橋を使えば約5秒で大通りに出られますが…

(記者リポート)
「ようやく大通りと繋がりました。約6分半かかりました」
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問題の解決策はあるのか。建物の所有権などに詳しい専門家に話を聞きました。

(早稲田大学 秋山靖浩教授)
「本来は開発した当時に『この橋を通らないと外に行けないよ』ということはその周辺の状況などから明らかだったわけで、そのときに開発業者と市との間でちゃんと橋の移管を行っていればこういうことにならなかったわけですよね。そのツケを一体だれが払わされるのか。最終的には裁判とかで権利関係を裁判所に判断してもらう」
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日常生活に影響を及ぼす問題。次はいつ封鎖されるのか現場では緊張が続いています。