「映像」シリーズでは、21年9月放送の「学知と骨」で、人類学者により琉球・沖縄の墓から遺骨が持ち去られた問題を、また22年7月放送の「骨は誰のものか」で、北海道のアイヌ遺骨が同様に持ち去られた問題を伝えた。こうした行為は、鹿児島県の奄美群島でも行われていた。その数は267体、なぜ、これほど大量の遺骨が収集されたのか?
奄美大島に住む元新聞記者の原井一郎さん(72)は、2018年、奄美での遺骨持ち去りの事実を知り、その経緯について調査を始めた。1933年から35年にかけ、島から遺骨を持ち去ったのは、人類学者で京都帝国大学講師の三宅宗悦。日本人のルーツを探るため、日本の「外地」とみなす地域で遺骨を収集し、その特徴を分析するためだった。しかし、島民の意に沿わないかたちで持ち去られた遺骨もあり、現在、これらの遺骨は京都帝国大学を引き継いだ京都大学が収蔵している。原井さんは、奄美の遺骨返還を求める団体を立ち上げ、京都大学に対し遺骨の返還を求めている。しかし、大学側は遺骨の存在自体は認めたが、「詳細は調査中」として返還に応じていない。番組では、遺骨の持ち去り現場を訪ね、90年あまり前に何が起きたのかを記録に残すとともに、奄美の一般島民の遺骨への向き合い方をとおして、人間の死と生のあり方について問いかける。
月1回、それも日曜日深夜の放送という地味な番組ながら、ドキュメンタリーファンからの根強い支持を頂いており、2020年4月で放送開始から40年になります。
この間、番組は国内外のコンクールで高い評価を受け、芸術祭賞を始め、日本民間放送連盟賞、日本ジャーナリスト会議賞、更にはテレビ界のアカデミー賞といわれる国際エミー賞の最優秀賞を受賞するなど、輝かしい成果を上げてきました。また、こうした長年にわたる地道な活動と実績に対して、2003年には放送批評懇談会から「ギャラクシー特別賞」を受賞しています。
これからも「地域に密着したドキュメンタリー」という原点にたえず立ちかえりながら、より高い水準の作品をめざして“時代を映す”さまざまなメッセージを発信し続けてまいります。