国会閉会中の夏、ちょっとした話題を振りまいているのは野党、国民民主党の代表選である。現代表の玉木雄一郎氏と代表代行である前原誠司氏の一騎打ちとなっていて、9月2日(土)に雌雄を決することになる。
「売れない実力派地下アイドルということでしょうね。認知度が低い、まだまだ支持率が低いということがやっぱり我が党の最大の課題」。代表選告示を前にした8月17日の会見で玉木代表は党が抱える課題をこう述べた。自虐を込めた例えではあるものの、なかなか的を射た表現ではある。そんな「実力派地下アイドル」が国政のなかで「地上」の表舞台へと出たときにどんな存在になるのか、実はひそかに注目されている。
取材のきっかけは代表選挙に出馬することになった前原氏が地元関西、京都の選出議員であることだ。ただ、国民民主党の顔が誰になるかは「野党再編」を睨むうえで今後の国政に少なからず影響すると考えている。というのも、今回の代表選での論戦はまさに「実力派地下アイドル」の身の振り方、路線対立となっているからだ。
前原氏「政権交代を目指す」野党勢力の結集が必要
党の進むべき路線について前原氏は「政策本位で非自民非共産の枠組みの中で、しっかりと協力をしていくということが大事なことではないかと思います」という。長らく共産党の強い京都で、自民党とも対峙する環境に身を置いてきた前原氏だが、与党1強とされる現在の政治状況を変えるには共産党をのぞく野党勢力の結集が必要だと訴える。そのうえで「立憲さんや維新さんとの話し合いというものを今の執行部ができていない交渉というものをしっかりと進めていきたい」と語る。
振り返れば前原氏は2017年、当時野党第1党だった民進党の代表を務めていた際に小池百合子東京都知事が率いる希望の党へ合流を図り政権交代を目指したが、選挙区調整などがうまくいかず、結果分裂に至っている。しかし、この「失敗」を教訓として前原氏は「いまも同じことをやる必要がある」とし、あくまで政権交代を目指すと主張する。かつて日本新党や民主党で経験した政権交代にかける思いは相当強く、そのためにはもっと国民民主も次の衆院選候補者を擁立しなければならないと玉木代表を批判する。
玉木氏「すぐに野党結集の選択肢はとらない」
一方の玉木氏は「やっぱり国民民主党を国民民主党として、大きくしていこうと。安易な合流とかですね、そういったものには頼らずにやっぱり覚悟を決めて2020年9月に作った政党ですから、そこはですね、心を一つに取り組んでいきたい」と主張する。
つまり、いますぐに野党結集という選択肢はとらないという。その理由について、「野党第1党、第2党の立憲、維新が70の選挙区で対決しているなかでは2大政党制は遠い、穏健な多党制による政権交代が現実的だ」と話す。そして、この構図のまま野党をまとめようとしても「反共産」ではなく、「半共産」のような人がどうしても残ってしまうと指摘する。玉木氏は前原氏と異なり、政策の実現のためには与党と協調することも辞さない政治姿勢を見せてきた。去年の当初予算案に賛成に回り、野党としては異例の対応をとったのは象徴的だった。与党への扉も開きながら、将来的に多党制の連立政権となるにしても、まずは国民民主党自体が公明党や共産党くらいの規模となり国政でのキープレイヤーとなることが必要なのだという。
与党、自民党の中には玉木代表ならば国民民主をうまく取り込み、野党分断をはかることができるとみるむきもある。野党の立憲は泉代表が「野党議席の最大化のために野党で連携したい」と衆院選での候補者調整を呼びかけ、維新の馬場代表は「我々の目指す方向とどちらが近いかと問われると前原さんだ」との立場をとる。
代表選挙としては党の路線そのものが問われ、対立軸がはっきりしていて興味深いのだが、選挙後にしこりが残らないかが懸念される。玉木、前原両候補とも選挙後は「ノーサイド」とし人事についても具体的には語ってはいない。前原氏に近い議員は「小さな政党で政策をメインテーマに代表選挙をしても有権者からどうせ実現できないのにと思われてしまう、そうであれば野党としてどう進むのかという路線で戦ったほうが注目を引くでしょう」とあくまで一つの選挙戦術だと強調する。
ただ一方で、「選挙結果によって与党へなびく動きが強まれば新たな動きはでてくるだろう」と党分裂の可能性も否定しない。芸能界に限らず「方向性の違い」を理由に解散するグループは多いのだが、はたして激しい路線対立を抱えながらもグループは維持されるのかそれとも、脱退するメンバーが出てくるのか。「実力派地下アイドルグループ」の行方が注目される。
MBS東京報道部 記者兼解説委員 大八木友之