「食べることは、怖くない」
公立小で挑む とっておきの給食
ここ数年で、給食の食べ残しが実に9割近くも減った小学校が都内にある。立役者は学校の栄養士、松丸奨。好き嫌いのある子どもも多い時代にあって、異例のことだ。
生活は給食を中心に回る。
早朝5時半。松丸は誰よりも早く出勤し、翌月分の献立作りにとりかかる。限られた予算の中で、決められた栄養価と食品群の組み合わせに頭をひねる。
8時半になると、学校には出汁の香りが広がる。それも作戦だった。「まだ眠い朝でも、出汁やニンニクの香りがしてきたら、今日のメニューは何かなって楽しみになりますよね」
生まれる給食は、「普通」ではない。
鶏ガラと豚骨、そして鰹節、サバ節、昆布、さらに野菜を加え3時間出汁をとった本格ラーメンに、パンの上からビスケット生地をのせた「ビスキュイパン」、コーンフレークを衣にして鶏肉を揚げた「フレーフレークカツ」。"映える"見た目と、キャッチーなメニュー名が子どもたちの好奇心を刺激する。
調理員と連携をとりながら配膳の直前まで味の調整を欠かさない。美味しさはもちろんのこと、食べやすさ、配膳のしやすさも考えられた給食には、彼の思いが込められていた。
「食べることは怖くない、楽しい。そういうふうに思えたら、この先も友だちや家族との関係性もうまくいくかもしれない」
自身が小学生だったころ、給食に救われたことがある。だから、栄養士を目指した。
2013年には、日本一の学校給食を決める「全国学校給食甲子園」で頂点に立った。男性が優勝したのは初めてのこと。以来、これまで10冊以上の本を出版し、給食の予算や環境の異なる全国から、講演会にも招かれるようになる。
帰宅してもいつも新メニューの試作。キッチンで成功しても、いざ600人分を作ると、うまくいかないこともある。そんなときはまた改良。熱心さが高じて、自宅に業務用のオーブンまで備えてしまった。
全力投球で給食に取り組む姿は、ハッキリ言って尋常ではない。なぜここまで情熱を注ぐのか? 稀代の栄養士には、胸に秘めた思いと子どもたちを夢中にさせる仕掛けがある。
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