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三代目 山口昌男
・四代目 山口太郎山口理容店Vol.1364
昭和 100年目の夏 #2
1世紀の時を刻む葉山の名物理容店
息子から父へ いま伝える“覚悟”
海と山に囲まれ、皇室ゆかりの別荘地としても知られる神奈川県・葉山町。
その一角に、昭和の佇まいを残す一風変わった店がある。その名も「山口理容店」。後継者不足で廃業する同業が多い中、105年もの間、地元で愛されてきた。暖簾をくぐれば、そこは令和とは思えない世界。開業当時から時を刻む振り子時計や彫刻のあしらわれた木製の鏡台、建具などには、歳月の風格が滲む。
切り盛りするのは3代目店主の山口昌男(78歳)と長男で4代目の山口太郎(32歳)。
長い歴史もさることながら、この店の特徴は独特なサービスにある。ただ髪を切って帰るだけの場所ではなく、提供するのは「究極の癒し」だ。
散髪、シャンプー、顔剃り、ヘッドスパ...一連のサービスを驚くほど丁寧に施し、1時間以上かけることもある。もちろんお客は皆、気持ちよさそうな顔で帰っていく。
昌男は、トレードマークの作務衣姿で店に立つ個性派。2代目から店を継ぎ、新たな顧客獲得のためにと、カットだけでなくリラクゼーションにも力を入れてきた。美容師の資格も取り、小学生から女性客まで多様なヘアスタイルを手がけている。昌男との気の置けない会話を楽しみに、長年足繁く通う地元の人は多い。
父の背中を見て育った太郎も、カットに加えてやはり独自の技術で勝負するため、整体やタイ古式マッサージなど他ジャンルのリラクゼーションを学んできた。今年5月にはマッサージの世界大会に唯一、理容師として出場し、総合優勝を果たした。
ジリリリと店に鳴り響く懐かしい黒電話で常連客の予約を受けながら店に立つ父と、店や理容の魅力を発信しようと国内外を飛び回る息子。そんな二人の間には、そこはかとないライバル心もうかがえる。
幼い頃から昌男の仕事ぶりを見て育ち、物心つく頃には理容師を志していた太郎は言う。「ここしかないんですよ、僕。山口理容店しか。僕の人生なんですよ」
ある日太郎は、店主でもある昌男に「話がある」と切り出した。それは店のことを何よりも大事だと考える太郎が伝えたかった覚悟だった。
昭和が息づく店で繰り広げられる、親子の営みを見つめた。
PROFILE
山口昌男(3代目)
1947年生まれ。10代から2代目のもとで働き、理容師としてのキャリアは60年を超える。
30歳の時に美容師の資格も取得。その腕の評判は高く県外や海外からも客が訪れるという。
趣味は休日に出かける葉山の海での釣り。
山口太郎(4代目)
1992年生まれ。山口家の一人息子。高校卒業後に専門学校で理容師の資格を取得。その後、都内の理容店で修行を重ね、横須賀の米軍基地内などで腕を磨いた後、コロナ禍を機に実家の店へ戻り営業を始めた。趣味は幼い頃から続けるピアノと筋トレ。
店は1920年に昌男の祖父が開業。店内には開業当時からの調度品が多く残されるほか、昌男が収集した3,500枚以上のレコードやCDが並び、来店客に応じてかける音楽を決めているという。
太郎が2022年から始めた店のYouTubeチャンネルでは、施術動画が「心地良い音」「癒される」と人気を博し、再生数は軒並み100万回超え。最近では動画を見た海外からのお客も少なくない。2025年5月には「MCWTマッサージ選手権ワールドツアー」で太郎が総合優勝を果たし話題となった。
構成:田代裕・重乃康紀
ナレーター:窪田等
ディレクター:原佑基
撮影:武井俊幸・井手口大騎ダグラス・青木星弥
音効:中嶋尊史
編集:渡辺陽子
制作協力:ドキュメンタリージャパン
プロデューサー:沖倫太朗・新津総子・渡邉美幸・押田幸
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