大阪府北部で最大震度6弱を観測した「大阪北部地震」から、今年6月18日で丸5年が経ちました。発生当時、強い揺れでブロック塀が倒壊し、女子児童が犠牲になるという悲劇をうみだしたこの地震。そこで学んだ教訓は、「現代都市」への警鐘という視点から、南海トラフ地震などこれから起きる大地震に向けての防災対策について、多くのヒントを与えてくれます。
ブロック塀の倒壊で女児が死亡 住宅は約6万軒が被害
初めに、大阪北部地震を今一度、振り返っておきましょう。2018年6月18日午前7時58分、大阪府北部を震源に最大震度6弱の地震が発生。地震の規模はM6.1。大阪・兵庫・京都など5府県で計約6万軒の住宅が被害を受け、電気・水道・ガスなどのライフラインが広範囲で影響を受けました。
この地震では、大阪府高槻市で登校中の女子児童がブロック塀の倒壊で下敷きとなり死亡するなど、6人が亡くなりました(災害関連死を含む)。女子児童が犠牲になるという深刻な事態を受けて、全国の自治体や学校では、ブロック塀の安全性の点検や撤去などを促す契機にもなりました。
発生から丸5年を迎えた今年の6月18日前後にも、多くのメディアでこの地震の特集が組まれ、ブロック塀の安全性や、進まないブロック塀の撤去の状況などが改めて掲載されました。
ラッシュアワーに発生…関西の鉄道に大きな影響 露見した「都市型災害」
ブロック塀の問題も、いまだ完全に解決されていない大事なテーマですが、見落とされてならないことは、地震が引き起こした「都市型災害」についてです。
まずは、地震の発生時間に注目です。地震は、通勤・通学のラッシュアワーとなる午前7時58分に発生しました。大勢の学生やサラリーマンらで混雑していた車内は、混乱をきたしました。鉄道では、脱線などの大きな被害はなかったものの、JR西日本は京阪神全線の運行を取りやめ、阪急・阪神・京阪・近鉄・南海の電鉄各社、大阪メトロを含むすべてが運行を停止しました(一時、駅間などに停車)。
車内に閉じ込められた多くの乗客は、避難するために最寄りの駅まで徒歩で移動することを余儀なくされました。当時、テレビのニュースでは、線路横を長い列を作って歩く乗客の姿が映し出されました。
JR西日本を例にとれば、153本が駅間に停車し、約14万人の乗客に影響がでました。地震から約30分後に降車が始まりしたが、約14万人の乗客の避難が完了するには、5時間以上を要しました。車両などの狭い空間での長時間の“拘束”は、トイレの問題や体の不自由な人への対応など、多くの課題を残しました。
鉄道の麻痺状態が長引く中、影響は高速など道路にも及びました。出勤した家族らを迎えに行こうと、車が都市部に殺到。道路は大規模な交通渋滞が起きました。阪神高速道路は全17路線と、西日本の関西エリアの高速道路が通行止めとなり、大阪外環状線など長い渋滞が発生。また、それを避けようとする車で周辺の道路も混雑しました。こうした鉄道の停止と道路の渋滞で交通網が動かなくなり、復旧も遅れたため、大阪府では、最大約150万人もの「帰宅困難者」が出たとされます。
ライフラインについては、停電が最大17万軒発生し、約3時間後に復旧。ガスは約11万戸が供給停止となり、6日後に完全復旧。水道は約9万戸が断水となり、復旧に数日を要しました。
また、高層マンションなどでは、新たな「被害」が露見します。エレベーターの停止です。全体の約54%に当たる約6万6000台のエレベーターが一時停止し、そのうち閉じ込めが339件発生しました。救出時間は、通報を受けてから最大約5時間20分もかかりました(渋滞などで現場到着が遅れたため)。火災は8件発生しましたが、延焼はありませんでした。
「都市型災害」への警鐘 南海トラフ地震が起きれば…
以上が、大阪北部地震で受けた都市部での被害の概要ですが、かなりの影響があったことがわかります。しかし、この地震の規模はM6.1なのです(阪神・淡路大震災を起こした地震の約30分の1の規模)。日本中のどこにでも、いつでも起こりうる「ふつう」の地震なのです。被害が大きくなったのは、ライフラインや交通インフラなどが複雑に絡み合う「現代都市」で起きた地震だったからです。
では、もし、いま、南海トラフ地震が起きればどうなるでしょうか。政府によりますと、南海トラフ地震の起きた際の最悪のケースでは、M9クラスの規模になることが想定されています。大阪北部地震(M6.1)と比較してみると、南海トラフ地震が放つエネルギーは、大阪北部地震のなんと“約3万3000倍”にもなります。これまで書いてきた「被害」を大きく上回る事態が起きることが容易に想像することができます。しかも、大阪北部地震は「直下型」であることから、被害は大阪を中心にした関西圏に限られましたが、南海トラフ地震の場合、静岡県から宮崎県までの広い範囲に被害がでることが予測されます。地震発生時の大きな揺れで、大阪などの都市部は、交通インフラはもとより、私たちの住む家屋が、そして、職場があるビルが倒壊するなどの被害を受け、火災も発生します。交通網は遮断され、逃げ場を失い「避難民」と化した人たちが、駅やビルの周辺、そして地下街にあふれかえり、そこに津波が襲い掛かります…。
こうした話はけっして、絵空事ではありません。5年前に起きた「都市型災害」。今一度、未来に向けて、足元を見つめ直す時期にきてきます。
◎太田尚志 元JNNマニラ支局長。阪神・淡路大震災で自身が被災して以来、地震・火山などの災害取材を継続。MBSラジオ「ネットワーク1・17」やJNN地震特番のプロデューサーなどを歴任。日本災害情報学会会員。