日本維新の会の看板政策である高校授業料の無償化は政党同士の表の交渉とともに水面下、いわゆるアンダーの交渉により政策実現を引き寄せられた。今回、その任を引き受けたのが日本維新の会の遠藤敬前国対委員長だ。

 (遠藤敬衆議院議員)「前原さん(維新共同代表)と森山さん(自民党幹事長)と渡海さん(自民党前政調会長)と僕と4人でちょっと懇談させてくださいっていうことで1月27日がスタートでした。前原さんが、『森山さんと遠藤さんの関係もあるということで、ぜひ今後は遠藤さんはアンダーで恐縮ですけど、動いてもらいますので、よろしくお願いします』となった」

 遠藤氏によると教育無償化をめぐる交渉では一時、自民党側が維新の誰と話せばいいのかわからない状態になっていたという。与野党問わず幅広い人脈を持ち、これまで維新の国会対策を一手に握ってきたことから白羽の矢が立ったわけだが、この起用は決して自然な流れだったわけではない。

 去年12月に発足した維新の新執行部では吉村代表が永田町文化からの脱却を掲げ飲みニケーションによる政策決定、政党運営を否定してきた。遠藤氏は旧執行部の中心としてある意味「飲み食い政治」の象徴のように見られてきたからだ。

 (遠藤敬衆議院議員)「追いやられた側、追いやられた人がやりますって変な気持ちやったけど、自分の今までの積み重ねてきた人脈で形になるんであれば…」

 維新のMr.アンダーが再び交渉の舞台に立つことになった思いを聞いた。

▽アヒルの足ようにバタバタと…

 今回の「教育無償化」をめぐる与党、特に自民党との表舞台での交渉は、大きく3つのレイヤーで進んだ。上層から維新の前原共同代表と自民党・小野寺政調会長ライン(時に森山幹事長)、中間層に維新の青柳政調会長と自民党・小野寺政調会長ライン、下層に維新の金子、斎藤、自民の柴山、松本議員らの実務者協議ラインだ。それぞれのレイヤーで表の協議だけに限らず水面下の交渉も存在し、無償とする授業料の金額や来年度か再来年度かといった時期をめぐり激しいやりとりが繰り返されたとみられる。

 一方、遠藤氏はこの3つのレイヤーとは別で動きは基本的に水面下である。自民党の森山幹事長や小野寺政調会長とコンタクトをとりつつ、実務者の1人である松本洋平衆議院議員をカウンターパートに着々と裏の交渉を進めていた。

 (遠藤敬衆議院議員)「アヒルで言うたらアヒルの足ね、バタバタバタバタとやっているのが僕の仕事」

 自らの動きをこう例える遠藤氏。このインタビューの時点では私学を含めた授業料無償化の上限金額が交渉の焦点となっていた。

 (遠藤敬衆議院議員)「(与党に)金額を提示して交渉していく中で、書きぶりができないんですよ。例えば63万円とか、60万円とか、48万円とかいきなり書けないので、そこは6000億という予算の総額で担保していくというところなんです」

 「100ゼロはないのでね、もう1万円たりとも2万円たりとも下げられへんぞっていうことでは交渉にならない、落としどころはどこになるかっていうのはいろいろです、大阪方式の問題も指摘されていて完璧なものって東京方式でもそうですけど、ないと思うんです、あんまりこっちも振り切ってしまうと、大阪方式が正しくないって言ってる人たちは余計過度に先鋭化してくるので、そこは形勢をうまくしながら、政治家同士がやることですから、まとめていくと丸めていくという作業は僕がしてるということですね」

 その上でアンダーの交渉担当者として自らの役割をこう話す。

 (遠藤敬衆議院議員)「表で代表や共同代表、政調会長はどんどんやってもらったらいいと思うんです。そのガチャガチャとやったやつ、下にこぼれてきたやつは丸くないんです」

 「ガチガチやっている話を僕がいやそういう意味じゃないんだって働きかけたり、いやそれはおたくらがちょっと下がってあげないと、うちの共同代表や政調会長が立っていられなくなるじゃないですかと交渉する」

 「歩み寄るように、ちょこちょこっと補修をかけて、丸めるっていうのは必要なんですよね、前原さんや青柳くんが頑張って、アンダーで何とか僕が食い止めたら教育無償化を実現させられる、結局成案になったら国民に少しでもお役に立てることだと思うので」

