今年4月1日にこども家庭庁が設置され、同日にこども基本法が施行されます。基本法では、すべてのこどもが「個人として尊重」され、「適切に養育」され、「教育を受ける機会が等しく与えられ」、そして「最善の利益が優先して考慮されること」などを基本理念としています。健全に育成されることや、こどもが主体として意見を表明する機会が確保されることは「権利」であることが明示されています。しかし実際には、非常に過酷な状況の中で暮らすこどもたちが相当数いて、声をあげられないままやっとの思いで生きています。その中には、15歳までのいわゆる学齢期を過ぎてもまだまだ助けを必要としている若者も含まれます。

「覚悟を持って政策立案を行ってほしい」溢れる思いをぶつける

 3月16日夕方、「困難を経験した子ども・若者の意見に耳を傾けるつどい」という集会が国会内で開かれました。参加したのは小倉將信・こども政策担当大臣をはじめ、田村憲久・子どもの貧困対策推進議員連盟会長や与野党の国会議員、そして様々な困難を経験してきた17~26歳の若者たち5人です。大臣や国会議員を前にして、若者たちは自分たちの置かれている厳しい状況を切実に語りました。
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 17歳の女性はひとり親家庭で育ちましたが、親に罵倒されたり殴られたりしてきたそうです。「人の命を助けたい」という夢がありますが、困窮家庭のため国公立大学しか行かせないと言われていて、「大学受験に失敗したら、社会で生きることが難しくなってしまうのではないか」という不安に駆られていると話し、教育格差の解消を議員たちに訴えました。

 5人きょうだいの多子家庭で育った18歳の女性は、低所得者やひとり親家庭にある支援が多子家庭にはないことにずっとモヤモヤしてきたそうです。そしてすべてのこどもへの支援の拡充を求めました。

 別の18歳の女性は、小学2年生の時に父親が突然いなくなり、家も失い、現金2万円だけで母親と2人取り残されたといいます。その後は母親に認めてもらいたくて勉強もスポーツも頑張りましたが、母親からは暴力をふるわれたそうです。この女性は議員たちに、親権を重要視する家族主義の撤廃を訴え、「どんなこどもでも社会や国が助けていく、そういう思いを、そういう覚悟を持って、これから政策立案を行ってほしい」と結びました。

 これらは参加した若者たちの言葉のごく一部です。まさに溢れる思いが、この日、議員たちに直接ぶつけられました。

小倉大臣「我々には(こどもの声を)聴く義務がある」

 こうした訴えを聞いて、小倉大臣は「我々には(こどもの声を)聴く義務がある。声が上げられないようなこどもや若者に対しては、我々(こども家庭庁)が出向いて話を聞こうと思っています。政策にどう反映したのか、実現したのかっていうこともきちんとまたお伝えしたい」と答えました。

 こどもの困窮はこども家庭庁が向き合う大きな課題の1つですが、10代後半の若者達には社会人としての未来がもうすぐそこに来ています。少子化は「静かなる有事」としてもはや一刻の猶予も許されない状況で、いま困難を抱えている若者が無事に大人としてのスタートを切れるようになるかどうかは、日本の未来を左右する分岐点になることは間違いありません。その対応も待ったなしです。


東京報道部  石田敦子