
けがに抗い、記録と向き合う
世界最高峰の“駆けっこ”その頂点へ
調子が上がらない――それは誰の目にも明らかだった。
陸上100mで9秒台を日本人として最多の6度もマークし、昨夏のパリオリンピックでは自己最高の9秒96を記録。世界のトップスプリンターたちと肩を並べるサニブラウンは、間もなく東京で開かれる世界陸上でも日本のエースとしての活躍が期待されている。
だが、今年に入り太もも裏の故障で出遅れる。なんとか復帰したものの、5月のセイコーゴールデングランプリでは同じ箇所に違和感を覚え、スタート直前に棄権。その後ヨーロッパを転戦するも、結果が出ない。さらに股関節のけがが追い打ちをかける。
本拠地のアメリカに加え、オランダやイタリアでの試合にも同行取材。いずれも平凡な結果に終わるが、本人は泰然としているように見えた。「一歩一歩ギア上げていければ、焦る必要はないと思う。やるべきことを自分のペースでやるだけ」
世界と戦うには9秒8台が必要となるが、そのための課題は見えている。中盤での加速だ。そこで、あの大谷翔平も取り入れているという走力のデータ測定機器を導入した。機器に引っ張られて走ることで、速い速度で走ったときの動きを身体に覚え込ませる。驚くのはその数値。秒速12m、100mに換算すると8秒3で走りきる速度だという。限界を超えた練習をしなければ、世界の頂には到達できない。
その才能を世に知らしめたのは高校2年の時。世界ユース選手権100mで、ウサイン・ボルトが持っていたユース記録を破って見せた。さらなる高みをめざし、卒業後には陸上の本場、アメリカへ渡ることを決意。世界各国の金メダリストたちが集うチームでしのぎを削り成長を求めてきた。
そんなサニブラウンには大切にしているものがある。一つは、海外を転戦する際に欠かせないという「携帯洗濯機」。もう一つは、将来を担う子どもたちだ。
どんなに強い負荷をかけた練習後でも、競技場にファンが集まっていれば1人1人に対応する。競技の合間を縫って小学校を訪問しては、生徒たちに早く走るコツを伝授する。
「スポーツはファンがいなければ成り立たない。子どもたちにやっぱりいちばん元気になってもらいたいし、これから陸上界ないしは日本を支えていく人たちになると思うので」。
夏以降、中国や日本での調整を経て、大一番に臨む。100m走を"ただの駆けっこ"と表現する26歳の視線は、ゴールテープのその先も見据えている。

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