 表の交渉を補完しつつ調整を図っていくのだが、あくまで「教育無償化」という党の政策目標を実現するためだという。そして交渉相手の出方とタイミングを見極めつつ対応する。

 (遠藤敬衆議院議員)「いろんな回しがあって、ここは立憲ときちっと話しましょう。この案件は国民民主と話しましょうと森山幹事長とか自民党の百戦錬磨の人たちはそこまで計算した中で動いてますね、今は国民民主よりもちょっとうちを先行させて、その結果で国民とどういう形ができるのかなど、いろんな想定問答集を抱えてお互いに交渉に入っているというのはわかりながらやってます」

▽交渉はふだんの「人間関係」がベース

 2月25日、自民党の石破総裁、公明党の斉藤代表、日本維新の会の吉村代表の3党首が揃いぶみ、教育無償化を含めた政策合意が成立した。与党・自民党にとっては予算成立を確実なものにでき、維新にとっては完璧ではないにしても今国会で目標としていた政策実現が叶ったことになる。さまざまなプレイヤーの協議により一定の合意をみたわけだが、水面下の交渉でその一翼を担った遠藤氏は政治の世界で交渉をまとめるには人間関係がベースになると説く。

 (遠藤敬衆議院議員)「あの人はどんな人なんだということから始まったら、なかなか深い話をして、実際にこの人に話をして全部伝えたらいいんだろうか?と思うのは人間社会の当たり前の話なんでね。永田町であろうが、地域のコミュニティであろうが、子どもの学校のクラスであろうが僕は同じことだと思いますけどね」

 「いきなりファーストコンタクトでネゴシエーションをするなんていうのはなかなかお互いに信用するのがきついですよ、いい人だなと思っても、これ以上言ったらいいのか悪いのか、その計算をしている間はなかなか本当にネゴシエーションできない」

 吉村代表は永田町文化の打破を掲げ飲み食い政治を否定している。この点については…

 (遠藤敬衆議院議員)「自民の森山幹事長は酒飲まないし、立憲の安住(前国対委員長)さんだって、ほぼコップ一杯飲んだらもう水みたいな感じ。飲み食い政治とか国対政治と言われても飲まない2人と飲むのは僕だけなんだけど、飲んで何かが成立するなんてないんですよ」

 「普段からタイミングがあればお祝い事や異動の会とか、自民党だけでなくどの政党にも、役所にもあるし、子どもが生まれたらおめでとうとお祝いの会をしたり、それは当たり前のことなんです。当たり前のことを当たり前にできない人間が当たり前に政治はできないって、飲み食いがどうのこうのっていうのは普通に社会人として生活する上で必要なものというぐらいの認識しかない」

▽Mr.アンダーの意地なのか…

 少数与党となり国会の景色は変わった。熟議と公開が進みつつあることは良いことで、以前より国対の存在感は薄れつつあるようにも感じる。これまでも「国対政治」のあり方や永田町的な意思決定と一般社会との乖離が批判の的となってきただけに、政策決定過程の可視化が進むことは歓迎すべきことだ。ただいまの少数与党でハングパーラメントの状況を野党として生かし政策実現を勝ち取るには優れた交渉役が必要なこともまた事実である。

 そして、日本維新の会という若い政党と若い執行部が表の交渉だけでまっすぐに海千山千の自民党を相手にできるのかというと正直難しい面があるだろう。代表、共同代表を支え党内をまとめる胆力も必要だ。吉村代表も合意後の取材で遠藤氏の名前を挙げた。

 (日本維新の会 吉村洋文代表)「僕らもそんな完璧に整理できた政党ではありません。その中でも若手が一生懸命自分たちの公約を実現するために頑張り、そしてその経験不足のところを前原共同代表であったり、もしくは遠藤さんであったり、ベテランが支えるという形でここに至ったというふうに思います」

 3党首が合意文書にサインしたのを見届けた遠藤氏はそっと会場を後にした。

 今回、あえて自らの関りと交渉過程の一部を我々の取材に表にしたのはMr.アンダーとして国会を渡り歩いてきた意地と思いがあったのではないだろうか。


大八木友之(MBS東京報道部記者兼解説委員)

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