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2025年05月04日(日) 放送分

土屋慶典焼き鳥料理人
Vol.1351

常識にとらわれない驚きの「手羽先」
独学で切り拓いた異次元の鳥づくし

高原のリゾート地・軽井沢の食のシーンは、めまぐるしく進化している。
予約が数か月先まで埋まるレストランが次々と誕生。
舌の肥えた別荘族や美食を求めて訪れる人々をうならせる店が、この地に根づいている。
その中でも今、ひときわ注目を集める店がある。土屋慶典が5年前に開いた焼き鳥店「鳥嵩」だ。土屋は、日本のソウルフードを、誰も想像しなかった形に昇華させ、軽井沢を訪れる美食家たちを虜にしている。
代表作は、「手羽先」。本来、焼き鳥の「手羽先」といえば、手づかみで骨にしゃぶりつきながらむさぼるワイルドなイメージだが、土屋は骨そのものを抜きとり、奇想天外な一品を誕生させた。骨を抜くと、肉の内側にスキマができる。土屋は、その空間を生かして、身からとけだすコラーゲンや肉汁をとじこめた「小籠包」のような斬新な焼き物をつくりあげた。しかも、オススメは「ワンポーション、ひと口で食べる」こと。ほおばると、口の中で一気に濃厚な鶏スープがほとばしる。驚くほど繊細な味わい。これが焼き鳥なのか――誰もが思わずつぶやいてしまう。
肉の仕込みも、焼き鳥の常識を根底からくつがえすものばかり。取り寄せた鮮度抜群の肉を、いきなり水でジャブジャブ洗いだす。「おふろに入れてあげるイメージなんです」1つ1つの工程に、妥協のないこだわりと、誰もマネできない創意工夫が詰まっている。
メニューはコースのみで、前菜から締めのお茶漬けまで約15品鳥づくし。店を開ける3時間前には炭をおこし、わずか1串に30分以上かけて焼き上げるものもある。炎と煙にまかれながら猛然と焼く姿は、さながらイリュージョンのよう。リピート率8割を超え、わずか5年で予約のとれない店になった。
しかもこの男、人生も常識をこえている。高校には行かず、有名店で修行もせず、己の舌と経験だけを信じ日々、料理に磨きをかける。「完成って、たぶんないかも。きょうより明日の方がおいしいと思う」。異次元の焼き鳥に挑みつづける男を追った。

PROFILE

1979年、長野県旧望月町で生まれ、御代田町で育つ
19歳からイングランドハウスウィンザー(フレンチ)で料理を学び始めその後、和食に転向
2008年、軽井沢駅前の居酒屋で焼き鳥を始める
2013年~軽井沢の寿司店で働き、のちに焼き鳥店で店長を務める
2020年3月、「鳥嵩」開業

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